小売業基幹システム入れ替え失敗の共通点

KEYWORD :
小売業 小売業基幹システム 

小売業の基幹システムは、言うまでもなく業務運営の根幹を担っているシステムであり、分析系システムのように一部の管理者層のみが利用するシステムとは違い、全業務従事者のみならず取引先や、ひいては来店顧客を含めて広範囲の関係者がなんらかの形で影響を受けるシステムです。したがって、入れ替え失敗時には広範囲に影響を及ぼすことが多く、被る被害も甚大ですので、成功裏に稼働させることが企業としての至上命題であることは論を待たないです。今回は、過去の失敗を学び、同じ過ちを繰り返さないよう、小売業基幹システム入れ替え時の最重要施策立案の一助にすべき項目をご紹介します。

小売業基幹システム入れ替えを商品購買と同じ扱いにしてしまう

小売業基幹システムを入れ替えるということは、同時に過去から引き継いでいる現行業務の棚卸を行い、必要性の有無や実行の価値の見直しを行うことです。ゆえに、昭和時代のシステムリプレースのように、ハードウェアを入れ替えてから業務内容の洗い出しを行ってプログラムを作成する、というどちらかと言えば商品購買に近い行動とは違います。商品購買では検討対象を複数選択し、それらが持つ機能と操作性、価格と将来性を検討して選択しますが、小売業基幹システム入れ替えにおいては、基本となるパッケージ・ソフトウェアを受入側、つまり小売業の店舗や本部の従業員が使えるか否かの検証が必要になります。つまり、商品購買では一部の購買担当者が購買の意思決定に携わり、導入稼働時も一部関係者のみが関与することになるのですが、小売業基幹システム入れ替え時のパッケージ・ソフトウェア検討に関しては、企業のIT部門従事者のみが携わるのではなく、経営層は全社的な貢献度の正否、本部従業員は生産性向上の有無やロジスティックへの支障がないことの検証、店舗従業員は実行作業削減の有無や操作の容易性の判定に関わり、全社的かつ総合的に判定することが必要です。しかしながら、IT部門以外の従業員は、非専門分野であることを理由に検討や判定に腰が引けていて、悪くは購入決定後に、最悪な場合は稼働直前に操作不能を申し出るという愚挙に出ることがあります。

 

昨今の小売業基幹システム入れ替えでは、パッケージ・ソフトウェアを極力変更せず導入することが最良と言われています。検討に際しては、パッケージ・ソフトウェアをそのまま利用する方法を、十分な時間と社内外の関係者を可能な限り多く投入して模索しますが、間違っても現行業務に合せた仕様を追加・変更開発しないことが重要です。日米の小売業労働生産性に関して日本側の低生産性が指摘されますが、小売業基幹システム入れ替えに関しても、米国ではパッケージ・ソフトウェアの想定業務に合せて業務内容を全面変更しています。このことが、米国小売業の高い人時生産性つまりは労働生産性の一因と言えるでしょう。

 

このように、小売業基幹システム入れ替えに関する一連の作業は商品購買と違い、自社に合うものを選んで必要に応じて商品側に変更を加えるのではなく、自社の発展に貢献できるパッケージ・ソフトウェアを選定して、自社の業務をこれに合せて変更することが失敗しない為の重要施策です。

小売業基幹システム入れ替えに関してIT部門の顔色をうかがってしまう

小売業基幹システム入れ替えに関する候補列挙と選定作業に関して、IT関連技術の理解度が低いことを理由にして、経営者から管理職、さらには現場担当者までがIT部門の顔色をうかがって、最悪な場合は言いなりになることが見受けられます。そもそも小売業基幹システム入れ替えは「○○な企業にしたいからこんなシステムを利用したい」を決めることから始まるのですから、IT部門が主体となるのではなく、経営層は大所高所から長期的な視点で、管理者層は組織パフォーマンスの向上に利する中期的な視点で、現場担当者はお客様へのサービスレベル向上の短期的な視点で意見を出し、IT部門はこれらの意見を取りまとめてITベンダーとの橋渡しをするべきなのです。IT部門が優秀であれば、日常の業務を遂行している中で社内意見の多くを理解できていることもありますが、それができていない企業のほうが多いのが現実です。したがって、小売業基幹システム入れ替えの時には改めて情報収集を実施する必要があるのです。

 

まずは「○○な企業にしたいからこんなシステムを利用したい」に関する意見を社内外から広く収集します。もちろん全てが実現できるわけではなく、できないことや、できなくはないが費用に問題が発生することもあるでしょう。これを社内専門家であるIT部門と社外専門化であるITベンダーが、予算や開発期間の制約に折り合いをつけ、重要度を考慮し優先順位を付け、小売業基幹システム入れ替えの全体図を作成して、社内の理解を得て承認され、初めて開発が実行されるのです。以上のことから、小売業基幹システム入れ替えに関して意見を出す時は、IT部門ましてやITベンダーの顔色をうかがうことは御法度であることを分かっていただけるのではないでしょうか。

chains1chains2

小売業基幹システム入れ替えを担当するPMの知識不足

20世紀では、小売業基幹システムは小売業の社内IT技術者が、コンピュータメーカーSEの支援を受けて構築していました。21世紀では、技術レベルが高度化したのみならず、IT化対象業務範囲も極めて広範囲になったので、一部の小売企業を除いて、大半の小売企業がITベンダーの作成したパッケージ・ソフトウェアを採用して利用しています。当然のように小売業基幹システム入れ替えの際には、パッケージ・ソフトウェアを作成したITベンダーの技術員が小売業基幹システム入れ替えのプロジェクトマネージャー(以下PM)として携わります。小売業基幹システム入れ替えにおいては、PMが持つべき資質の中でも特に小売業界のIT化に関する知識を豊富に持つことが要求されています。

 

20世紀には、小売企業内の職人的IT要員が要件と機能、予算とスケジュールを決めてITベンダーに依頼し、PMは言われたとおりに作ることに専念していました。しかしながら、小売企業内の職人的IT要員の領域には深入りしない、古き良き時代のPM像のような構築は、最早通用しなくなっています。21世紀では、小売企業内の職人的IT要員はすでに引退し、補充もされておらず、IT部門はユーザー部門の意見取りまとめ役になっていることが多く、思い付きと思い込みの希望を列挙しているに過ぎないのです。このような状況下でPMの果たす重要な役割は、希望内容に優先順位を付けて要件と機能を定義し、予算とスケジュールの制約を順守するために新たな要求をトレードオフすることです。この役割を果たすためには、他社事例等の小売業基幹システム入れ替えに関する知識が重要なのです。

 

小売業側の要望は論理的ではなく、実現可能な裏付けもないことが多く、組織全体の取りまとめをしていることは少なく、小売業基幹システム入れ替えにおいて“成すこと、成さざること、成さねばならぬこと”を小売企業は知らないのです。PMが陣頭指揮を執って役割を果たさなければ立ち行かなくなります。ゆえにPMは小売業基幹システム入れ替えに関する深い知識を持っていることが前提と言えるでしょう。

小売業基幹システム入れ替え失敗(リプレース失敗)の共通点 ~まとめ~

小売業基幹システム入れ替えの失敗事例から避けるべき行動を取り上げました。(入れ替えのことをリプレースとも呼びます)小売業基幹システム入れ替えは、企業経営において発生する諸事項に比類ない活動です。

小売業基幹システム入れ替えにおいては、小売業基幹システムの統合化された最新機能を搭載したパッケージ・ソフトウェアを極力カスタマイズせずに、①業務や運用をパッケージ・ソフトウェアに合せて利用すること、小売業経営者から管理職、さらには現場担当者の「○○な企業にしたいからこんなシステムを利用したい」という意見は②IT部門やITベンダーに遠慮することなく述べること③小売業基幹システム入れ替えに関する深い知識を持っているPMがこれら意見のトレードオフを主導すること で失敗を防ぐことができるのではないでしょうか。

 

2020/10/21