小売業において基幹システム刷新が目指すもの

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小売業 小売業基幹システム 

蒸気機関による産業革命、電気普及と高度経済成長は、世界や我が国を非連続的な変化に誘導しました。そしてデジタル革命のIoTは、蒸気機関や電気普及以上に世界を全く違う景色に誘うと言われています。経済産業省が発表したDX(デジタル・トランスフォーメーション)レポートには、「我が国の企業においては、ITシステムが、いわゆる『レガシーシステム』となり、DXの足かせになっている状態が多数みられるとの結果が出ている(レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム、と定義している)。」と記述されています。更に、レガシーシステムは各事業の個別最適を優先してきたために、企業全体の最適化が疎かになり、事業システム間連携が複雑になり、全社最適に向けた利用が困難になってしまうこともDXレポートは指摘しています。こちらでは、レガシーシステムの手直しや機能の継承という小売業基幹システムを刷新しない場合の弊害を再確認し、小売業基幹システムを刷新することにより得られる成果(果実)と、そして小売業基幹システムの刷新が目指すものを提唱します。

小売業基幹システムを刷新しない場合の弊害

小売業基幹システムは、『レガシーシステム』であっても現状は問題なく稼働しているため誰も困っていないと経営者は認識しているケースが多く、実態を把握しているIT担当者は、薄氷を踏む思いで日々戦々恐々としていることでしょう。また、経営者は改修が必要な部分だけに投資する方が安全かつ効率的という間違った考えを持っている割合も多いです。今後もこのような部分改修で対応すると、先にも記述したように、現行の小売業基幹システムにおいて事業部の個別最適化を優先したために、全社的なデータ収集と情報管理でただでさえ複雑な小売業基幹システムは、益々複雑化してしまいます。

 

また、事業部毎のシステムを独自に開発しているので、システムの仕様を知る社内IT技術者が限定的であるのみならず、高年齢化による離脱で現行の小売業基幹システムがブラックボックス化してしまい、長期的な保守費や運用費が高騰してIT関連費用の大半(DXレポートは80%と記述しています)が費やされ、戦略的なIT投資に資金や人材が振り向けられなくなっているのです。更に、金銭的な問題のみならず、ブラックボックス化した小売業基幹システムに対する改修は、システム障害による業務停止リスクが大きく、事業運営に与える影響も少なからず発生します。その上に好むと好まざるとにかかわらず、重要製品のサポート中止により、現行の小売業基幹システムの継続利用そのものが困難になります。かたやシステム関連人材枯渇に対処するために、先進的な技術を学んだ若い人材を充てても、老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化したシステムのメンテナンスといった魅力のない業務に嫌気がさして離職してしまいます。つまり、欧米のように小売業基幹システムを刷新し、現行業務をも改善して、部分最適、個別最適から全社的全体最適に変化を遂げなければ、生き残ることすら不可能になります。

小売業基幹システムを刷新する場合に得られる果実

もちろん小売業基幹システムの刷新には莫大なコストと時間を要するのみならず、経営に対する多大なリスクが発生することは避けられません。しかしながら、前章で記述した刷新しない場合の長期的な弊害と比較した場合には、刷新する選択肢が事業継続には欠かせないことがご理解いただけるでしょう。更に、小売業基幹システム刷新により、長期的に高騰する運用費や保守費を支払い続ける「技術的負債」(Technical Debt)を解消し、人材・資金を維持・保守業務から新たなデジタル技術の活用にシフトチェンジ出来れば、IT投資の効果を増加させ、全体最適を追求する過程で業務の大幅な効率化が実現できます。過去に事業部単位で部分最適を求めて作成された小売業基幹システムは、結果として属人的な機能であることが多く、本来不要な業務を包含しているので、小売業基幹システムの刷新では要不要を大胆に判断して、必ず実行する業務以外は廃棄する重要性を肝に銘じて、業務を廃棄しても問題がないように設計し、業界の標準化に準拠した高効率な業務へ変革します。小売業基幹システム刷新を行うことで、全社的なデータ収集と情報管理が可能になり、経営状況の即時的な可視化と的確な経営判断のスピードアップと迅速な管理レベルの向上が実現できるのです。これらの果実を、小売業基幹システムを刷新した企業が得ることで、グローバル展開への対応が可能になり、デジタルネイティブ世代の人材を中心とした新ビジネス創出へ船出することが出来るのです。

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小売業基幹システムの刷新が目指すもの

小売業基幹システムの刷新が目指すものを思索する時に、世界的な構造変革をもたらすDXを無視することはできず、DXレポートは「企業が生き残るための鍵は(中略)ITを強力に生かせるかにかかっている」と記述しています。DXを小売業基幹システムの刷新に当てはめると、外部エコシステムである消費者やお取引先、取引の形態が破壊的に変化するので、過去からの主要顧客である来店客は、来店時に陳列商品を見て購買の意思決定を行う行動から変化し、来店そのものをせずネットを利用して購買します。お取引先との関係も商談はネットを介して行い、商談履歴をデジタルで自動的に残して管理者が閲覧して管理することが主流になり、取引もメーカーとの直取引や生鮮品の場外取引が流通量の大半を占めるようになるでしょう。内部エコシステムである組織や従業員も変化し、何でもするが全てが不完全な店舗従事者組織から、教育と試験制度が充実して従業員ごとに完全作業ができるように定義され、人に仕事をさせる現在の作業割当から必要な作業に資格と能力を有する従業員を当てはめる方式に変わるでしょう。

 

そもそも生鮮品等はセンター化により店内加工が無くなり、商品陳列も段ボールを開封して置くだけで遜色ない陳列が出来るようになり、作業工程削減による生産性向上が推進されました。我が国の小売業従事者報酬は現在の大手製造業や金融業並に上昇するので、魅力的な業界になって優秀な人材確保が容易になります。小売業基幹システムの刷新は、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ・アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面の顧客サービス提供の変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性確立を目指すのです。そしてDXに沿った小売業基幹システムの刷新は、あらゆるビジネスモデルの変化にも迅速に追従でき、新しい小売業基幹システムがレガシーシステム化しないように、刷新の目標設定を経営者、事業部メンバー、情報システム部門メンバー等のステークホルダー間で共有しながら不要な機能を廃棄し、規模と複雑度の軽減を図ることを目指すのです。そして、協調領域については、個別企業が別々にシステム開発するのではなく、業界に多くの導入実績を持つパッケージ・ソフトウェアを利用して早期かつ安価にシステムの刷新を目指すのです。

小売業基幹システム刷新 まとめ

レガシーシステム化した小売業基幹システムを使い続けることは、企業の未来を棄損するので一刻も早い刷新が必要であることはご賛同いただけると思います。小売業においては、ジェフ・べゾスが1994年に創業したアマゾンが多くの名立たる小売企業を駆逐し、売上規模において1945年に創業したウォルマートをすぐ後ろから追っているのです。言うまでもなくアマゾンはIT企業以上にIT投資をしており、これはウォルマートも同様で両社のIT投資は1位と3位で2位がアルファベット(Google)です。これら企業のIT投資は保守費や運用費ではなく、産業構造を変えるDXに向けられています。わが同胞企業の中にも、小売業基幹システム刷新を通じてDXに取り組んで成功し、社会から評価されている企業があります。今までのようにシステムが成功裏に稼働したかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価されるようになるのです。この為には、失敗を恐れず小売業基幹システム刷新に邁進するしか手はないのです。

 

2020/10/29