小売業向けECR戦略に基づく具体例と施策を解説!

小売業向けECR戦略に基づく具体例と施策を解説!

収まる気配が見えない人件費を始めとした諸物価の高騰は、過度な残業を強いた物流・運送業界の労働環境改善を誘導しました。政府や行政が率先して改善しようとする取り組みは法改正に現れたので、小売業がリードするサプライチェーンのリエンジニアリングが必要不可欠になっています。

 

日本の小売業は米国を真似て発展してきましたが、サプライチェーンのリエンジニアリングは、未だに学べども真似ていないのです。米国小売業のリエンジニアリングはアパレル業のQR(Quick Response)が先行し、食品小売業が効率的なシステムとして開発したのがECR(Efficient Consumer Response)でした。

 

米国の流通業企業で成果を出したQRやECRのリエンジニアリングですが、業界全体に普及することなく現在に至っているので、イメージ把握が困難です。そこで、ECRの具体例を紹介した論考で、物流業界の大問題がキッカケとなったサプライチェーンの潮目を乗り切るECRを解説します。

ECR再考 施策の具体例

今をさかのぼる四半世紀前に、米国コンピュータメーカーのセールスであった筆者は米国流通業界の先進事例として紹介されたECRを知りました。日本の小売業も採用すれば効率が向上し、生活者に対する販促も効果が向上すると思ったのです。ECR普及の一端を担えれば、スーパーマーケットを始めとした日本の小売業における業務の効率化を通じたローコスト・オペレーションの実現と扱い商品のロー・プライスに貢献できると心躍らせたのでした。

 

残念なことに、その頃の日本はバブル崩壊の苦境に喘いでいた時期でしたが、雇用は維持されていたので小売業への影響は軽微でした。よって、日本では旧来のやり方を改善するのに躍起になり、自社内のリエンジニアリングを優先し、サプライチェーンのリエンジニアリングには手を出しませんでした。この時に採用された施策は、本来はECRの1分野であるカテゴリー・マネジメントを支援する顧客購買分析であり、CRM(Customer Relationship Management)のOne to OneマーケティングやFSP(Frequent Shoppers Program)のRFM(Recency、Frequency、Monetary)などだったのです。つまり、全体最適どころか部分最適のローコスト・オペレーションでもなく高コスト体質に流されたのでした

 

グローバリゼーションが世界経済を席巻し、政経分離の幻想により発達した現在のサプライチェーンは、地政学上の緊張により国家安全保障を無視できなくなりました。つまり、サプライチェーンの潮目が大きく変わったのです。

 

今こそ、流通全体のリエンジニアリングを実現するECRの積極的採用が、サプライチェーンの全体最適を実現し、EDLC(Every Day Low Cost)への取り組み成果を通じたESLP(Every Day Same Low Price)を達成できます。そうすれば消費者重視の経営を伴う、低価格と高収益な企業に生まれ変わります

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ECR戦略の具体例1 ESAとは

ECRには製配販(メーカー、卸売、小売)が協働して生活者ニーズに敏感なシステムを構築し、最低限のコストで生活者満足度を最大限にするための戦略が4つあります。

 

一つ目がESA(Efficient Store Assortment)であり、『効率的な品揃え』と訳されます。

 

ESAは、POSレジから収集する商品販売実績やID-POSと称される顧客購買履歴情報をデジタル蓄積し、季節や天候、プロモーションなどのコーザル・データと合わせて、総合的に分析した上で棚割を決定する戦略です。その後の継続的なモニタリングを通じて、店舗が対象とする生活者にとって最適な品揃えを実現しようとします。

 

ESAの具体的な施策の一つにカテゴリー・マネジメントがあります。カテゴリー・マネジメントとは、消費者に対する付加価値の提供を目的として、小売業と卸売業さらに製造業が共同で実施するカテゴリー単位の戦略立案プロセスです。カテゴリー・マネジメントは単なるコンピュータのアプリケーションではなく、カテゴリーの定義は戦略実現の単位であり、小売企業の売り場づくりの考え方に則して設定しますが、一般的な商品分類の様なバイイングの都合から離れ、生活者の購買に関するTPOS(Time Place Occasⅰon Style:時・場所・動機・流儀)を反映しなければなりません。

 

ESAの具体的な施策には店舗別スペース・マネジメントがあります。フロア・レイアウトや棚割の計画・管理をデジタル化して、POSレジから収集する商品販売実績と合わせて棚効率を最適化します。

ECR戦略の具体例2 EPSとは

3つ目がEPI(Efficient Product Introduction)であり、『効率的新商品開発』と訳されます。

 

EPIは、新商品導入に関する無駄なコストを省き、より生活者のニーズに沿った商品開発を実現しようとする戦略です。

 

マーケットの拡大に貢献する商品(食品や日用品で5%程度)の開発・導入にかかるコスト(全売上高比4%程度)を考慮し、製配販が情報を共有して新商品の開発や市場テストを共同で行います。このような活動により失敗を減少させ、より価値の高い商品提供を目指します。

 

EPIを成功させるためには、製配販の共同商品開発の仕組みが必要であり、リアルタイム商品テストの結果やFSP(Frequent Shopper Program)から提供される常連客の購買有無、さらに個々の来店客の購買情報等の共有が求められるのです。

 

ECR戦略の具体例4 ERとは

4つ目がER(Efficient Replenishment)であり、『効率的商品補充』と訳されます。

 

ERは、実績情報に基づいて販売計画を作成し、単品ごとに需要に見合った数量を補充発注しようとする戦略です。

 

POSやEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)、CAO(Computer Asisted Ordering:コンピュータによる発注支援)等のITと、クロスドッキング等の物流システムを組み合わせCRP(Continuous Replenishment Program:自動連続補充発注システム)の構築を通じて、供給側である製造業や卸売業と受入側である小売業の双方ともに無駄な在庫を持たないようにします。

 

また、小売側からの情報提供により、供給側が在庫をコントロールする仕組みをVMI(Vendor Managed Inventory:供給側主導型在庫管理システム)と呼びます。単品レベルの情報量が格段に多い供給側企業が店舗の在庫をコントロールして効率を高めます。

 

米国において開発されたECRは、雑貨品のディスカウントストアだったウォルマートが、食品も扱うスーパーセンターを開発して急速にマーケットシェアを上げるのに対抗するために作り出されました。しかし、食品を扱う競合他社がECRへの取り組みに躊躇したので、ウォルマートの台頭を阻止できなかったのです。今回は論説できなかったウォルマートのECRへの取り組みは次回の記事でご紹介いたします。

 

ECR志向の商談ツール

テスクが販売している「商談.net」は小売・卸・メーカーが協働するECR志向を持つ、Web商談システムになります。

物価・電気代などが高騰し、小売業単独の努力だけでは利益確保が難しい中、サプライチェーン全体で協働し、商談の効率化を実現することで販管費を抑え、在庫や販売情報を共有することで過剰在庫や廃棄ロスを低減することを目指すことができるツールとなっています。

簡単に製品を紹介している「ダウンロード資料」も紹介してますのでよろしければご覧ください。