リベートの現在・過去・未来

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小売 学び 

リベート制度は日本の流通業界特有の制度であり、その複雑さは卸売企業や小売企業による商品の原価把握を困難にし、商品の実質荒利計算に支障を与えています。企業内教育を受けている営業職の学生Xくんと、小売業に関する講師Y教授のやり取りから、リベートに関する現在・過去・未来について、学んでみましょう!

リベートとは?

営業職の学生Xくん:先生。ちょっとお時間を頂いても宜しいでしょうか?

Y教授:誰かと思えばXさんか。次の講義まで1時間ほどありますが、改まって何ですか。

営業職の学生Xくん: 実は、今日ドラッグ・ストアチェーン企業を訪問したのですが、ドラッグ業界ではリベートが横行していて商品の実質原価が把握できないと仰っていました。そもそも、商品の実質原価が判らないだけではなく、メーカーから入金されるまでリベート額の確定ができないので、経営会議で利用する利益資料は過去の実績で概算値を出さざるを得ないと仰っていたのです。リベートと言うのはそんなに複雑な制度なんですか?

Y教授:君は業界の琴線に触れることを聞いてきました。折角だから時間が許す限り話をしてあげよう。リベートの成り立ち、すなわち過去から理解しないと良く解らないのです。

リベートは、メーカーが力を付けてきたから始まった

営業職の学生Xくん:いいえ先生。今がどうなっているのかと今後どうなるかを手っ取り早く教えて欲しいだけなんですけど・・・。

Y教授:またいつもの悪い癖が始まりましたね。現状の理解や、ましてや今後がどの様になっていくのかは、成り立ちを理解しないとダメなのです。諺にも「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」と言うでしょう。とにかく、君は「手っ取り早く」が多いから浅知恵が多くて結局はいざという時に使えない知識が多くなるのです。

営業職の学生Xくん:浅知恵とはいつもながら厳しいご指摘ですね。わかりました、今回は教授の仰る通り腰を据えてお話拝聴いたします。

Y教授:棘のある言い方は気になりますが、素直で宜しい。時代は遡ること1960年代つまり太平洋戦争の終戦後です。それまでは、江戸時代から続いていたメーカーや小売企業が小規模零細で、問屋(卸売企業)が比較的企業規模が大きく流通を支配していました。しかし、大量生産・大量消費の時代になり、メーカーが力を付けて商品流通の主導権を握ろうとしはじめたのです。どういうことかと言うと、大量生産・大量消費は大量販売が必須要件となるのですが、放っておくと小売業者は安値で販売しはじめるので、そのしわ寄せがメーカーに遡及し、利益確保が困難になりました。そこで、特約店制度と建値制を行ったのです。

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リベートは建値制と特約店制度の確立後になる

営業職の学生Xくん:初めて聞く単語ですが、特約店制度と建値制はどんな内容でしょうか?今でも機能しているのですか?

Y教授:今は独占禁止法で規制されているし、小売企業が巨大になったので機能はしていません。特約店制度はメーカーが商品乱売を監視するために、商品により優先販売権を各地の有力問屋(卸売企業)に与えて、地域内で対象商品を小売したい時は仕入れる問屋が決まっていたのです。

営業職の学生Xくん:今でも商品によって問屋は決まっているのではないですか?

Y教授:確かに、今も対象商品に強い問屋が有って、小売企業はそこから仕入れることが多いですが、必ずしもその問屋でしか買えないことは無いのです。当時は特約店の問屋や小売店以外から買うことができず、現金で買い叩くような荒業を使って仕入れ、廉価販売を行うとメーカーは仕入れルートを調べて、すぐさま供給ルートを遮断して小売企業は商品を売れなくなってしまったんです。

営業職の学生Xくん:そんな嫌がらせを行うメーカーは、一部だけでは無かったのではないですか?

Y教授:そんなことは無いですよ。当時日本社会で一流企業として認められていた松下電器産業(今はパナソニックと言う社名になっています)という会社が、当時の小売の覇者ダイエーと争った「ダイエー・松下戦争」は有名な話です。ダイエーが松下電器産業製(当時のブランド名はナショナル)のテレビを「メーカー希望小売価格」の20%引きで販売したんです。その頃松下電器産業はメーカー希望小売価格の15%以上の値引き販売を認めておらず、たちまちダイエーへの出荷を停止したのです。ダイエーも全国の問屋を回ってナショナルのテレビを仕入れ、流通経路が判らないように品番を消して販売し続けたのですが、松下電器産業は隠し品番などの工作を施して流通経路を見つけ、流通を遮断しました。この対決を城山三郎 著『価格破壊』にはダイエーがアローと、松下電器産業が平安電気として書かれているし、NHKがテレビドラマ化しています。「価格破壊の旗手」と「経営の神様」の激突を名演出家「和田勉」が見ごたえのある経済ドラマに仕立てています。

営業職の学生Xくん:今のパナソニックが過去にはそんなことをしたのですね。ところで、唐突に「メーカー希望小売価格」が出てきましたが、それが建値なんですか?

Y教授:そうなんです。当時は実質的に再販売価格制度と同様の拘束力のある制度で、本音を公にすると独占禁止法に抵触するので、まやかしのような名前にしたのです。再販売価格制度とは、本やタバコのようにどこで買っても価格は同一である商品の販売制度を言います。本は著作権の印税保護を、タバコはタバコ税の確保を目的としているのでそれなりの理由が有りますが、テレビなどの場合は、結局はメーカーの利益確保のためなんです。

営業職の学生Xくん:建値制をもう少し詳しく教えて下さい。

Y教授:メーカー希望小売価格に対して、メーカーが卸売企業に販売する時、例えば50%などのように掛け率が決まっていて、卸売企業が小売企業に卸す時も60%などと掛け率が決まっているのです。つまり、売価が100円であればメーカーから卸売企業には50円で小売企業には60円です。大抵は大半の商品に一定の掛け率が適用されていました。そして、メーカーは小売企業が値引き販売をする時の値引き範囲も決めていたのです。

営業職の学生Xくん:何故、そんなにメーカーは強気の制度を押し付けることが出来たのですか?

Y教授:建前としては、価格を統制すれば、卸売企業も小売企業も適正な利益を確保でき、過当競争による利益なき販売から社会全体が守られるとしました。また、大量生産・大量消費時代には商品を扱っているだけで飛ぶように売れていたし、メーカーの企業規模が大きくなり、問屋や小売の規模は相対的に小さかったので、言いなりになっておいた方が楽して儲けることが出来たのです。いつの世も楽して儲かると碌なことは無く、メーカーに懐柔されていき、懐柔されてメーカーの言いなりになった卸売企業と小売企業は淘汰される道をたどることになるのですが…。

リベート制度は建値制の欠点を補う仕組み

営業職の学生Xくん:結局はメーカーの都合の良いようにするために建値制と特約店制度が成立した事は解りましたが、リベートはどうなったのでしょうか?

Y教授:建値制は少ししか売らない小売企業も大量に販売する小売企業も条件が変わらないし、ほとんどの商品が同じ掛け率なのでメーカーが特に売りたい商品を問屋や小売が力を入れてくれないので、大量に販売した小売企業に報いるために、また特に売りたい商品を売らせるためにリベート制が始まったのです。また、その頃になると小売企業の中からダイエー(イオンに吸収)やイトーヨーカ堂(セブン&アイ・ホールディングス)、岡田屋(ジャスコを経て現イオン)など大規模小売企業が出現して、大量販売の報酬をメーカーに要求し始めたのです。

営業職の学生Xくん:それでは、大規模小売企業に対しては建値制の掛け率を優遇したのですか?

Y教授:それでは、他の小売企業が納品伝票等を盗み見した時に納入単価が知られてしまい、その小売企業から同条件で納品するように要求されて、メーカーの出荷単価を全ての卸売に対して下げなければならなくなり、メーカーの利益が下がるので、納入単価はそのままにして後から色んな名目で補てんをしたのがリベート制なのです。

営業職の学生Xくん:納入単価を下げた方が単純なのでお互いに判りやすいと思うのですが、先生はどう思いますか?

Y教授:君の言う通りなのです。アメリカでは“ロビンソン・パットマン法”という法律で禁止されているのですが、当時も今も力を持つメーカーが「共存共栄」と言うもっともらしい道徳を振りかざして、納入単価にリベート等の条件を反映させること(ネット単価と言う)に抵抗し続けているのです。

営業職の学生Xくん:話しは元に戻るのですが、メーカーはリベートを計算して小売業に振り込んでいるにも拘らず、なぜ今日訪問したドラッグストアのように、小売企業はリベートの管理ができていないのですか。

Y教授:それはですね、各メーカーは小売企業が管理しにくいリベートを数百通り持っているだけではなく、頻繁に計算式を変更してパターン化しないのです。小売企業からするとメーカー1社当たり数百通りのリベート計算方法が各社によって違い、全メーカーのリベートを網羅しようとすると数千から場合によっては1万以上の計算式を頻繁に変えなければならないのでリベートを管理する事は困難なのです。

営業職の学生Xくん:それは大変ですね。あるプロジェクトの要件定義でパターン化できない仕様をシステム化するように要求したお客様担当者に対して、プロジェクト・マネージャーであるエンジニアが強く否定していましたが、同じことなのですね。

Y教授:それはそうなのですが、リベート管理をシステムとして管理することは不可能ではないのです。過去にはあるお客様のご要望によりリベートのほとんどを網羅したツールを作成したことがあります。その時には要件を詰めれば詰めるほど開発ボリュームが膨らみ、予算を大幅に超えるプロジェクトになったのですが、稼働後にリベート収入が増加し、単年度で開発投資額を回収することが出来ました。

営業職の学生Xくん:どういうカラクリなんですか?

Y教授:カラクリでも、種や仕掛けがあるわけではなく、達成型リベートを注意観察して、達成しそうな商品を多少無理して仕入れることによりリベートを多く確保したんです。

営業職の学生Xくん:達成型リベートとはどのような計算なんですか?

Y教授:一定額を仕入れるとリベート計算の率が上昇するのです。例えば商品Zを100万円以上仕入れると仕入額の1%をリベートとして返金し、500万円仕入れると2%をリベートとするのです。つまり、480万円仕入れた実績の時には、成り行きであれば4.8万円のリベートが返金されますが、意図して20万円追加で仕入れると10万円のリベートになり、20万円の仕入は実質15万円の原価になるということです。このような状態の商品をリベート管理システムから警告させるようにして、達成型リベートを確保したのでリベート額が前年比でリベート管理システム投資額を上回り、翌年以降も高い水準で推移するようになったのです。

営業職の学生Xくん:リベートには達成型以外にどのような計算方法が有るのでしょうか?

Y教授:主だったものでも、現金支払いに対するリベートや一定期間の仕入数量に対する達成型リベート、メーカーが自社商品の売場占有率を増すためのリベート、一回当たりの出荷量を基準にしたリベートなど数限りなく有ると言われます。

営業職の学生Xくん:他の企業でもリベート管理システムを稼働させればよいのではないですか?

Y教授:うまく行った企業のリベート額は管理前から多額であり、リベート管理システムの稼働による増加分も多額だったので単年度回収が出来たのですが、費用対効果は冷静に判断する必要があり、必ずしも全ての小売企業が同様になるとは限らないのです。良いパッケージ・ソフトウェアが開発されることを期待しましょう。

リベート制度の弊害

営業職の学生Xくん:お聞きしているとリベート制度を積極的に利用すれば、小売企業の利益に多大な貢献をする様に思えるのですが、先生はどの様に考えますか?

Y教授:確かにリベート制度は存在しているのが現実なので、放置して成り行きの結果を計上するよりは適切に管理する方が良いと思いますが、度が過ぎると経営に悪影響を与えます。例えば、前段で紹介したダイエーは経営が悪化しイオンに救済合弁されるのですが、経営悪化の原因の一つがリベートの悪用と言われています。

営業職の学生Xくん:ダイエーは一時日本小売業界では断トツの1位だったのですよね。では経営を悪化させたリベートの悪用とはどんなことですか?

Y教授:先程の達成型リベートを過大に確保すべく、売れる見込みの薄い商品を大量に仕入れて在庫を積み上げ、リベートを積み増して利益を上昇させた、言わば粉飾に近いことをしたのです。仕入れた会計年度はリベート収入が利益を押し上げたのですが、売れもしない商品が大量に在庫として残り不良資産化していったのです。

営業職の学生Xくん:リベートは恐ろしい面もあることが判りました。先生のお話を聞いているとリベート制度は悪い面が多いように思えるのですが、今後はどうなるとお考えですか?

Y教授:小売企業においてリベートに接する部署は主に商品部ですが、商品部のメンバーはリベートを今後は減らしたいと考えているようです。メーカー側は取引を有利に進めるために簡単にやめることは無いと予測しますが、独占禁止法の解釈が徐々に厳しくなってきているので、徐々には減っていくのではないでしょうか。とはいえ、しばらくは継続するので、なるべく単純化してメーカー毎に共通化し、リベート管理システムとして管理運用出来るようにすればよいと考えます。まだ、言い足らないことが有りますが、時間なので今日はこれくらいにしましょう。

営業職の学生Xくん:先生。ありがとうございました。

 

 

2020/11/24