LSPがローコストオペレーションに欠かせない理由とは?

KEYWORD :
小売 学び 

日本のチェーンストアは規模の大小を問わず、米国のチェーンストアからマネジメントやマーチャンダイジングの多くを学び実践し、多大な効果を享受してきました。巷には「もはや米国小売業から学ぶことなどない。」との意見がありますが、未だに労働生産性には大きな開きがあり、労働生産性の低い日本のチェーンストは低賃金であるがゆえに優秀な従業員が採用できず、産業として一流になることを阻んでいます。低労働生産性の主な原因はオペレーションコストの低減に対する取組み方法が誤っており、是正する取組みにはレイバー・スケジューリング・プログラム(Labor Scheduling Program:以下LSP)が欠かせないのです。その具体的な理由について、二人の会話を聞いてみましょう!

LSPの考え方は「人に作業を割り振る」ではなく「作業に人を割り振る」

中堅営業のAさん

Y先生、お久しぶりです。今日は先生に折り入って教えて頂きたいことがあって来ました。

Y教授

誰かと思えばAさんか、ずいぶん久しぶりだが相変わらず言葉の使い方が正しくないですね。

中堅営業のAさん

久しぶりに訪ねてくれば、いきなりお小言ですか。先生も相変わらずですね。何が気に入らないのですか。

Y教授

人間的な上下はさておき、今日は私に教えを乞いに来たのだから、言わば目上の人に挨拶している訳ですよね。であれば、「お久しぶり」ではなく「ご無沙汰しております。」が正しいのです。それは、まあ良いとして、何を教えて欲しいのですか。

中堅営業のAさん

実は、ある中堅スーパーマーケットチェーンから基幹システム再構築のRFPが出て、店舗業務の生産性向上が構築目的の主要課題になっているのです。Q&Aで具体的にイメージしているシステムを聞いたところLSPと返答されたのです。LSPというのは従業員への作業指示ツールではなかったでしょうか?

Y教授

確かに、日本の小売業における要員管理は、売場責任者の経験と勘に基づく日別時間帯別の必要人時数と社員、パート、アルバイト等現場担当者の出勤予定を照らし合わせて過不足を確認することをもっぱらとして、だいたい何をすれば良いのかは担当者を決めておき、足らない時は状況判断を現場担当者に委ね、うまく行かない時は場当たり的に命令するといった無為無策であることが多いのです。ですから、現状の要員管理をシステム化しても生産性の向上にはつながらないでしょうね。つまり、店舗業務の生産性向上を目指すLSPでは「人に作業を割り振る」ではなく「作業に人を割り振る」仕組みが必要なのです。

中堅営業のAさん

「作業に人を割り振る」とは、どのようなことなのですか?

Y教授

店舗で行うべき作業は内容や必要な人時数が事前に定義されており、この作業を実行する技術を身につけた従業員に割り振るのです。

中堅営業のAさん

先生は簡単に仰いますが、何やら高いハードルがありそうですね。そもそも、「店舗で行うべき作業」の定義はどのように行うのですか?

Y教授

さすがは今や中堅営業となり、営業のエースとして活躍しているAさんは鋭いですね。LSPには標準作業の概念が不可欠であり、テイラリズムの形態の1種とも言われているのです。

中堅営業のAさん

テイラリズムですか。以前のテスク大学の講義で先生から聞いた覚えはあるのですが、内容はさっぱり忘れてしまいました。恐れ入りますが、もう一度教えていただけませんか?

LSPの作成にはテイラリズムの考え方が有効

Y教授

やれやれ、さっぱり忘れてしまうとは寂しいが、今一度講義をしてあげよう。19世紀末から20世紀初頭にかけて、米国の機械技師・顧問技師だったフレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor)が生み出した『科学的管理法』の管理技術の体系を「テイラーシステム」といい、指導理念を「テイラリズム」といいます。近代的マネジメントの原点とされ、「課業管理に基づく差別的出来高給制」「時間研究などによる課業の客観的設定」「計画と執行の分離」などを特徴とします。

テイラーは課業つまり1日に完了すべき基準仕事量の概念を導入し、標準的な仕事を達成した者には割り増し賃金を、そうでない者には最低賃金のみを支払うという差別的出来高給制を提唱して、課業を客観的に設定するため、その仕事で一流の作業者が1つ1つの作業にどれくらい時間を要しているかをストップウオッチで計測する技法つまり時間研究を考案しました。併せて、工場内の労働者の指揮・監督を一手に仕切っていた熟練工である職長の機能を“計画”と“執行”に分離する“職能的職長制”を提案しました。科学的管理法の特徴は、複雑な一連の仕事を単純な工程に分割し「単純化」して、それを割り当てられた各担当者が「標準化」された手順・方法で仕上げ、その役割を100%果たし、そして、「単純化」された作業を集中的に行う、つまり「集中化」して一人当りの仕事の能率を高めることができるようになるのです。

中堅営業のAさん

難しくて理解できなかったことを思い出しました。

Y教授

営業のエースが情けないことを言ってくれないでほしいが、かみ砕いてLSPに関連する部分を説明しよう。

中堅営業のAさん

先生、ありがとうございます。先生の講義は独りよがりなところがあって、受講生がついていけない時があるんです。それはそうと、LSPにおける「店舗で行うべき作業」の定義はどのように行うのですか?

Y教授

独りよがりとは相変わらず辛口だね。確かに今も脱線してしまいましたね。それでは、話を元に戻して、「店舗で行うべき作業」は前提として作業の標準化が必要とされています。手順としては、まず店舗の業務を作業指示が可能な範囲で抽出し、次に業務を作業レベルに分解し、そして必要に応じて動作レベルまで細分化します。その後に、売上や客数に比例して増減する「変動作業」と無関係に定量的な「固定作業」に分類して、各作業の必要時間を測定します。この測定は、テイラーの言う一流の作業者つまり「最も正確性と生産性の高い作業者」の作業をストップウォッチで計測するのですが、異常値が発生する恐れがあるので、今はビデオ撮影した後に映像を見ながら計測する方法を行います。このようにして、行うべき内容と作業毎の時間を標準作業として定義して、全店にマニュアル化して指示します。この時に、店毎に変わってはならず、故に本部がこれを行います。このことが、テイラリズムで言うところの「計画と執行の分離」なのです。

中堅営業のAさん

店舗作業は部門毎に分類されるのですか?

Y教授

店舗における作業指示は、各店の部門担当者が実施するケースが多いので、部門毎に分けた方が良いですが、作業種類によってはチェッカーのように部門横断的な作業があるので、店長管轄として店舗作業と定義しても良いでしょう。

中堅営業のAさん

そのように店舗で行うべき作業を定義するということは、行うべきでない作業も明確になるのですね?

Y教授

さすが営業のエースは冴えてきましたね。そうなのです。実行作業は一流の作業を標準作業とするので単位作業当たりの所要時間数が減少して生産性が向上するのみならず、実施不要な作業を排除することになるので生産性の向上が加速するのです。

中堅営業のAさん

先生が口癖のように仰っていた、生産性の向上は単位作業の所要時間を短縮することにより達成される数値より、実施していた作業をなくしてしまうことにより達成される数値の方が数段上なのですね。

Y教授

そうです。同じ結果を目指す作業も店舗毎にバラツキがあり、意味のない不必要な作業を行っていることが横行しているのです。

中堅営業のAさん

LSPが店舗における作業の生産性を向上することは理解できるのですが、生産性向上以外にどのような導入効果があるのですか?

Y教授

店舗に従事している店長等は肌でわかっていることなのですが、本部において店舗毎に人時が不足している時間帯と余っている時間帯が把握できるようになり、管理レベルの把握が出来るようになります。つまり、部門責任者や店長の管理能力の評価がデジタル化されるのです。

CHAINS0111CHAINS0112

LSPを行わない小売企業では何が起こっているのか

中堅営業のAさん

ところで先生、LSPを採用していない企業では、どのような問題が起こっているのでしょうか?

Y教授

前にも言ったように、労務管理を多くのチェーンストアでは「人に作業を割り当てる」方式で行っているのです。この発想の大本は、利益確保を目的とした売上計画数値や荒利目標数値から人件費予算が割り当てられ、時間当たり単価を計算して投入可能要員数が決定されるといった方法を採用しているのです。ですから、売上計画等が厳しい時には、時間当たり単価の比較的低いパート・アルバイトの比率を増加して辻褄合わせをしようとする、正に人時生産性の向上ではなくて、人件費生産性の向上を目指してしまったのです。

中堅営業のAさん

なるほど、だから小売業ではパート・アルバイト比率が高いのですね。しかしですね、パート・アルバイトに作業を振り替えたとしても問題の解決にはならないように感じるのですが、実態はどうなのですか?

Y教授

必要な作業の定義と作業の標準化がマニュアル化されていない店舗において、作業レベルが中途半端な状態なると投入人時数が足らないと錯覚して追加投入し、結果として過剰な要員割り当てになってしまうのです。更に、クリンリネスや安全管理に関する作業は作業指示書に記載はされているが、実施すべき業務と詳細な実施内容が定義された標準化が成されていないので、日常の業務が繁忙になると疎かになってしまうのです。

中堅営業のAさん

先生、クリンリネスや安全管理に関する作業が疎かになると、事故が発生するのではないですか?

Y教授

その通りです。スーパーマーケットでは食中毒が発生しやすくなり、店内でお客様の転倒事故も未然に防ぐことが出来なくなります。

中堅営業のAさん

つまり、LSPを行っていない企業の店舗では、要員が過剰であるにもかかわらず完全作業が実施されずに手抜き状態が横行する危険性があるのですね?

Y教授

端的に言えばそうなりますね。日本の従業員は従順かつ柔軟な人が多いので、店長や部門責任者の曖昧な指示つまり「うまくやっといて」や「きれいにして」等を受け入れるのですが、具体的ではないので指示を受けた人の理解力により終了時のクオリティーがばらつくのです。米国の小売業では、5W1Hが明確な指示が出て、従業員は決められた通りに実施して結果は完全作業になるのとは違うのです。

中堅営業のAさん

わが国ではLSPの成功事例はないのですか?

LSPの光と影

Y教授

多くはない事例の中でもサミットは有名な成功事例ですね。東京・神奈川・埼玉・千葉に119店舗を展開するスーパーマーケットですが、中興の祖とされる荒井伸也さんが1984年にLSPをサミットに導入して科学的な管理を実現し企業成長に大いに貢献したと脚光を浴びています。荒井伸也さんは安土敏というペンネームの小説家で、映画「スーパーの女」の参考文献である「小説スーパーマーケット」を執筆しています。

中堅営業のAさん

先生、お得意の薀蓄が始まり脱線してしまいそうです。脱線した話題は面白いのですが、次の機会にお聞きするとして、物事に裏表があるようにLSPにも影の部分があるのではないですか?

Y教授

「スーパーの女」の話は非常に面白いが、次にしたいと君が言うならそうしよう。LSPは合理的かつ緻密な作業割当が適用されているので、急な遅刻や欠勤が発生するとフォローが大変で、結果としてパートやアルバイトの遅刻や欠勤を許さない息苦しい職場になるようです。また、前に説明したように変動作業は売上や客数に比例して増減するのですが、想定以上に売上が低い店舗では変動作業の必要人時が実際より低く算出されてしまい、割り当てられた作業員の作業量が溢れてしまって、結果的に離職原因になることがあるようです。

中堅営業のAさん

先生、ありがとうございました。提案書にはありきたりな教科書記述のLSPを記載するのではなく、原理原則や留意点を踏まえた、業界に精通したテスクならではの提案をします。

Y教授

エースのAさんならできると確信しているので、LSPの件でわからないことがあったらいつでも聞きに来てください。

 

2020/11/27