これからの小売業に心理学が必要なワケ

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経済学ベースから心理学ベースに変わる?

■ 経済学がベースで販売力を上げてきた

何が正しいかは別として、小売業の売上・利益をあげるために、私はこれまでいろいろ考えてきましたが、その考え方のベースは、いつも経済学や経営学でした。チェーンストア理論等の考え方から、販売力の強化や荒利コントロール、あとはいかに無駄をなくし最適化を図るかといったことを数値化して、それを実現するシステムを構築する。そのような方法で実際効果も上げてきました。近年では需要を予測して、発注量や在庫を最適化するといった製造業的な経済学の考え方も、どんどん小売業にも取り入れ、さらに効率を図る工夫をしています。

間違っているかもしれないですが、これら経済学の本質は、自社がいかに儲かるか、利益を上げ続けられるかという自社の関心事(都合)に寄り添った考え方です。しかし、小売業の多くが現在掲げている理念やモットーの代表は「お客様第一主義」。このお客様の関心事(都合)に寄り添うはずのモットーと、経済学の本質は全くの真逆。これはある意味、言ってることとやってることがバラバラとも言えます。

これからの時代を生き抜くには、自分達がどう儲けるかだけではなく、神様であるお客様が何を考え、何に困って、何に喜び、満足するか?この経済学だけでは決して語れない、お客様心理・消費行動にスポットをあて、心理学の考え方もベースにしなければならないと思います。空白の20年と言われた小売業の不調は、経済問題というひとつの原因だけでなく、お客様心理・消費行動を分析し、ビジネスに取り入れられなかったということが真因としてあげられると私は感じています。

■ 鍵は、お客様にどう支持をいただくか?

よって、これからの小売業の成長方法は、お客様に支持いただくこと以外にはないです。お客様が何を考え、何に満足するかということをなおざりにして、自分達がどう売るか、どう儲けるかという視点のみでは到底無理なことは誰でも判断がつくでしょう。

現在では、お客様側がどこで買うかを完全に選択する時代です。小売業側は、どう選んでいただくかが課題であることは明白です。これまで通用してきた、ローコストオペレーションを駆使した価格勝負では、自宅から簡単に一番安いところが検索でき、なおかつ自宅まで重いものでも配送してくれるネットショップに食われるのも明白です。

お客様心理とその消費行動を分析し、お客様の関心事に寄り添うことをビジネスに転嫁できれば成長できる企業になりうると思います。

それを示すかのように、IT投資の方向性も、これまでのコスト削減系(ロス削減、在庫削減、生産性向上等)一辺倒から、ID顧客分析や販促効果測定といったお客様心理に近づくところへの投資や検討が増えてきてます。

今回はこうした心理学について小売業で今後なぜ必要なのかを書いていきます。

支持される店はモテる男と同じ?

■ モテる男の条件は?

では、お客様に支持いただくにはどういたらいいか?

冗談のようですが、私はモテる男と共通していると思います。みなさんは女性が好きな男性のタイプ、ぶっちぎり1位が何で、嫌いな男性のタイプのぶっちぎりの1位が何かご存じでしょうか?このメルマガの読者に多い男性は、きっと「カッコいい」とか「イケメン」とか「お金持ち」とか思ったんではないでしょうか?実は・・

【好きな男性のタイプ】 ~ 1位:優しい人
【嫌いな男性のタイプ】 ~ 1位:不潔な人

1位は「カッコいい」とか、「イケメン」とかではないんです。そして・・

安心してください!入ってないですよ!(笑)

嫌いな方に「デブ」とか「ハゲ」とか「ブサイク」とか入ってないんです。ということは、相手の立場や気持ちが分かる優しい人で、清潔感あふれていれば、決して容姿がイケてなくてもモテる(選ばれる)ってことです。みなさんの身近にいるモテモテ男も優しくて、清潔な人じゃないですか?

■ 主婦に聞いてみた

上記の傾向から小売業のモテるお店を、いつもの主婦たちに(スーパーマーケットで)聞いてみました。

【気にいってるお店】 1位:品揃えがいい(欲しいものがある)
2位:店員の対応がいい
3位:○○が安い
【行きたくないお店】 1位:店が汚い
2位:店員の対応が悪い
3位:品揃えが悪い(欲しいものがない)

どことなくモテる男性と似てますよね。女性心理からすると好きなスーパーマーケットのタイプも、私が欲しいものがそろっていて、素敵な対応をしてくれる「私に”優しい”お店」です。そして、不潔な店や私のことを分かってくれない店は嫌いです。お店が広いとか、いつも安いとかは入ってなかったです。

ちなみに、男性が好きな女性のタイプ1位は 「かわいい」 です。
やっぱり男は外見で判断ですか・・(苦笑)

鵜のみにしてはダメ!お客様の言葉

■ 「これ高いから」の意味

セルフサービスがベースの量販店では、接客があまりないので価格だけで比較されてしまうケースが多いですが、前述の「私に優しいお店」からも、今後はお客様との接点がどんどん大切になってきます。その時に気をつけなければいけないのが、お客様の言外心理です。以下はある事例です。

携帯ショップに入ってきた女性のお客様がスマートフォンを選ぶのに迷っていました。店員がお勧めの機種を提案したところ、お客様から「ちょっと高いわー」と言われました。すると店員は、その商品がいかに他の店やほかの機種よりも安いかを説明していますが、お客様は全く興味なさげです。

これは、お客様心理を理解していない典型的な例です。

「高いわー」という言葉を鵜のみにして、価格のところばかりフォーカスしてしまっていますが、お客様にとっては、その理由が単に価格が高いということではない可能性は大いにあります。ここは表情や声のトーンで判断して、価格以外に何の魅力があるのかというお客様の心理を理解することが重要です。

■ 高いわーと言った、本質はどこにあるか?


お客様が「高いわー」という表現をされた時、なぜそう言われたのかを探る必要があります。
その場合、右の図のようなことが考えられます。

この本質を見極められると、販売につながる上に、単価も買上点数も上がる。逆に見極められないと販売機会を失うことになります。

あるSMのバイヤーが言ってましたが、廃棄を出さないのは、需要を予測するんではなく、お客様の心理を読み取って、売り切るんだと、心理学+販売力が重要だと言っていました。

小売業には、こういう「人の何倍も売上を上げる販売の達人」が必ずいますよね。こういう人の販売力も昔から、見事にお客様心理や消費者行動をつかんでいるんです。

データ分析の方法も真逆に変わる

■ POSデータは、とってみたアクションの検証のため

変化の早くなった時代では、POSデータの分析のやり方も変化してきています。これまではPOSデータの結果を見て、売筋、死筋商品を把握したり、バスケット分析や顧客一人一人の傾向結果(いわば記録)を見るのが主流でした。しかし、今後は完全にマーケティングとしてPOSデータを使い、お客様心理と消費者行動までデータから考えることが必要になります。

我々は結果が数字になって出てくると、少量のデータ(統計学では少なくとも2,000事例以上ないと信頼性が薄いとしている)であるにも関わらず、ついつい信用してしまいます。そして、これからもそうなると売る側の心理で思ってしまいます。しかし、それはあくまで昨日までの(例えば)売筋商品であって、明日以降の売筋商品ではないというケースが多くあり、お客様心理に立つと、それがはっきり見えてきます。

これからは過去の傾向だけを見て判断するのではなく、自分達がお客様心理を買う側の立場に立った上で仮説を立て、その仮説をもとに実施した行動に対し仮説が正しかったかどうかをPOSデータで検証し、そして次の仮説へと繋げていくということがデータ分析の主流になります。

■ データ分析もお客様目線で

POSデータを検証する時も、視点を自分達目線からお客様目線に切り替えると、違ったデータが見えてくるはずです。「どの商品が一番たくさん売れたのか」という見方から、「お客様はどの商品が一番欲しかったのか?」「なぜこの商品が欲しかったのか?」という見方に変えるということです。

どれが一番たくさん売れたか?という視点ですと、おそらくその結果だけで「この商品が売れる」と決めつけてしまいます。自分が仕入れた(開発した)商品ならなおさらです。しかし、どうしてお客様はこの商品を選んだのか?なぜ他の商品ではなくこの商品なのか?と、トヨタで有名な「なぜなぜ分析」のように、お客様目線で”なぜ?”を繰り返すことで売れた本質に近づくことができます。

このように、お客様心理をベースに潜在的ニーズが何なのかを深く考え、それを察知して応えることが、これからの時代を生き抜くデータ分析の鍵となります。

品揃えが多いとお客様は不幸になる

■ 品揃え数と満足感の関係

前述のインタービューで、気に入っているお店の第1位は”品揃えがいい”でしたが、ある研究で人間の満足感と選択肢の数の関連性を調べた面白い研究がありましたので紹介します。

その研究によると、何かを選ぶときにある一定の選択肢があることは人間に満足感を与えるけれども、あまりに選択肢が多いと、逆に不幸感を与えてしまうという結果が出たというのです。たくさんの選択肢が与えられているにもかかわらず、不幸感を与えるなんてビックリですが、以前私が紹介した味噌の品揃えデータ検証でも、種類が一番多いケースが最も売上が上がらなかったことが、これに共通しています。

この原因についての解説は、「何か一つを選択したときの満足感は、別の選択肢にすれば得られたはずの機会を失うことを差し引いて決定される」とありました。確かに、選択肢が多ければ多いほど迷うし、後からあっちの方が良かったかな?とか、ネットで価格を調べたりして、最終的には満足感が薄れる気がしますね。

よって、あれだけの品揃えのあるネットでの買い物は、とにかく安いものを買うのには適していますが、満足度という意味では、この研究結果からみると意外や低いのかもしれません。ここに有店舗型にはチャンスがあります。お客様に満足いただける接客やサービス、品揃えとその数、店の雰囲気等々、これらが支持される店の条件ではないでしょうか。

とにかくカッコいい男ではなく、相手に優しい清潔な男を目指す方が良さげですよね?

 

今回は『これからの小売業に心理学が必要なワケ』というテーマで書かせていただきました。

これまで経済学をベースに、どう売るか?どう儲けるか?という視点で何とかなってきましたが、これからはその視点だけでは通用しなくなると思います。なぜなら、もうみんなやってるからです。同じことをやっていても競争に飲み込まれ、いつまでたっても苦しい状況が続くのは目に見えます。そこから抜け出す意味でも、口だけではない真の「お客様第一主義」を実現し、お客様にいかに寄り添うか、お客様の関心事は何か、といったところにフォーカスして、その向こう側に必要な商品やサービスを提供する。それを実現するためには、これから心理学は小売業に重要な位置づけになると思います。では、いつかまた心理学のテクニックを使ったマーケティングやマーチャンダイジングをテーマにメルマガを書きたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 2016/2/17