基幹システムの新収益認識基準での対応項目とは? 後編

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2021年4月から始まった『新収益認識基準』の履行により会計処理での売上計上に関する考え方が大きく変わりました。背景にあるのは企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年3月に公開した「収益認識に関する会計基準(以降、収益認識基準)」です。新収益認識基準は、国際的な会計基準との整合性を重視しており、国際財務報告基準(IFRS)と米国基準の一部を除きほぼ同様の内容となっています。会計基準が変わることで業務処理する基幹システムにも影響が出ると考えられます。

今回は、新収益認識基準の適用により基幹システムで対応が必要であろう項目について前編と後編とに分けてお話しをさせて頂きます。

・前編では、新認識基準の概要についてお話をさせて頂きます。

・後編では、新認識基準での対応での懸念項目についてお話をさせて頂きます。

 

基幹システムの新収益認識基準での対応項目

基幹システムを利用されている企業は様々で、すべての業種・業態の企業で発生する新収益認識基準に関する項目を漏れなく挙げることは困難です。そのため、卸売業および小売業を営む企業が新収益基準を適用する際に影響が大きいと考えられる項目を列挙しています。

なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。

 

[卸売業での対応項目]

1. 売上計上基準

2. 売上返品計上処理

3. 売上リベート計上処理

4. 預かり売上計上処理

5. 顧客との相殺処理

 

[小売業での対応項目]

1. ボイント管理処理

2. 消化仕入の売上計上処理

3. たばこ税・揮発油税・酒税等の間接税の取扱い

4. 中元・歳暮の売上計上処理

上記に列挙しました内容について、次の章でお話をさせて頂きます。

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卸売業様での新収益認識基準 対応項目

1.売上計上基準

基幹システムで卸売業が売上を計上する基準は、下記の4つが利用されています。

(一般的に収益認識基準で適用できるかどうかを〇△×で表示しています)

  • 出荷日計上基準  △  商品の出荷時点で売上を計上する。
  • 納品日計上基準  〇  商品が顧客へ納品した時点で売上を計上する。
  • 検収日計上基準  〇  商品が顧客の検収終了時点で売上を計上する。
  • 入金日計上基準  X  商品の代金が入金された時点で売上を計上する。

 

新収益認識基準では、「物品の所有に伴うリスクおよび経済価値が買手に移転している」との項目があるため出荷日計上基準と入金日計上基準は、買手へのリスクおよび経済価値の移転と計上するタイミングがずれるため、対応は認められなくなると考えます。

但し、出荷日計上基準については、国内の販売に限って、商品または製品の出荷時から支配が顧客に移転される時(例えば、顧客による検収時)までの期間が「通常の期間」である場合には、出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することが従来どおり認められます。(そのため出荷日計上基準の対応評価を△として表示しています)

なお、商品または製品の出荷時から支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であるか否かは、取引慣行に照らして出荷から支配移転までに要する日数が合理的であるかに基づいて判断することになります。

 

2.売上返品計上処理

卸売業が顧客へ返品権付きの販売を行う場合、新収益認識基準では「返金が見込まれる金額を見積り、受取対価から当該金額を差し引いた金額で収益を認識します」となっていて、売上に含まれる変動対価の一つとして整理されます(適用指針第23項)。そのため返品が予想される金額は、売上より返品金額分(返金負債)を控除して計上する必要があります。またその売り上げに含まれる原価相当額は、返金資産として計上します(会計基準第63項・第64項)。

この会計上の対応に対し、基幹システムでは在庫管理や顧客への請求処理との関連があるため対応は困難であると思います。そのため会計への対応としては、販売実績から返品率を集計して会計側で返品予想金額産出するための情報として提供するなどの留意が必要かと考えます。

 

3.売上リベート計上処理(売上計上金額)

卸売業が行う売上リベート処理は、割り戻しや歩戻しリベートとして顧客へ一定の取引金額に対して支払わられる取引です。基幹システムでは、売上リベートを売上高から控除するため売上値引きで計上する方法や支払リベートとして処理する方法が併存して行われていると思います。

一方で、新収益認識基準では、2.売上返品計上処理と同様に、売上に含まれる変動対価の一つとして整理され(適用指針第23項)、顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、売上から減額すると明記されています。そのため、リベートが買手における販売促進費などの経費の補填であることが明らかな場合を除き、リベートを売上から控除することが適切と考えられます。

例としては、売上金額に一定の料率を乗じたリベートは、一般的に販売条件決定時の重要な要素であり、売上から控除する必要があると考えられます。

また、リベートという名目でも、実態としては販売先のプロモーション活動への協賛金や補填であるような場合には、販売費として処理することになると考えられます。このように、リベートについては支出の名目にかかわらず、性質を個別に判断する必要があります。基幹システムの対応では、割り戻しで発生した金額分についてはリベートの項目毎に分けて毎月の発生金額を確定して経理処理としてどのように計上するかを決定して対応することをお勧めいたします。

 

4.預かり売上計上処理

卸売業が行う預かり売上は、請求済未出荷契約で企業が販売する商品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品等の物理的占有を保持する契約です。請求済未出荷契約は、顧客への支配の移転を検討する際の収益認識会計基準が定める5つの指標のうちの1つである「企業が資産の物理的占有を移転したこと」を形式上満たしてないため売上が計上できなくなります。ただし、請求済未出荷契約については、次の①から④の要件のすべてを満たす場合には、顧客が商品等の支配を獲得したものと判断するとされています(適用指針79項)。

請求済未出荷契約において顧客が支配を獲得したものと判断する要件

①請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること(例えば、顧客からの要望による契約の締結)

②当該商品等が、顧客に属するものとして区分して識別されていること

③当該商品等について、顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

④当該商品等を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないこと

顧客に商品等の保管場所がない等の合理的な理由により、顧客からの要望により契約が締結されたこと、企業の倉庫に保管されているにしても顧客に属するものとして区分して識別されていること、当該商品等について、企業の倉庫においていつでも顧客に対して出荷できるように準備が整っていること、仮に他の顧客から同一の商品等の発注があった場合でも、出荷ができないような措置が講じられていること、以上の要件がすべて満たされているときは、原則として、顧客は支配を獲得していると判断することが考えられます。

 

5.顧客との相殺処理

卸売業が顧客との商品販売取引の中でEDI処理料やセンターフィー等のシステム利用手数料を顧客へ支払する取引が発生します。基幹システムでは、顧客へ支払うシステム手数料の処理を売上高から控除するため売上値引きで計上する方法と、請求時の相殺で処理する方法が併存しています。

新収益認識基準では、顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額すると明記されています。今回の対象となるシステム手数料が、単独では何らかの便益を享受することができないと判断する場合は、商品販売取引に関連するものと別個に識別する財またはサービスでないと考えられます。

そのため、この場合では、得意先に支払うシステム手数料は、売上高から控除して計上することになります。その場合の処理としては、売上値引き等での処理となります。

 

小売業様での新収益認識基準 対応項目

1. ボイント管理処理

小売業は、販売促進等の目的でボイント制度を導入しています。ボイント制度は、顧客が商品の購入の都度ボイントが付与されて次回以降の商品購入でポイントを利用して購入できる内容が一般的です。

新収益認識基準では、購入ボイントは当初売上取引の一環として顧客に付与されたものであり、当初売上取引の構成要素に含まれるものと明確化されています。そのため従来のボイントをボイント引当金としての会計処理で行う方法から売上高から控除して計上する方法へ変更する必要があると考えられます。

また、商品の購入に対して付与して発行するボイントだけでなく、顧客が来店した時にボイントを付与する場合や他社が運営するボイントプログラムを利用する場合などもあります。これらの場合は、商品の購入から独立した取引であるため、従来の取扱いで処理可能かと考えられます。

しかしながら、小売業で採用しているポイントプログラムは、取引関係や取引条件等が様々であるため、これらを十分に理解して、実態に応じた処理を検討する必要があります。

 

2. 消化仕入での売上計上処理

小売業では、商品が顧客に販売されると同時に仕入先から仕入計上する消化仕入契約があります。消化仕入契約は、顧客に販売するまでは自社の商品でないため、価格変動リスクや在庫リスクおよび商品の保管リスク等の負担が発生しないことになります。

新収益認識基準では、顧客への商品の販売を小売業者自ら本人が提供する履行義務であると判断される場合は、対価の総額を収益として認識します。一方、顧客への商品の販売が、テナントなど他の当事者によって提供される代理人に該当すると判断される場合は、手数料部分を純額で収益として認識しますとされています。(適用指針第39項・第40項)

本人か代理人かについては、以下の3点を検討することが必要となります。(適用指針第47項(1)~(3))

・小売業者が、商品を顧客に販売する「主たる責任」を有しているか 

・小売業者が、「在庫リスク」を有しているか

・小売業者が、「価格決定の裁量権」を有しているか

新収益認識基準で代理人取引と判断される純額表示の場合でも、消費税法上は、基本として課税売上と課税仕入をそれぞれ認識すると考えられるため総額に対する消費税での計上となります。

 

3. たばこ税・揮発油税・酒税等の間接税の取扱い

売上計上を行う場合、消費税を除いた税以外で「たばこ税・揮発油税・酒税・軽油取引税・入湯税等」のさまざまな間接税を含めて売上および売上原価している例が多いと考えられます。新収益認識基準では、「取引価格は第三者のために回収する額を除く」とされています。

そのため、たばこ税・揮発油税・酒税・軽油引取税・入湯税等のさまざまな間接税が、第三者のために回収する金額に該当するか否かが論点となり、当該間接税等について、代理人として税務当局に代わって回収しているのか、あるいは、本人として会社のために回収しているのかを判断する必要があります。検討の際は、適用指針第47項(1)~(3)にあてはめて判断することになります。

当該検討に基づき、仮に本人と判断された場合には、従前同様の会計仕訳を行います。また、代理人と判断された場合には、当該税金相当額を売上から控除した会計仕訳を起票することが考えられます。

 

4. 中元・歳暮の売上計上処理

小売業者等での販売形態の一つとして、中元・歳暮等のギフト販売があります。一般的に考えられる商流として、小売業者は買い手(送り主)から物品に係る対価を受領し、後日、配送業者が買い手の指定する受取人へ物品を引き渡す業務が考えられます。

これらの販売では、小売業者が「商品の販売」の他に受取人までの「配送サービス」(取次)も顧客に提供していることが通常と考えられ、「商品の販売」と「配送サービス」を一体又は別個の履行義務のどちらで識別すべきかが、収益認識会計基準上の論点になると考えられます。

企業が「配送サービス」を別の履行義務として識別するかについては、企業が顧客との契約の中に約束した財又はサービスにどのようなものが含まれているかを「個々の財又はサービスのレベルでの区分可能性」及び「契約の観点からの区分可能性」のそれぞれの観点から検討する必要があります(収益認識会計基準第34項)。

「配送サービス」は、一般的にサービスのレベルでの区分可能性として単独で識別可能と考えられるため、配送サービスまで一体として合意したものか、別途商品の配送を請け負うものか、契約の観点で「商品の販売」と区分すべきかどうかについて判断することが想定されます。

「商品の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合でも、収益認識会計基準では代替的な取扱いとして、顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、顧客と合意した届け先まで商品又は製品を移転する約束を履行するための活動として処理し、別個の履行義務として識別しないことができるとされています(適用指針第94項)。

 

まとめ

多くの企業では、会計システムと業務システムを一体的に運用するERPや、それぞれ別個のシステムを使用している場合であっても、それぞれがインターフェイスによって連携して運用されていると想定されます。現状では、顧客との契約に基づいて取引が入力され、同じ単位で販売管理システム、会計システムに繋がっており、契約単価と売上計上額と請求額は一致して処理されています。

新収益認識基準が適用されることで、売上の計上する単位および単位毎の金額また計上するタイミングが大きく変わってくることが想定されます。

そのため、契約の中に複数の履行義務がある場合や販売管理システムに入力された契約価格が複数回に分かれて売上計上される場合などは、契約金額をそのまま売上計上することができなくなります。

また、従来契約価格で一括して請求していたものを、収益を認識する単位が変わったからといって、わざわざ分けて、かつ一部を遅らせて請求するとは考えにくいので、売上計上額と請求額も一致しなくなります。これらの差異をどのように調整していくかが課題となります。

新収益認識基準は、各企業様の会計処理での対応となりますが、それだけでなく基幹システムの対応も少なからず影響すると考えられます。また今回は大会社や上場会社のみの適用ですが、今後は、中小企業様の業務にも影響していくと考えられますので、自社での対応方法を検討されることをお勧めいたします。

最後になりますが、株式会社テスクは、創業以来、流通業に特化し、消費財向け販売管理システムの導入支援・運用支援に関する豊富な実績と経験によって蓄積された十分なノウハウを持っています。

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2021/9/3