小売業販売管理システムは統合すべきか?
当ブログを執筆している時に、ウォルマートが西友株式の85%を楽天他に売却する報道が流れました。以前にはアマゾンがホールフーズを買収しましたが、今後はリアル店舗を持つ小売企業とECサイトを運営する企業が事業統合する事例が増加すると推測されます。その際に、それぞれが持つ小売業販売管理システムをどうするのかを検討する必要があります。
企業統合に際して小売業販売管理システムはどうするのか?
小売業販売管理システムは言うまでもなく小売業運営の根幹をなすシステムですが、リアル店舗を運営する企業の小売業販売管理システムとECサイトや通販を運営する企業の小売業販売管理システムとは相当の違いがあります。
根本的な違いとしては、リアル店舗は原則陳列在庫商品が販売の対象であるのに対して、ECサイトや通販のようなデジタル店舗では必ずしも商品在庫を持っている必要はありません。つまり、リアル店舗においては、品揃え計画が作成され、これに基づく発注を行い、店舗からの発注に即した製造と物流がなされて、店舗に着荷した商品店内物流(すなわち品出しと陳列)が行われるので、これらを効率的に行えるように小売業販売管理システムが設計されています。この際に最重要な工程は品揃え計画であり、対象商品や陳列・販売計画の作成と実績確認のフィードバックが必要なのです。
これに対して、デジタル店舗の販売管理システムは、ECサイトや電話・FAXで受注した商品を倉庫や仕入先様に出荷指示を出して、決済処理を行うことになります。これらデジタル店舗の最重要な工程は、顧客ごとの購入履歴を保持して顧客にアピールすることです。さらに、現在ではクリック&コレクトとかBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)やオムニチャネルと言われていますが、ECサイトなどで商品を購入して、リアル店舗や宅配ボックスあるいはドライブスルーで商品を受け取るショッピングスタイルがあります。このようにリアルとデジタルが融合してきており、小売業販売管理システムもリアルとデジタルの店舗が独立して運用される現状から脱却して、統合された小売業販売管理システムにしなければなりません。
小売業販売管理システムを統合する時の方法
小売業販売管理システムにおいて、リアル店舗用とデジタル店舗用の統合はどのような方法があるのでしょうか。システムの統合は小売業販売管理システムに限らず3種の方法から選択することになります。
第一の方法は、どちらか一方の継続を決定して足らない機能を追加する方法です。こちらの方法はコスト的には最も安価に収まる可能性が高く、したがって開発期間も短いのですが、継続する小売業販売管理システムへの追加開発で利用を停止した側の業務運用に支障がないことを確証しなければなりません。同じ小売業といえども業務に関する細かな違いが多数発生するので、初期の確認時に把握しきれなかった違いが稼働後の業務負荷を増加させ、これを解消するために追加改修を行う追加費用が発生することが懸念されます。
第二の方法は、統合する小売業販売管理システムがそれぞれ持つ機能を精査して適切な機能を選別し、統合する小売業販売管理システムを再構築する方法です。この方法では、双方の機能の良いとこ取りをするので双方の機能が網羅されますが、機能の取捨選択や技術面、さらにはコード体系などの統一といった解決しなければならない課題が数多く発生する可能性があるので、開発に要する期間が長期になり費用が増大することになりかねません。
第三の方法は、企業統合された後の業務運用を再定義して、小売業販売管理システムを新たに開発する方法です。この方法ですと従来の運用やしがらみに縛られることもなく、最良の機能設計が可能になり、使い勝手も良いものになることが期待できますが、長期的な企業活動を見据えた業務設計や開発・導入計画が必要になり、開発期間も構築費用も最も多く必要になると予測されます。
統合された小売業販売管理システムのあるべき姿
リアルとデジタルの店舗で統合された小売業販売管理システムはどのような姿であるべきなのでしょうか。
主な販売窓口は店頭とECサイトの2種になるので、店頭はPOSレジとの連携に対応し、ECサイトはサイトとの連携が必要なのは言うまでもありませんが、ECサイトで購入して店頭で受け取りに対応するなどの仕様が必要になるのでリアル店舗においてもECサイト対応を可能にしなければなりませんし、その際にはECサイトの売上にするのか商品を渡した店舗の売上になるのかをルール化しておくことも必要でしょう。そして、この販売に関する履歴は販売方法への紐付だけではなく、販売先つまり顧客購入履歴が統合されていなければなりません。
今やECサイトでの購入は、この購入履歴を利用した商品紹介などの販売促進は当たり前になっていますが、リアル店舗における購入履歴も対象にして販売促進を行わねばなりません。そして、購入の結果が得られるポイント付加やクーポン券サービスなども統合されている必要があります。さらには、発注や仕入と言った業務の運用も統合して、ECサイトの売上商品を専用DCの手持ち在庫のみならずリアル店舗の店頭在庫からピックアップ可能なようにするために、商品毎の在庫管理も統合されるのは前提として、DC在庫をはじめ、現在は大半の小売業販売管理システムでは実現できていないリアルタイムに変動する在庫数を可視化できなければならないでしょう。
小売業販売管理システムは統合すべきか ~まとめ~
デジタル店舗を運営している企業がリアル店舗を主として運用している企業を吸収するM&Aに限らず、現在はリアル店舗の小売業販売管理システムのみが稼働している小売企業でも、ECサイトに無縁では済まされません。
そして、当然のことながらECサイトを利用するデジタル店舗の運営にはリアル店舗用の小売業販売合管理システムは役に立ちません。その際には、リアルとデジタルの店舗を扱う小売業販売管理を統合することは経営的な判断が必須であると確信します。ここで言う小売業販売管理システムの統合は、入口や出口に違いがあっても、取り扱う商品が同一であれば同じデータとして扱うことが必要であり、部分最適を排除して全体最適を追求する事が欠くべからざるアプローチです。
そして、統合の際には統合の方法で述べた第二の方法を採用して、開発期間の長期化と費用の増加を管理しながら、計画に従って開発を推進することが最適ではないでしょうか。さらに、リアル店舗対応の小売業販売管理システムとデジタル店舗対応の小売業販売管理システムを独立して開発したい誘惑を排除しつつ、品揃え、発注、仕入、在庫、受注、売上、棚卸、廃棄、移動の各種機能を統合して管理する小売業販売管理システムを構築して運用する事が、次世代の小売業販売管理システムのあるべき姿であると考えます。
まずは、解の見えないテーマには果敢に取り組んで速やかに修正を施す、つまりはPDCAを高速で回す取り組みがサクセスストーリーになるのでしょう。
2021/1/19