基幹システムを通じたマーチャンダイジング実行に儲かるヒントがある
そもそもマーチャンダイジングの語源はマーチャントつまり『商人』であり、日本には江戸享保時代の思想家である石田梅岩が理論化した、三井高利(三井グループの歴史の源となる三井家の家祖)や飯田新七(高島屋の創業者)などの“本商人(ほんあきんど)”が居ました。
この本商人は単に商品を仕入れて売るだけではなく、今で言うバーチカル・マーチャンダイジングシステムを創りだし、原産地に赴き原材料と生産方法を指定した仕様書に従い製品を生産・加工させて、更に品質を確認して運搬を手配し、自ら決めた価格で販売したのです。
正に1960年にアメリカ・マーケティング協会(AMA)が定義したマーチャンダイジングの定義である「企業のマーケティング目標を達成するために特定の商品、サービスを最も役に立つ場所と時期と価格で、数量を扱うことに関し計画し管理すること」に通底します。
別の言い方をすれば、原材料探しから消費までの全般を計画統制する事がマーチャンダイジングなのです。基幹システムとマーチャンダイジング構築から儲かるヒントについて解説します。
目次
基幹システムのマーチャンダイジングが目指すべきは売上拡大ではない
マーチャンダイジングに関する多くの解説は、販売をフォーカスし、いかに多くの商品を販売するかの道具がマーチャンダイジングであるとしています。
この思想は高度成長期の「仕入れた商品をいかに速く売り切るか。」に由来しているので、仕入れた商品が思惑通りに売れなかった時には損失を出してでも値引販売することが推奨されます。
これに対して「売れる商品をいかに速く作るか。」と言う発想が、適正な利益を獲得しつつ顧客満足の向上に繋がります。
まさに、300年前に日本の本商人が実践していた手法に他ならず、マーチャンダイジングの原点です。
マーチャンダイジングの目指すところは、売上ではなくまた暴利を貪ることでもなく、顧客の需要に即応すべく原材料探しから消費までの全般を計画統制して適正な利益を獲得し、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)を果す事なのです。
基幹システムのマーチャンダイジングにおけるファイブ・ライト
先に引用したAMAのマーチャンダイジング定義は「ファイブ・ライト(5つの適正)」と言う表現でマーチャンダイジングを意味づけています。
「適正な商品またはサービス(Right Goods)を、適正な場所(Right Place)で、適正な時期(Right Time)に、適正な数量(Right Quantity)を、適正な価格(Right Price)で、マーケティングすることに関する諸計画である」と言っているのです。
【適正な商品】
マーチャンダイジングを実践する際には、科学的な根拠と合理的な工程が必要であり、商品の選択の当たっても前提となるターゲット顧客の選定やカテゴリー競争優位を意識して、プライスラインの方針と機能と品質の基準に合致する商品を選定することが必要です。
商品管理部門は戦略的な商品構成グラフを作成し、これに基づく品揃えを決定しなければなりません。
しかしながら、一旦決定した最良の品揃えでも、時がたてば必ず陳腐化するので、適正かつ適時に改廃をすることを忘れてはなりません。
【適切な場所】
多くの小売企業、特に多店舗化を指向しているチェーンストアの陳列は、部門単位で標準化が成されていて、店舗規模により変化するのは部門を構成する品揃えではなく、大型店の方が小型店より扱い部門が多くなるのみです。
つまり、店舗毎に扱い品目が全く違うと言った愚挙を排除しなければなりません。
実験店舗で最適な陳列が決定されて、60%程度は同じ品揃えと陳列が成されなければならないのです。
しかしながら、品揃えや棚割りの責任と権限を持つのは本部商品部門ですので、各店舗における担当者の思い付きで品揃えや陳列を変更してはいけないのです。]
ナショナル・チェーンでは季節の変化による投入時期の違いが有りますが、同じ品揃えや陳列である事に違いはありません。
【適切な時期】
言うまでもないのですが商品売行きには季節変動があり、寒暖差や時候のイベントにより棚割りを変化させることが必要です。
これには、棚割りを4週間ごとに変化させることにより、対応することができます。
また、通年扱い商品においても季節により販売数量に変化が有るので、季節指数を利用して陳列量やフェース数を変化させることも重要です。
【適切な数量】
陳列数量は販売数量に比例して変化させます。
扱い品目により基準は変わりますが、多くの小売業では週サイクルの発注―納品―陳列が大半ですので、陳列在庫数も1週間の販売数量を基準にすることになります。品目によっては非常に多くのフェース数になりますが、躊躇せずに棚割りを決定してください。
ゴンドラ1本全部が1アイテムしか陳列されていないと言った極端なことが発生する可能性が考えられますが、エンド陳列等、他の陳列場所を検討しつつも、棚陳列以外の選択肢が無ければ、それはそれで良いのです。
【適切な価格】
適切な価格とは、商品価値が消費者の求める基準を上回ることであり、商品価値とは商品の効用・便益を価格で割った公式で求めることが出来ます。
もちろん、商品構成グラフを左側に寄せたお値打ち感の演出をしつつも、過度に品質や機能を落した安売りは避けなければなりません。
価格を維持しつつ効用や便益を増やせば商品価値は上がり、消費者にとってのお値打ち感を演出することが可能なのです。
基幹システムのマーチャンダイジングの欠くべからざる手順
マーチャンダイジングの手順は、大まかに作業を『商品管理』『在庫数量管理』『改善』の3つに分けることが出来ます。
【商品管理】
ターゲット顧客の選定やプライスライン等の商品戦略を決定して、単位面積当たりの利益適正規模や品揃えの深さと幅の指針、そして機能や品質の基準等の商品政策を立案します。
これによりカテゴリーの競争優位を獲得するのです。その後に代表品目と比較品目そして代替可能品目等を決定し調達数や調達方法そして物流方式等の商品調達を立案します。
【在庫数量管理】
PI値等を利用した想定販売数量に基づき、発注から次の発注までのサイクル日数が規定日数になる様に初期陳列在庫数を決定し、フェース数を計算してフェーシングを行います。
その後の販売実績に応じて適時適切に在庫数量とフェーシングを変化させます。
この際には、欠品や過剰在庫を警告するアラート機能を用意しておけば作業の正確性と迅速性が向上します。
【改善】
季節指数や販売実績の変化に応じて最適な在庫数を維持しつつ、品目改廃の為の新商品選定や既存商品の廃番と残在庫の処理法を決定し店舗に指示を出します。
【まとめ】基幹システムを通じたマーチャンダイジング実行に儲かるヒントがある
マーチャンダイジングが目指すのは売り上げ拡大ではありません。
更に言えば、少子高齢化が加速する我が国における小売企業が目指すのは、売上ではなく適正利益なのです。
我が国の小売企業の店舗では、ウォルマートの2倍の坪当たり売上を誇っていますが、利益は遥かに少なく儲かっていないのです。
儲けるのではなく儲かってしまうシステムを作るのは、作業の標準化による効率化の推進であり、この標準化を強力に支援するのが基幹システムでなければなりません。
経産省は2018年のDXレポートに続き、2020年12月にはDXレポート2を出してITシステムのみならず企業文化の変革がDXの本質であり、企業の目指すべき方向性と言っています。
小売企業においても競争敗者にならない為には、基幹システムの刷新を通じたマーチャンダイジングの構築と標準化は避けて通れない大きな課題である事を否定する事はできないのです。