基幹システムでこそ赤字部門対策が行える

小売企業に限らず企業が赤字を出すことは存続に係わる重大事ですが、健全経営を継続している小売企業であっても、全店全部門の黒字は極めて稀です。ここで言う赤字や黒字は営業利益レベルを指しているのですが、我が国の小売企業では日常的な店・部門の成績数値を売上や荒利で観察する例が多く、スピーディーな営業利益算出が困難であると言い訳して営業利益レベルの赤字部門対策を避けています。営業利益の観察・分析・判断を怠ると、荒利レベルで相当額を獲得していても、販管費を荒利以上に費やして赤字になっている事が多いのです。本解説では、基幹システムを利用した店・部門毎の営業利益を計算する方法と、赤字部門対策を実施した収益改善の紹介をします。

基幹システムを利用した赤字部門対策の実態

1972年に小売業売上高日本一を三越から奪取したダイエーは、ピーク時には売上高が3兆円超になったにも関わらず、ご存知の通り、後に経営破綻しています。巷間では破綻原因の一つが営業利益管理の不徹底であったと言われています。「売上は全てを癒す」を旗印に売上規模の追求に傾倒し過ぎたために利益が出ず、店舗の出店方法にも致命的な欠陥があったために資金繰りに窮して、無理なリベート要求に走り転落の一途を辿ったのでした。

これはダイエーだけの特例ではなく、我が国の小売企業の多くがおかれている現実なのです。つまり、多少の赤字が出ている部門があっても、他の黒字部門が補って企業が存続できているのです。しかしながら、人口減少や高齢化社会が総需要の低下を招き、小売企業は客数減少に伴う売上減少から逃れられない現実が経営に重大な影響を与えるのみならず、小売企業の経営を支えてきた低賃金労働力は枯渇し、人件費の高騰が避けられなくなっている現下では、赤字部門を撲滅させることが欠くべからざる企業経営になります。厳しい状況にもかかわらず、小売企業の多くは店・部門別の売上と荒利を観ながら店舗の運営をしており、間接経費は言うに及ばず直接経費すらタイムリーに把握せず、営業利益が恒常的な赤字である生鮮部門の荒利が一定額獲得している事に安堵して、好ましからざる実態を見過ごしているのです。更には、店・部門毎の営業利益を把握するための経営資料である『部門別総括表』を、多くの小売企業は会計システムから作成しているので、経営層への提供までに数ヶ月の時間を要し、数値結果により改善対策を指示しても適時性を欠いている場合が多いのです。早期に有効なマネジメントを実施するためには、早期に結果を出力できる基幹システムで作成する必要があると考えます。

01210122

基幹システムで行う赤字部門対策の手順

次に、基幹システムを利用した赤字部門対策の手順を解説します。まずは、営業利益を計算するための経費を詳らかにします。主な経費としては、スペース・コスト、バックヤード・コスト、レジ・コスト、照明・空調費、作業コスト、管理コスト、販促コスト、物流コスト、返品コスト、本部コスト等があり、これらを店・部門に配分しますが、経費を店・部門に配分できない場合が多いので、ルールに基づき配賦基準を決め、経費実績を店・部門に按分します。

ただし、会計システムに経費実績が入力されるタイミングを待って『部門別総括表』を出力するのでは、対策立案と実施に支障が生ずるほど遅くなるので、この際は、過去の実績に基づいた推定固定値で暫定版を作成し、その後に実績値が入力された都度、確定値に置き換える方法も良いと考えます。売上や荒利は天候や競合状況による変動が大きくなることがありますが、経費は極端な人員増強や削減を行わない限り大きな変動は少ないことが経験的に分かっています。マネジメントに支障が出るほど算出の遅延を許すよりも、暫定値であってもタイミングを逸しないことが重要であると考えます。とはいえ、あくまでも暫定版ですので、物流コストのように事故等で通常に無い大幅な増減が発生している場合もあるので、実績値を反映した結果把握は必ず行ってください。

そして、赤字部門を捕捉したら赤字解消を講ずるのですが、営業利益の計算式をおさらいすると「荒利高=売上高×(初期値入率-売価変更率-不明ロス率)、営業利益高=荒利高-(直接費+間接費)」です。中国前漢時代の経書『礼記』に「入るを量りて出ずるを為す」とあるように、まずは荒利高の改善を検討するのですが、経験的には初期値入率が意図せず低くなっている場合が多く、売上を取る商品はさておきながら、売価を上げても売り上げ減少が少ない商品の値入率上昇を実施します。値引や見切、そして廃棄や不明ロスを問題視して低減措置を推進することは多くの小売企業で観られますが、初期値入率の改善には多大な労力を要するので放置されるケースが多いのです。これはカテマネ等の方法を採用して、お取引先からの助力を得ることにより解消できます。荒利対策も然ることながら赤字になる原因の多くは、お金を過大に使っているのであり、中でも直接費、つまり店・部門の商品作業の改善により経費削減が可能です。商品作業は店舗作業コストの50%を占めている分野であり、商品作業の適正化の要である『発注サイクルの最適化』を始めとして、商品作業の標準化、すなわちベストの形や方法を選んで規格化します。商品作業の最適化以外にもセンター物流の改善や販促コストの見直し等が有りますが、商品作業に着目すれば即効性のある赤字部門対策が実現できます。

基幹システムは赤字部門対策ツールに最適

赤字部門を捕捉して赤字部門対策を実施する手順を履行するには、正確な数値を迅速に算出する必要性をご理解頂けると思いますし、このためには基幹システムの利用が最適なのです。データ項目の緻密さを理由に会計システムで行うことが多いようですが、PDCAを高速で回して赤字部門対策を成功させるためには、一定レベルの正確性が有れば拙速であっても、早期数値算出が対策立案と改善そして評価の迅速実施には有効ですし、基幹システムを利用した『部門別総括表』の出力が良いのです。基幹システムを利用すれば、会計システムに引けを取らないレベルの緻密数値が正確に算出できてしまうのです。過度な正確かつ緻密な数値を算出するために会計システムを利用して、数ヶ月遅れの結果数値を経営層に提出しても効果は半減してしまいます。つまり、基幹システムこそが赤字部門対策を完遂できると断言できます。

まとめ

多くの小売企業は利益が出ないと嘆きながら、未だに売上を主要指標にしている原因の一つは、スピーディーに営業利益を『部門別総括表』として経営層に届けられない基幹システムにあります。もはや、会計システムから提供されるまで待つことなく、基幹システムから締め後2-3日で『部門別総括表』を提供して、赤字の店・部門を把握することに貢献しなければなりません。全ての店・部門が黒字である企業は稀である現実を先に述べました。赤字部門対策を確実に熟せば、売上アップを必要とせずに利益向上が実現可能です。赤字部門対策には基幹システムを用いた営業利益算出が欠くべからざる手段であると言っても過言ではないのです。

2021/04/01