基幹システムへの部門分析の効果とは?

ヨーロッパの諺に「神は細部に宿る。」が在ります。

細かいところまでこだわることは大切であるという意味に使われますが、小売業の分析において“タンピン”分析を最高とする発想はいかがなものでしょうか。鈴木敏文氏率いるセブン-イレブン社が単品管理を駆使し、その効果を業界通の方々が喧伝して小売業における欠くべからざる道具として広め、2000年に某国営放送の『プロジェクト〇』でも効果をドラマチックに放送しました。

 

結果はセブン-イレブン社の本部が成果を享受しましたが、フランチャイジーを含めて他での成果を寡聞にして聞きません。

ヨーロッパの別の諺である「木を見て森を見ず。」になってしまったのではないでしょうか。

 

つまり、レギュラーチェーンのチェーンストアを志向する小売業においては、『部門の商品作業の標準化』が解決すべき課題ですので、そのためには部門分析を小売は進化させなければならないのです。それはなぜでしょう?解説いたします。

基幹システムと部門分析の歴史

そもそも、部門分析とは、部門別管理を基幹システムと連携した形でシステム化し、店・部門別の各種実績を『部門別総括表』等に加工して、小売業の経営状態の把握と目標達成に向けて指示の変更や教育を追加して組織を動かすためのマイケル・J・カレンが発明した道具です。

それは基幹システムで発生する情報をリアルタイムで収集し、基幹システム外の情報は発生都度収集して情報が提供されなければなりません。

我が国の小売業がハードウェアとしてコンピュータを導入した当初の基幹システムの多くは、売上や仕入の集計機として利用されていました。

 

その後、コンピュータの処理能力が増すにつれて、売上や仕入、そして在庫を複合的に計算した部門別荒利管理に利用され始めますが、当時は電子計算機と言われていたように計算を高速で行う機械としての役割を担っていたに過ぎなかったのです。

同時代に卸売業では主に納品伝票や請求書の作成に利用されていましたが、計算機と印刷装置の域を脱してはいませんでした。

 

のちに、日本電信電話公社(今のNTT)が通信回線の独占を緩和するにつれてデータ通信が可能になり、小売業から卸売業に対する発注がシステム化(EOS:イーオーエス)されて計算機の域を脱し始めました。

時を同じくして普及したPOSレジが商品にソースマーキングされたバーコードを読み取ってアイテム単位の販売実績が収集可能になったので、本部の大型コンピュータにデータが蓄積され始めました。つまり、運悪くコンピュータが多用され始めた時のデータ処理の主流がアイテム単位のデータを扱っていた時と重なったので、分析と言えばタンピンと重なってしまいました。

 

しかしながら、優秀な経営者や真の意味で役立つ経営コンサルタントが部門別管理に有効な数値を情報システムに要求したので、単品分析メニューの片隅に部門分析メニューが追加され始めました。

その後に、基幹システムが単なるデータ集計に甘んじることなく各種の業務の自動化に進化してきましたが、一部を除いて部門分析が見直されることは無いようです。

 

製造業や同じ流通業でも卸売業には部門分析がなく、部門分析は小売業特有の分析であり、裏返すと小売業には欠くべからざる分析なので継承し発展してきたと言えます。

小売業を知る者はタンピン管理のみに走ることをせず、部門分析のレベルを向上してきました。

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基幹システムが部門分析に与える影響

部門分析は、売上、仕入、内部移動、在庫(実施棚卸)を店・部門別に処理し荒利(売上総利益)を計算します。

この際にもっとも原始的な方法は、売上以外のデータを処理時点取得原価で行う(最終仕入原価法)方法ですが、実施棚卸の労力や値入の妥当性を検討し、値下や廃棄の管理を行うために仕入や在庫を売価で評価し(売価管理)、ロス管理や理論在庫による荒利計算を行う方法(売価還元原価法)を行うことを検討する必要がありました。

そのためには、基幹システムがデータを処理する時に必要なデータ種が想定されていなければなりません。

 

つまり、基幹システムに部門分析は制約を受けるのです。時にタンピン管理至上主義者は、所詮部門分析は単品実績を集計したものにすぎないので、タンピンさえ正しく処理されていれば良いようなことを言いますが、そもそも、原子の世界の集積が分子の世界を説明できず断絶しているように、単品の積み上げが必ずしも部門の正しい数値にならないし、単品の分析結果の集積が部門の状態を表さないのです。

したがって、単品管理は言うに及ばず、部門分析を想定した基幹システムであることが条件になります。

基幹システムが受ける部門分析の効果とは?

同業者のみならず、通販業者やメーカー直販がマーケットを蹂躙すれば、スーパーマーケットをはじめとしたリアルな店舗を主たるビジネスにしている小売業の競争激化は加速度的に進むので、価格競争以外の対策をとって競争を勝ち抜きたいのですが、残念ながら一定の価格競争に合わさざるを得ないのが現実です。

このような競争環境においては、店・部門単位ですべてを黒字化することが必要であると推察します。古き良き時代のように生鮮部門の赤字を総菜部門で補填したり、グロサリー部門の若干の赤字を許容できた時代は終焉したのです。そのためには、部門分析をフル活用して経営を行うことになります。

 

つまり、部門分析がリアルタイムで収益状況を提示するために基幹システムは対応することになり、随分前のデータが確定するまで悠長に待つなどといった基幹システムは使い物にならないのです。

近似値であれば過去実績や計画数値さらには確定前データをフル活用して、迅速に部門分析を回さねばならないのです。

 

基幹システムの出来不出来により部門分析が左右されるのではなく、部門分析の要求が基幹システムを定義する形式に変遷しているのです。

【まとめ】基幹システムへの部門分析の効果とは?

ウォルマート創始者サム・ウォルトンの著書を日本語翻訳(故渥美俊一氏、桜井多恵子氏監訳)した本の副題でもある“小さく考えよ(Think Small)”が示すように、顧客を集合とせず、社員を集団とせず、商品を量として考えず、現場を機械のように考えないことを忘れてはならないのですが、コロナ前のインバウンドやコロナ渦中の好業績は、スーパーマーケットをはじめとした小売業の真摯な経営戦略に悪い影響を与えていないでしょうか。

 

過去にも同様な悪影響があり、これを克服したのは商品作業を意識した部門体系に基づく部門分析でした。

忍び寄る環境の悪化に対して採るべき施策は、基幹システムの改善と部門分析の見直しなのではないでしょうか。好業績の余韻がある今こそトップダウンで実行しないと取り返しのつかないことになりかねません。