基幹システムはPB(プライベートブランド)のランキングを上げて黒字化できるの?

ここは東京都千代田区神保町1丁目千代田通り沿いにある『米華街』という奇妙な名前の小さな古本屋のビルの2階にある住居兼事務所です。

主の名は写録朋無徒(しゃろく ほうむず)と言って探偵業を生業にしています。

 

そこにビルの大家である伯土村(はどむら)が訪ねてきました。

彼女が訪問する時は経営する古本屋の来店客同士の会話を盗み聞きして、勝手に事件が発生したと思い込み、探偵を営む写録朋無徒に持ち込むのです。たいていは収入には結びつかないので無視したいのですが、格安条件で入居している負い目があるので、ほうむずは聞き入れるしかないとあきらめているのです。

基幹システムとプライベートブランド(PB)にブランドは似合わない

【登場人物】(すべての組織・人物はフィクションです。)

写録 朋無徒(しゃろく ほうむず:通称ホウムズ)=IT知識が豊富な私立探偵

ワトソン=ほうむずを補佐するAI(Artificial Intelligence)

森 哀酊(もり あいてい:通称 森教授)=頭脳明晰だが悪の首領で大学教授。ホウムズの宿敵

伯土村(はどむら:通称:ミセスハドソン)=写録朋無徒が住む下宿の主人

 

ワトソン

ミセスハドソンがいらっしゃいました。いらっしゃいませ、ミセスハドソン

 

ミセスハドソン

毎度のことだけどコンピュータが話すのは慣れないね。そのうえ江戸っ子に『ミセス』を付けて呼ぶなんて、アメリカさんの機械だから仕方がないのかね。いっそのこと一昔前の様に『ミ・セ・ス・ハ・ド・ソ・ン・ガ・キ・マ・シ・タ』とぎこちなく話すのならましだけど、こうも人間と変わらない話し方をされるのは気味が悪いよ。

 

ホウムズ

いらっしゃい、ハドソンさん。今どきのAIはそこらの人間より気の利いた会話をするようになっていますよ。ハドソンさんも一つお持ちになりますか。

 

ミセスハドソン

冗談はよしとくれよ。わたしゃおっこちきってたうちのし(ぞっこん惚れてたうちの旦那)があちらへ旅立って以来一人身だけど、機械と世間話をするほど落ちぶれちゃいないよ。そんなことより、さっき店から出て行った怪しい人相の二人連れが、城山三郎のコーナーの前でダブルチョップとか差別とか商道徳に反するとか息の根を止めるとかひそひそ話をしていたんだ。これは悪い謀(はかりごと)が起こっているように思うんだけどどうだい。

 

ホウムズ

城山三郎と言えば経済小説の開拓者と言われている作家ですが、二人は本を手に取っていましたか。

 

ミセスハドソン

そう言えば、一人は『価格破壊』というタイトルの本を買っていったよ。その時に領収書を出すように言われて出したんだけど、宛名が『森哀酊』だったね。変な名前だから覚えたんだよ。

 

ホウムズ

『森哀酊』だったのですか。まだ近くにいますかね。

 

ミセスハドソン

1時間ぐらい前だから近くに居ないと思うね。

 

ホウムズ

森哀酊と言えば森教授の事ですね。確かに何か悪巧みの匂いがする。ワトソン、『価格破壊』という小説には何が書かれているのか教えてくれないか。

 

ワトソン

1969年から連載されたダイエー創業者の中内㓛をモデルにした経済小説です。1981年にはNHK土曜ドラマとして和田勉が演出して話題になりました。ミセスハドソンのお聞きになったダブルチョップや差別はPBにつながります。小説の中でもPBつまりプライベートブランドがクローズアップされています。

 

ミセスハドソン

プライベートブランドというのは新しいブランド商品の事かい。

 

ワトソン

そうではありません。ブランド商品とはナショナルブランドつまりNBといって、広く周知されている商品の事ですが、PBはNBの3分の1の売価で販売する事を目指して小売企業が開発する商品です。原材料調達から製造方法、物流から販売責任まで全て小売企業が担います。ですから、NBの様に売れ行きを見ながら補充発注をする方法では無く、類似商品の販売結果を基幹システムで分析して、一定量を作成し販売しなければなりません。低価格を実現することができるので爆発的に売れる可能性がありますが、売れなければ大量の在庫が小売企業を痛めつけます。

 

ホウムズ

つまり、PBはNBの様にメーカーが大金を使ってテレビCMなどで良いイメージを大衆に植え付けて、無意味な仕様やデザインで売りつけようとするブランド戦略を排除して価格に反映する事なのです。正に『名を捨てて実を取る』ことなので、基幹システムも同様にブランドイメージよりは中身ですね。

 

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基幹システムをフル活用したPB商品の開発

ワトソン

ご主人様、発信者非通知の電話が掛かっています。お出になりますか。

 

ホウムズ

職業柄、非通知電話に出なければ仕事が取れなくて、おまんまの食い上げだよ。もちろんで繋いでくれたまえ。もしもし、写禄朋無徒です。

 

森教授

ホウムズ君かね。こちらは森哀酊という者だ。君が東京に出てきてこの方、私の計画にことごとく邪魔をする。全く癪に障るが今回は今までとは違って大仕掛けなので、君が気づいた時には邪魔ができない位に世の中が変わってしまっている。流石の写禄朋無徒も手出しできないのだ。

 

ホウムズ

これはこれは、誰かと思えば森教授。わざわざそちらから電話を下さるとは恐縮です。それも、悪巧みの予告をしてくるとは、時代掛かったテレビの探偵物でも見ているようです。また、ホウムズが手出しできないとのお言葉ですが、今回も今まで同様に森教授の悪巧みは私が阻止しましょう。

 

森教授

忌々しい物言いだが、せいぜい強がりも今のうちに言っておくことだ。間もなく東京中がひっくり返る事態が発生して、君が吠え面をかく姿が目に浮かぶよ。君が世話になっている梅干しばあさんのほこり臭い古本屋もあっと言う間に息詰まるから、ばあさんに注意しとくように言っときたまえ。

 

ミセスハドソン

無粋者だね。会ったこともないのに『梅干しばあさん』呼ばわりするとは。多少しわが目立つけど梅干しほどでもないしね。あたしゃこう見えても一昔前の神保町界隈じゃ小町と言われてすれ違う男衆がみんな振り向いたもんだい。梅干しばあさん呼ばわれは100年早いよ。

 

森教授

そこにいたのか『梅干し』。今言ったようにほこり臭い店を畳む準備でも始めるのだな。

 

ホウムズ

今の会話であなたの悪巧みのおおよそが見えてきました、森教授。あなたは中内㓛氏が価格破壊で彼の店のあおりを受けて近隣の商店を倒産に追い込んだように、安売り商品を市場に放出して、東京の流通を混乱させようとしているのですね。確かに初期の中内氏は買い占めにより流通を混乱させましたが、『安売り哲学』を追求してPBを開発したのです。つまり、既存の流通経路を見直して、日本特有の多段階商取引による高価格化を破壊して安売りを実現したのであって、森教授、あなたがやろうとしている事は、単なる特売にすぎないのです。巷の特売との違いは短期集中では無いだけで、いつかは行き詰まるのは明らかです。必要な品質のみを満たして、NBに大衆が持つ価値観を破壊する安価なPBを継続的に供給し続けるためには、小売企業が新しく生産と供給と集荷の体制を作らねばなりません。つまり、基幹システムをフル活用したPB開発が必要になるのですが、森教授、あなたが手配しているとは思えません。

PBがなぜ安いかを基幹システムで検証する

森教授

(暫く唸っていたが)忌々しい奴め。我が大規模かつ完璧な計画を秘密裏に作成してきたはずなのに、そこまで読まれているとは想定外だ。しかしだな、我が国の大衆は未だに有名メーカーに対する信頼が高いし、小売企業が生産などに責任を負っているとは思ってもいない。だから、NBの安売りの方が大衆受けするはずだ。要は全量を買い取って安く買い叩けばうまくいくはずだ。

 

ホウムズ

ワトソン、森教授の言った方法を何というのか教えてくれ。

 

ワトソン

タブル・チョップ・ブランドと言います。日本以外では小売企業が仕様書を作ってメーカーに作らせるので、同一メーカーの同一商品でも仕様が違って小売企業の特色を出せるのですが、日本ではメーカーの作る仕様書を小売企業が認めるだけなのでNBとほとんど同じです。したがって、一時的に安価で供給を受けることができたとしても継続性はなく、短期間で安値販売を終了することになります。その後はNBより何割か安いだけの価格設定で販売を継続することになります。

 

ホウムズ

ワトソン、ありがとう。森教授、ワトソンが言った解説を聞きましたか。あなたのたくらみは短期的なので、あなたの思惑通りの結果を出すことはないでしょう。

 

森教授

言わしておけば言いたい放題だな。それでは聞くが、PBが安値を継続できる理由と検証方法は。

 

ワトソン

基幹システムを活用すれば容易に検証できます。先ずは、NBの安値販売は値入の圧縮が必要になります。しかし、PBはNBの半値以下の価格でも値入率は定番の倍以上を獲得できます。基幹システムには販売実績以外にも仕入実績若しくは入荷実績が蓄積されているので、単純な計算で導くことができます。単品レベルの十分な値入は営業利益も獲得しているので長期にわたった継続が可能なのです。

 

森教授

ほうむずも忌々しいが、ワトソンとかいう輩も腹立たしい。いったい何者だ。

 

ホウムズ

私が作ったAIですよ。

基幹システムとPBとメーカーの相関関係図

森教授

どうりで嫌みな話し方が似ている訳だ。では、AIに聞くが国内メーカーが主導するNB信者が我が国には多い。PBでは国内一流メーカーが作った製品でもメーカー名が表示されないが、消費者に対するアピールはどうしているのか。また、PBが単に安くて儲かる商品であれば、基幹システムが介在する余地は少ないのではないかを答えてみよ。

 

ワトソン

仰る通り、戦後の混乱期を経て大規模化した日本の製造企業は、日本の消費者に対しクオリティーをコミットして信頼を獲得しました。当時の小売企業で企業規模が大きかった百貨店は、今でいうダブルチョップ若しくはSB(Store Brand)を持っており高いクオリティーのイメージ作りにも一役買っていたのですが製品企画は製造企業が行っていました。しかし、大丸百貨店の紳士服『トロージャン』やダイエーのみかん缶詰やインスタントコーヒーは販売責任者つまり大丸やダイエーが製品を企画してクオリティーをコミットしたのです。無論、当初は消費者の支持が薄かったのですが、次第に大規模な小売企業に対する信頼を大衆が持ち始めて支持拡大につなげていきました。今や、メーカー企業に比べて同等かそれ以上の規模を持つ小売企業への信頼がメーカーに対する信頼を上回るようになったので、PBはNB以上に販売実績を持つようになったのです。次に…

 

ホウムズ

おいおい、僕にも言わせてくれよ。森教授の次の質問である、基幹システムとの関係ですが、小売企業が在庫リスクを持つPBは、NBに比べて店頭における状況対応がしやすいのです。つまり、各店舗への流通に関する納品単位等の流通パラメーターは、自社責任商品であるがゆえに自由な設定が可能になり、店頭の在庫リスクは抑えることになります。無論、企業としての在庫リスクは重いので、基幹システムを活用してコントロールする事は欠くべからざることなのです。

 

森教授

揃いも揃って理路整然滔々としゃべりおって。ぐうの音も出ないじゃないか。今回はあきらめてやるが、次は手も足も出ないようにしてやるから覚悟しろよ。必ず吠え面をかかしてやるぞ。

 

ミセスハドソン

黙って聞いてりゃ言いたい放題。このすっとこどっこい行儀が悪いよ。城山三郎さんは『行儀の悪い人はいつでもいますよ。しかし、行儀の悪い人はどこにも通用しない。一発勝負やって当てる程度。いずれは行き詰る。』と言ってんだよ。覚えて置きやがれ。

 

森教授

言うね『梅干し』。一つ良いことを教えてやろう。城山三郎はこうも言っている。『この世の中には、あきらめなくてはならないことなんて、ひとつもない。』だから、わしもあきらめずに悪事を働いてやるぞ。