小売業で成果を出すマネジメントとは?【中堅スーパーマーケット編】

小売業で成果を出すマネジメントとは?【中堅スーパーマーケット編】

マネジメントに関して、『マネジメント』の著者ピーター・ファーディナント・ドラッカーが著わしているように「『マネジメント』は、世界で最初の、かつ今日にいたるも唯一のマネジメントについての総合書」であり、その著作ではマネジメントについて「組織の外部において成果をあげるための道具、機能、機関である。」と言っています。

 

そして、マネジメントには基本とすべきものと原則とすべきものがあり、基本と原則に反するものは例外なく時を経ず破綻する事実があると言っています。

裏を返せば、マネジメントの基本と原則に即したものは破綻を免れる可能性が高いと言えます。では、小売業版マネジメントの基本と原則は何でしょうか。

 

本記事の筆者は『マネジメントの基本は組織と人であり、原則は組織の外部であげる成果』と考えております。

小売業に置き換えると、基本が商品部や店舗運営部等の組織が従事者になり、大衆の日常に本当の豊かさを享受できるように導く活動と理解しています。

 

本来であれば、ドラッカーの著書、『マネジメント-課題、責任、実践』上・中・下三巻で合計892ページ、『エッセンシャル版マネジメント 基本と原則』302ページを購読して頂くと良いのですが、多忙な方々は本記事で“さわり”をお読みください。

小売業にマネジメントは必要なのか

【登場人物】

いずみ・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』グロサリー主任

佐藤・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』店長

鈴木・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 本部』グロサリーMD(マーチャンダイザー)

伊藤・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ』取締役常務執行役員 店舗運営部長

スーパーマーケット『キャップ 栄店』の事務所で、背もたれから軋み音が出る事務椅子に座っている佐藤は暗い顔をして溜息をついていました。そこに遅番で出勤してきたいずみが元気な挨拶と共に入ってきたのですが、佐藤に気づき気まずさを感じたのでした。

いずみ

店長、どうかしたのですか?いつものエネルギッシュさが無いですね…

 

佐藤

すまないね…出勤早々さえない顔で士気を下げさせてしまって申し訳ない…

 

いずみは返す言葉が無く、無言の佐藤をしばらく心配げに見つめていたのでした。そんな暗い空気の漂う事務所に鈴木が入ってきました。

鈴木

佐藤さん、心配しましたよ。大丈夫ですか?

 

いずみ

鈴木さん、佐藤店長に何かあったのですか?

 

鈴木

店舗運営部の会議が今日午前にあって、佐藤さんが栄店の実績発表をしたら、伊藤常務から厳しい指導があって凹んで本部から出て行ったと聞いたのです。

 

いずみ

伊藤常務はいつも温厚で、部下思いの役員で社員からも好かれていますよね。

 

佐藤

元はと言えば、栄店が営業利益目標を達成できなかったから悪いのであって、伊藤さんの指導は当然のことなのです…

 

鈴木

しかし、数値だけが達成すべき目標では無いにもかかわらず、聞くところによると伊藤常務は佐藤さんの事をストア・マネージャー失格と叱責されたそうですね。

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小売業におけるマネジメントのあるべき姿

いずみ

店長とは数値目標を達成するだけでは無いことはおぼろげながら感じるのですが、お店のマネージャーとして何をしなければならないのですか?

 

鈴木

今の佐藤さんからは言いにくいと思うので僕から説明しよう。

ストア・マネージャーは店舗をマネジして店舗と言う組織の成果に責任を持ちます。
そして、『キャップ』は『地域社会の皆様に、本当の豊かさを享受していただけるようにする』ことを果たすべき役割…つまり成果としています。
これはいずみさんも熟知していますよね。
そのために、われわれ商品部メンバーが商品づくりを担当し、佐藤さんたち店舗運営部メンバーが店づくりを担当して、あるべき状態をつくり、それと同時に、組織運営に必要な手段としての利益を確保するために、商品部が荒利益の目標を持ち、店舗運営部が営業利益の目標を持ちます。
マネージャーはこれらの目標を達成させるように、担当する組織運営を実施し、各組織で働く人々の自己実現を通じて仕事に生かす、つまり、最もふさわしい方法を全員に教育し完全実施を確認して方法を改善して教育し直します。
これらを繰り返しながら、地域社会に本当の豊かさを実現していただくのです。

 

鈴木がいずみに小売業におけるマネジメントの説明をしている『キャップ栄店』事務所の入り口の外で会話を静かに聞いている人物がいました。事務所の前を通りかかった人たちは、その人物に会釈をするのでしたが、その都度その人物は自分の口の前に右手人差し指を立てて、声を出さないようにとのシグナルを送っていました。しかし、いずみは気配に気づいて事務所入り口の人物を見て驚いたのでした

マネジメントの小売業事例

いずみ

伊藤さん!

思わず発した名前の主は照れ笑いしながら事務所に入ってきました。

 

伊藤

直ぐに入ってこようと思ったのですが、鈴木さんが説明している内容に感心してしまい、盗み聞きみたいになってしまいました。

実は、佐藤さんを叱責した理由をもう少し丁寧に説明しないといけないと思ってきたのです。
もちろん、栄店の数値は叱責されてしかるべきレベルなのですが、佐藤さんなら来月か再来月までには挽回してくれるとわかっていたので、『ストア・マネージャー失格』と衆人の前で叱責したのは言い過ぎなのです…

ただ、店舗運営部のマネージャーには悪い結果も他責にしてしまう傾向があったので、佐藤さんには悪かったのですが、参加者全員の気を引き締めるために叱責したのです。
言わば佐藤さん一人に対してでは無く、全員を叱ったのです。

 

佐藤

伊藤さん。当初は叱責されたのは栄店のみで、同レベルの成績の店長が叱責されないのを疑問に思ったのですが、その後に伊藤さんの話した内容は未達店舗の店長全員を諭していると解かりました。

 

伊藤

補足する必要はないですが、マネジメントの役割について、私の経験事例を話しましょう。

まず、最初に確認しておかなければならないことは、マネジメントは利益を獲得するためにあるのではなく、利益は目標を果たすための手段であると言うことです。
『キャップ』の社員にも『儲かれば文句はないでしょ。』という者がいますが、そのような思い違いが間違った行動の原因であり、『キャップ』の目標は『地域社会の皆様に、本当の豊かさを享受していただけるようにする』なので、これを果たすには地域生活者にご来店を頂いてお買い上げいただかなければならないのです。

つまり、小売業における『顧客の創造』とは、お買い上げいただくお客様の集客です。
そのために店舗には誰でもが日常的に消費する商品が躊躇することなく買える値段で容易に購入できる状態にし続けなければならないのです。

そしてお買い上げくださったお客さが美味しく食べて健康的な暮らしを充実し楽しい生活をして頂くために貢献しなければならないのであり、これを果たすのがマネジメントなのです。

 

佐藤

伊藤さんが仰る『充実した暮らしへ貢献』するには、商品部が調達する扱い商品の鮮度や品質、価格、品揃えが大切なことは良く分かりますが、われわれ店舗メンバーにとって大切なことは何でしょうか。

 

伊藤

われわれ店舗運営部は、商品部が調達する商品を高い生産性で最も効率的な手順で販売し、イノベーションを起こす原資としての営業利益を獲得するのです。
具体的には、果たすべき職務の具体的な方法を明示したマニュアルを作成して、教育を繰り返し実施して、習慣化するようにしています。このマニュアル化の原理としているのが3S…つまり標準化、単純化、徹底化であり、常に3S的見直しを繰り返しながら改善と改革を進めているのです。ですから、社会に貢献するための手段に過ぎない営業利益であっても、それ失くしては社会貢献が不可能になるのみならず、利益目標の未達は計画段階の合理的生産性に基づく必要人時数が超過していると見なさざるを得ず、店舗オペレーションが不適正であると見なすので叱責せざるを得ないのです。

 

マネジメントは小売業の成果に貢献する

佐藤

大変申し訳ありません。伊藤さんのお話をお聞きするまでは、伊藤さんのメンツがつぶれたので営業利益未達を叱責されたと思い違いをしていました。営業利益を得ることは儲ける事であり、少々罪悪感を持っていたのですが、お買い上げいただいたお客様の生活を豊かにするための手段として必要であり、『キャップ』の果たすべきミッションを成すためにマネジメントがあることを良く理解しました。

 

伊藤

キャップのクルー全員が深く理解するように、われわれ経営層も努力を惜しまないですが、佐藤さんや鈴木さん、いずみさんにも折に触れて皆さんに話をして欲しいのです。
そう言えば、今日の役員会で聞いたのですが、鈴木さんは中村店の高橋さんと婚約したそうですね。お付き合いをしている事すら全く知らなかったので少々驚きました。

 

いずみ

伊藤さんは御存じなかったのですか。鈴木さんと高橋さんが会話している時の二人の目を見れば、婚約も時間の問題と分かりますよ。経営に精通している伊藤さんでも、“恋のいろは”は見当違いなんですね。

 

伊藤

いずみさんは手厳しいですね。

高橋さんや鈴木さんは私の近くで働いていたにも拘らずとんだことです。恋に関してはいずみさんの方が私より詳しいですね。

 

伊藤はそう言いながら苦笑いしていた。

【次回に続く。乞うご期待!】