新店出店に役立つ基幹システムとは? その戦略と戦術

新店出店は中堅チェーンストアにとって非日常の業務が多発します。大手チェーンストアの様に新店出店用のITシステムを持つことができれば良いのですが、数年に一回しかないので現実的ではありません。

 

そうかと言って、手持ちの基幹システムと無縁の手作業を思い付き行って済むほど生易しいことではありません。

中堅チェーンストアにとって新店出店は企業存続にとっての一大事ですので、企業戦略と戦術が出店戦略と戦術とリンクしていることは論を待ちません。

 

そしてこの戦略と戦術がITシステムの支援で効果的に実施できるようにするために、基幹システムの新店出店支援機能が望まれます。本ブログでは、新店出店の戦略と戦術を多角的に支援する基幹システムの機能を解説します。

新店出店に適した基幹システムとは

【登場人物】

いずみ・・・・スーパーマーケット「チェーンズ」の一般食品MD

マスター・・・ワインバー「テロワール」のマスター

名古屋の中心部から名鉄電車で4つほど離れた、普段は普通しか停車しないT駅は、午後10時を過ぎると電車を降車した乗客が居なくなり寂寥感が闇夜を包みます。そんな街並みの一角に「テロワール」はささやかな看板を出して営業していました。今日もいずみはスーパーマーケット「チェーンズ」の新店出店の準備に追われて残業を強いられ、やっと仕事から解放されたのでした。コロナ禍が過ぎて2年が経過し、世の中が落ち着いてきたところで、中堅スーパーの「チェーンズ」は居ぬき物件に5年ぶりの新店出店をすることになったのです。いずみは激務で荒んだ神経を癒そうと行きつけの「テロワール」に入ったのですが、他に客は居ませんでした。

マスター「いずみさん。いらっしゃい。今夜も遅くまで仕事ですか。」

「久々の新店出店だから準備作業に慣れてなくて、皆が右往左往しているの。時間ばかりが過ぎてしまって、作業が一向に進まないのよね。」

マスター「お疲れ気味のいずみさんには、最初に甲州ブドウで造った泡(スパークリングワインの事)がお勧めです。柑橘系果実のフレッシュなアロマと、繊細で上品なフローラルと、リンゴやナシを思わせる果実の風味を溌溂とした酸が全体を引き締め、後味はドライな仕上がりですよ。」

マスターはいずみがOKを出すのを待たずにスマートなフルートグラスにパールイエローの液体を注いでいた。ワインに詳しい者に総じて共通するのは、ワインを語る時には気障(キザ)に見えることなのであるが、単に教科書通りと言っても良い所作なので誤解は禁物です。

「マスターのおすすめは、いつも私の心を鷲掴みにするわね。かといって、マスターには男としての魅力を感じないのは、私の問題かしら。随分とテロワールに来てるけど、マスターのことを聞いたことが無いわよね。マスターはずっとお酒関係なの。」

マスター「自分のことをぺらぺらと喋るのは好きじゃないけど、いずみさんの願いじゃ無下にもできないですね。お酒関係は当たりだけど、前は大手スーパーマーケットの酒類バイヤーをやってたんですよ。」

「すごーい。今の私にとってうってつけの救世主じゃない。ぜひとも、教えてほしいことが沢山あるのだけど、先ずはバイヤーやMDが新店出店時にしなければならない業務は、どんな種類があるの。」

マスター「単なる小手先の作業をこなすのではなく、チェーンストアの『標準化』と言う大命題の元で、店のイメージや品揃えコンセプト、扱い商品の中心的な価格帯が決められていますよね。これに自分の担当部門の商品政策すなわち具体的な品揃えと絞り込んだ価格帯を決め棚割を実施して、発注と納品検収そして陳列作業。ざっとこんなところでしょうか。」

「さずがは大手スーパーマーケットのバイヤーをやっていたノウハウはすごいわね。うちの会社は似たような規模の店の品揃えを元に地域密着だとか競合店対策とか言って部分的に品揃えを変更するのよね。」

マスター「いずみさんのお店を批判するようで心苦しいのだけれど、今いずみさんが言った行為を昔やったら、行き当たりばったりと叱責されましたよ。新店出店であっても『標準棚割』に沿った品揃えをしなければダメ出しを食らったもんです。」

「うちの会社では新店出店は基幹システムをほとんど使わずに、お取引先任せで開店までを凌いで、後追いで基幹システムとの辻褄合わせをすることになりそうなの。うちの基幹システムは新店出店に向いていないのかしら。」

マスター「大手スーパーマーケットでは、基幹システムと連携する新店出店システムが有って、指定された順番に作業を進めていくとスムーズ且つ漏れなく完全作業ができてしまうようになっていたのですが、新店出店システムが無くても、基幹システムに品揃えや棚割の標準化ができるようになっていて、全店共通部分と店別登録が可能であれば十分間に合うと思いますよ。」

マスターの居た大手スーパーマーケットも開業時は零細スーパーマーケットであったから、基幹システムを利用した新店出店を行っていた時があり、マスターはその頃にはバイヤーとして活躍していたようです。

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新店出店前の基幹システム準備とは

マスター「これは失礼しました。話に夢中だったのでいずみさんのグラスが空いていたのに気づきませんでした。今日は日比野の場外卸で良い舌平目を買ってきました。抑えめのハーブに醤油を少々入れたムニエルがいいと思います。そして、バターのコクをまとったムニエルには、コクのあるタイプのシャルドネ白ワインの甘みのあるトロピカルフルーツの凝縮した果実味が、より広がりのあるコクを醸しだす素晴らしいペアリングです。」

「舌平目のムニエルは女子高のテーブルマナーで出てきたけど、身の取り方や骨の捌きをナイフとフォークでしなくちゃいけないから、めちゃくちゃ苦労した覚えがあるので美味しそうだけど抵抗があるな。」

マスター「ここは高級フレンチレストランではないので、マナーは気にせず、箸と指でどうぞ。当店のマナーは唯一『美味しく食べる事』なんですから。」

マスターは手際よく舌平目のムニエルを作ると、仕上げにフライパンに白ワインを入れて蓋をし、その白ワインをいずみの前に置いたモンラッシュグラスに注いだ。

マスター。料理用じゃないワインをフライパンに入れるなんて、もったいなくない。」

マスター「意見が分かれますが、僕は一緒に飲むワインを料理に少し使った方がペアリングが増すと思います。ところで、新店出店と基幹システムとの関係の続きですが、基幹システムの商品マスターに品揃え対象商品が適正に登録されていることを確認し、割り当てられたゴンドラに陳列位置決め、つまり棚割を実施して棚割マスターにも登録し、棚割に基づいた初回発注と開店時のエンド陳列商品決定と条件交渉、そして発注を基幹システムに入力してお取引先にEDI発注を行う。新店出店時の納品は物流センターのキャパシティを考慮して店直納品になることが多いので、可能であればお取引先の応援を得て陳列することになります。」

いずみはマスターのノウハウを一言も聞き漏らさないようにしながらも、出来立ての舌平目ムニエルと適度に冷えた白ワインを味わいました。

基幹システムの新店出店支援機能

マスター「いずみさんの食べっぷりと飲みっぷりには惚れ惚れしますね。お勧めした甲斐が有るというもんです。そんないずみさんのメインディッシュは、Tホテル総料理長直伝『鴨のロースト』にブルゴーニュの赤を合わせてはいかがですか。ピノノワールのフルーティーで比較的引き締まった味わいを持ち、口内での持続力に優れている豊かな飲み心地とタンニンの収斂性が特徴な凝縮された果実味と力強いコクにバランスの良いきれいな酸が感じられる本格派ジュヴレ・シャンベルタンが最高のペアリングになります。」

鴨のローストは調理に少々時間を要したのですが、艶のある美味しそうなローストされた鴨肉がすっきりしたデザインの皿に盛りつけられて、すっきりしたルビー色のワインが注がれたブルゴーニュグラスと共に出されました。

「マスターの料理人の腕とソムリエの知識には脱帽ね。とても前はお酒のバイヤーだったとは思えない。今度はバイヤーの話の続きを聞きたいのだけど、マスターが前に勤めていたスーパーマーケットでは、基幹システムが持っていた新店出店支援機能はどんな種類があったの。」

マスター「ワインの良し悪しを決めるのは葡萄とテロワールとヴィンテージそして作り手の技だと言われます。中でもテロワールは気候や土壌の質、地形学、周辺に生える植物の事で、高い格付けを持つワインは限定的な葡萄畑つまり優れたテロワールから収穫される葡萄で造られたものなのです。同様に新店出店支援機能の良し悪しは、単に基幹システムだけが良ければいいのではなく、運用マニュアルやサポートエンジニアも深くかかわるのです。つまり、基幹システムが葡萄であれば、大事なのはマニュアルや支援技術者といったテロワールが大切であると言っても過言ではないでしょう。」

「マスターはそう言うけど、基幹システムの新店出店支援機能は有ったのでしょ。」

マスター「前に言った標準棚割を新店に適用して登録できる機能や棚割が持つフェース数から計算できる最大在庫数を新店発注に生かす機能が在りましたね。」

基幹システムが及ぼす新店出店の戦略と戦術

激務の影響かワインの酔いか、睡魔と戦っていたいずみの前に、鮮やかな赤色のイチゴが純白の生クリームに乗ったショートケーキが出されると目が覚ました。

「マスターは憎いね。舌平目のムニエルと鴨のローストで御腹が一杯なのに、別腹を出されたら食べたくなっちゃうわ。この後はコーヒーが出るの。」

マスター「矢場町の『まっつぁかや』へ行ったらエスカレータ正面のケーキ屋さんに美味しそうなショートケーキを見つけたので買ってきました。コーヒーでも良いですが、澄んだ琥珀色で貴腐香と呼ばれる独特な芳香に凝縮された甘さが特長の貴腐ワインを合わせるととても美味しいですよ。」

いづみはマスターの催眠術にかかったように脊椎からOKの相槌を打ったのでした。マスターは手早く抜栓し、コルクの香りを確認した後に小ぶりなデザートワイングラスに氷温近くまで冷やした琥珀色の液体を注ぎ入れたのでした。

「今どき名古屋発祥の百貨店を『まっつぁかや』なんて言うのは、お迎えが間近なお年寄りしかいないわよ。貴腐ワインは極甘口と聞いていたから、どんな食べ物とペアリングしたら良いか分からなかったので敬遠してたけど、エスカレータ正面のケーキ屋さんの甘さ控えめのショートケーキに合わせるとは、すごく興味を刺激するわね。」

いずみは言い終わるや否やケーキにフォークを立ててひと口分を切り、そのまま手前に倒して口に運び、すかさず琥珀の液体が入ったワイングラスを鼻の下にもっていき濃厚な甘美の香りを楽しんだ後に軽く一口含んだのでした。こうなると貴腐ワインの甘い迷宮をさまよう巡礼者のようになり、いずみの下がり気味の目尻がトロンと落ちそうになったのでした。

「色、香り、味わい、余韻の全てが、今まで味わってきたお酒とは全く違う黄泉の国のお酒と言って良いくらい。今日はとっても癒されたわ。マスターのディナーは戦略、戦術がとても良く組上げられていて、唯々驚きの連続だわ。」

マスター「有難うございます。しがない酒類バイヤーの成れの果てのワインバーのオヤジに対しては、勿体無いくらいのお褒めの言葉です。戦略、戦術が出たついでに、基幹システムが及ぼす戦略と戦術を語りましょう。

戦略として大事な考え方は、『売る・売り込む』のではなく『売れてしまう』であるといずみさんも知っている故渥美俊一先生が仰っていましたが、この『売れてしまう』ために基幹システムが備えるべきは、売れてしまうに伴って仕入が誰でも簡単に『出来てしまう』機能です。

さらには、人が人に教えるのではなくマニュアルが標準化されていて、読むだけで出来てしまうようになっていなければなりません。これらを常日頃から改善し続けていることが戦略なのです。

そして、仕入に関して言えば商品が複数のお取引先から調達できるようになっていなければならず、お店によっても調達先や条件が変化できるように基幹システムが対応していなければなりません。臨機応変に仕入を変化することができることが戦術なのです。」

マスターは熱弁のあまり己の世界に没入していることに気づいたのは、いずみが舟を漕いでいるのを見たときでした。