小売業の原価率計算 初歩的かつ重要な指標を解説【ワイン編】

KEYWORD :
小売 学び 

小売業では他の業態では使われない仕入売価高を利用するので、一般的に仕入高と言われる言葉は小売業では仕入売価高と明確に区別するために仕入原価高を使っており、仕入原価高を単に原価という場合もあります。

この仕入原価高を売上高で除したものを原価率と誤解しているケースがありますが、在庫高を考慮しない簡易モデルで通用するだけです。現実には在庫高を加味していないので売上原価高にはなりません。売上原価高とは期首原価在庫高に期中原価仕入高を加算して期末原価在庫高を減じたもの(期首原価在庫高+期中原価仕入高-期末原価在庫高)が売上原価高です。更に在庫高の計算方法つまり棚卸資産の評価方法には諸種存在するので、企業が採用している方式で計算することになります。この様に、原価率とは単純なようで奥深い言葉ですので、本記事で詳しく解説します。

小売業の原価率は売上か仕入か

【登場人物】

いずみ・・・・スーパーマーケット「チェーンズ」の一般食品MD

マスター・・・ワインバー「テロワール」のマスター

名古屋市内には、主要私鉄駅の周辺でありながら普通電車しか停車しない駅は乗降客が少ない駅が多く、駅員が常駐しない所謂『無人駅』の周辺は過去の賑わいが嘘のように寂れている場所が少なくないのです。いずみが向かっている「テロワール」の最寄り駅“T”も寂れた駅の一つであり、夜の帳が降りる頃ともなると、すっかり人通りが減ってしまうのでした。そんな暗がりだからこそ、さほど明るくもない「テロワール」のネオンが細やかながら目立つのです。看板が目立っていても、今日も客はいませんでした。

 

いずみ

あー疲れた。

 

マスター

いずみさん、いらっしゃい。入ってくるなり疲れたとは、いつものいずみさんらしくないですね。

 

いずみ

そうなの。今日は「チェーンズ」カリスマ会長恒例の臨店指導があって、中堅店舗の一般食品売場で相乗積の御下問があったの。
そしたら、その店の店長が即答できなくて、雷が落ちたの。
即刻関係者に招集指令が発せられて、大勢が雷の落ちた店舗に集合し、私も目立たないように片隅で隠れるようにしていたけど、会長と目が合ってしまって質問の矢が飛んできたの…

 

マスター

まあまあ、詳しい話は後でゆっくり聞きますから、先ずは疲れを和らげる良く冷えたイエローラベルのシャンパーニュをどうぞ。

 

いずみ

あら、ひょっとしてこのワイングラスは、オーストラリアで250年以上前からワイングラスを作っている老舗の物じゃない。
結構高価だけど大丈夫?

 

マスター

さすがはいずみさん。良い物に対する目利きは優れていますね。その通りです。
ワイングラスは消耗品と心得て割れても惜しくない値段の物を使うのが常識だけど、今日はいずみさんの為に使ってみました。

 

いずみ

イエローラベルの泡(スパークリングワインの事)は、色と香りと味わいが素晴らしい事は言うまでもないけど、
このグラスに注ぐと一層泡立ちが引き立つのね。

 

マスター

ご満足いただいて嬉しいです。
話の続きを聞かせてください。

 

いずみ

マスターも大手スーパーマーケットで働いていたから、相乗積が荒利率と売上構成比を乗じた数値なのは知っていると思うけど、
私への質問は店長への質問と違ったの。

私への質問は、『この店の一般食品部門は相乗積が思わしくなく、原因は荒利率だと見ている。その原因は低値入かロスかどちらだ。』だったの。

 

マスター

さすがは一代で今の「チェーンズ」を作り上げた方です。
相手に合わせた説妙な質問をされますね。

 

いずみ

どういう事?

 

マスター

店長は売上や荒利に責任が無く、営業利益に責任を持つのがチェーンストアの常道です。
つまり、店長は部門の構成比や荒利率と販管費を俯瞰的に把握しながら、適時適切に販管費の中でも特に人員配置を調整して人件費を適正にする義務を負っています
ですから店長には相乗積をお聞きになったのだと思いますよ。
そして、いずみさんはMDなので責任数値である荒利率と値入とロスをお聞きになったのですね。
ところで、いずみさんは何と返答したのですか。

 

いずみ

当然、全店の一般食品部門の数値は頭に入っているので、その店のロスは問題が無いと分析済みだったから値入に改善の余地があると答えたの。

 

マスター

やっちゃったな―。会長の雷では無く、爆弾が落ちたのではないですか。

 

いずみ

そうなの。いきなり本社に戻ってしまったの。
なぜわかるの。

 

マスター

会長は良くも悪くも業界の有名人ですから、僕でも想像ができます。
話を続ける前に次のワインを如何ですか?

 

いずみ

お腹が空いているからヒレステーキを食べたいのだけど、フレンチほど重くなく、和食風よりエキゾチックな、イタリアンでお願いします。
それに合わせるワインは…

 

マスター

おっと。ワインを選ぶ仕事を僕から取らないでください。
イタリア風のヒレステーキにはスーパータスカンの『ボリゲリの奇跡』と呼ばれるワインをどうぞ。

 

いずみ

スーパータスカンがあるの?

 

マスター

そうです。果実味が感じられ、香りはあくまでエレガントに、スパイスのニュアンスが複雑さを感じさせる濃厚な味わいのスーパータスカンとイタリア風ヒレステーキとのペアリングがいずみさんを癒すことを受合います。
ステーキが出来上がるまで話の続きをしてください。

 

いずみ

店に集まった関係者の中にいた商品部長に模範解答を聞いたの。
そうしたら『”値入に問題が在ることは解かっていましたが、競合他店の売価を意識せねばならないので、売価つまり売上を維持しつつ荒利率を上げるために原価率を下げる対策をしている最中です。”と答える方が良かった。』というのよ。

 

マスター

おたくの商品部長らしい答えですね。
値入改善というと仕入売価高を上げる、つまり値上げする方策を取りがちですが、売上原価率を下げて荒利率を上げる、つまり仕入原価を下げる交渉をしつつロス削減にも手を打って売上原価率を下げることを会長は期待していたのだと思います。

 

いずみ

売上原価率なのに仕入とロスなのね。
頭が混線しそうだわ。

 

CHAINS0111CHAINS0112

小売業の原価率は過程か結果か

いずみ

ところでマスター。小売業で率の話題が出ると掛け率が出てくるのだけど「チェーンズ」では使わないの。
なぜなのかマスターは知らないかしら。

 

マスター

一言でいえば定価の〇掛けを仕入価格にするといった過去の遺物です。
現在は定価即ちメーカー希望(指定)小売価格は、著作物やタバコなど限定的な商品以外は無いですが、昔は多くの製品に着けられていたのです。
中にはメーカーや卸・小売が適正な利潤を得るために必要であるといった理屈を主張していたメーカーも居ました。
そして、その小売価格の〇掛けでメーカーは卸に販売し、卸は〇掛けで小売に販売し、小売は定価で生活者に販売するといった建値(たてね)制の名残で使っているケースがあったのですが、定価そのものが無くなって久しい今は使わなくなっています。
ですから、建値制は取引過程で使う数値なのですが、売上原価率は対象期間の取引結果と在庫状況を使って計算される結果と理解しても良いと思います。

 

原価率が小売業をだます?とは

いずみ

古株の先輩方は、1990年頃までの売上至上主義では兎に角売上を上げろと発破を掛けられていたらしいの。
でも今の私たちには利益重視の指令しか出ず、私の様な商品担当は荒利益で、店舗営業担当には営業利益を上げるオペレーションを要求するのだけれど、マスターはどう思う?

 

マスター

これからの日本は人口が減少し消費も下がることは避けられないし、中小零細小売企業の売上を掠め取って自社チェーンストアの売上を上げる戦略も効果を出せないから、
売上高は良くて現状維持ですし低下することが日常的と考えなければならないと思います。

ですので、売上が下がっても利益を上げる活動が正しい企業姿勢なのです。

 

いずみ

だから、商品担当の私たちには原価率を下げて荒利率を上げ、売上高が下がった分を率で稼ぐように指令が出されるのね。

 

マスター

でも気を付けてくださいね。
短期間で原価率を下げようとして、売れもしない原価率の低い商品を仕入れるといった愚挙に出るバイヤーが居ますが、一時凌ぎのだまし討ちに過ぎず、不良在庫が滞留し処分時に多額のロスが発生して、原価率が急上昇して過去分の荒利益高をも浸食します。
やはり、苦労は並大抵ではありませんが、仕入原価を下げる努力を繰り返して原価率を下げるようにしましょう。

 

小売業には原価率と同じぐらい大事なことがある

いずみ

イタリア風ステーキは、付け合わせも沢山盛り合わせられていたから、お腹がいっぱいになったわ。
そして、選んでくれたスーパータスカンも最高のペアリングで、すっかり魅せられてしまいました。
でも、もうちょっと飲みたいのだけど、御腹に応えない物と合わせたペアリングはないかしら。

 

マスター

実は今日も『まっつぁかや』へ行って、ベルギー王室御用達のチョコレート屋さんでチョコをちょこっと買ってきたのです。
ビタータイプですがボジョレーの赤ワインと相性がいいですよ。

 

いずみ

チョコをちょこっとなんて、ビターならぬベタなオヤジギャグですね。
赤ワインにチョコレートは試したことが無いから、是非お願いします。

それと、小売業にとって原価率と同じように大事な数値管理についても是非お願いします。

 

マスター

ボジョレー赤ワインとビターチョコは自信を持ってお勧めしますが、これからお話しする数値管理は適当に聞き流してください。

小売業さらに言えばチェーンストアは、大半の商品が加工を伴いません。つまり、仕入原価に値入して売価を設定して販売します。
在庫の有無を省略すると荒利率は値入率とロス率に影響を受けるのですが、システム化が進むと数量管理に目が行きがちです。
今はロス管理が徹底されているので、荒利率の良し悪しは初期値入と売変処理に影響を受けるのですが、初期値入率の把握が疎かになっているように見えます。

今一度原点に戻って、値入管理、売変管理、ロス管理を部門で捉えて分類にドリルダウンし単品レベルで検証する。これが原価率と同じように大事なことと思います。

 

今日も気の利いた味付けの料理と極上ワイン、そしてマスターの蘊蓄のペアリングが、いずみの明日への英気を養うのでした。

2021/11/19