小売業と卸売業の違いとは?専門家が7つの機能をわかりやすくご紹介

小売業と卸売業の違いとは?専門家が7つの機能をわかりやすくご紹介

日本が近代化を邁進し始めた明治以降において、百貨店等の一部を除き大半の小売業は零細企業でした。

太平洋戦争終戦後に製造業や卸売業が規模を大きくしましたが、1955年の“主婦の店運動”により複数の小型店舗を営業する企業が出始めたにもかかわらず、江戸時代から受け継ぐ家訓程度の管理方法では2桁程度の店舗数で限界が生じ、経営が成り立たなくなったのです。

 

しかしながら、渥美俊一氏が主宰するペガサスクラブの導き等により、次第に小売業の企業規模も大きくなり、ビッグビジネス化して零細な家業や生業を克服したのでした。

小売業の企業規模が零細であったときは、金融機能等の卸売業の機能が大いに役立ちました。

その後に小売企業が大規模化してくると卸売業に対して「問屋無用論」が言われ始め、卸売業の存続が危ぶまれたのですが、卸売企業は変革を遂げて流通制度に確固たる地位を確立して、継続的に存続することに疑問の余地は無くなりました。

このように、現在の小売業と卸売業は過去から変革を遂げています。

小売業と卸売業の違いと、7つの機能についても解説いたします。

小売業と卸売業を含む流通機構の違い

【登場人物】

いずみ・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』グロサリー主任

佐藤・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』店長

鈴木・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 本部』グロサリーMD(マーチャンダイザー)

田中・・・・中堅食品卸『カント』営業部員

小林・・・・食品メーカー『六芒星(ろくぼうせい)』セールス

いずみは、キャップ栄店の事務所でスマホの画面を睨み付けて口を尖らせていました。

 

いずみ

なによ。私がお願いしているのに、取り付く島もない態度を取るなんて、何様のつもりなの。

 

ちょうど事務所に入ってきた店長の佐藤は、とげとげしい表情をしたいずみに気が付き声をかけたのです。

佐藤

いずみさん、何に腹を立てているんだい。

 

いずみ

聞いてください店長。
キャップのSB(ストア・ブランド)『バリューキャッチ』のソースが店頭欠品したから、帳合(販売卸売)先カントの田中さんに電話で相談したら、”通常の定番発注をするように”と言うので、通常発注では三日後にしか納品されないから困ると言っても取り付く島が無いのです。

 

佐藤

今は業務の多くがシステム化されているのはキャップもカントさんも同じで、例外処理が許されないから田中さんも事務的な態度になったんだと思うな。

 

いずみ

店長はそう仰いますが、カントさん帳合商品が自動発注に切り替わってから1年程度経過し、たまに売り場欠品が発生していたのです。今回はお客さんから強いクレームを頂いたので何とかして欲しいとお願いしたのですよ。何とかしてくれても罰は当たらないのに。

 

佐藤

それはいずみさんの甘え以外の何物でもないと思う。

日本の流通機構をおさらいすると、
①製造業(メーカー)が原材料を調達して製品を作り卸売業や小売業に販売し、
②卸売業(卸市場、商社、問屋等)は製造業や他の卸売業から仕入れた製品を小売業(スーパーマーケット、ホームセンター、ドラッグストア等)に販売し、
③小売業は製造業や卸売業から仕入れた製品を消費者に販売する
といった順番になる。

卸売業や小売業は仕入れて販売するといった形式は同じだけれども、主な販売先が小売業か消費者かの違いなんだ。
では、販売先の違いが取引に与える影響は何かということになる。

我々小売業は、ネットスーパー等を例外として、事前に仕入れた商品を店頭に陳列しておき、ご来店を頂いたお客様にセルフサービスでお買い上げ頂くのだが、主に卸売業は受注した商品を後日納品する形式なんだ。
つまり、小売業は在庫が無ければ売上を立てられないが、卸売業は必ずしも在庫が無くても受注後に調達して納品すれば売上を立てることができるんだよ。
だから、カントの田中さんは発注するように返答したと僕は思うよ。それより、売り場欠品が起きた原因を調査して改善すべきだね。担当MDの鈴木さんに報告を兼ねて相談してごらんよ。

 

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小売業と卸売業の違い 小売業

いずみは佐藤店長のアドバイスを受けて、早速オンライン会議システムを使ってキャップの鈴木に相談しました。

鈴木

ことの経緯はおおむね理解しました。
まず、売り場欠品を起こした原因をGRIP(チェーンストアの情報を容易な操作で的確に分析することができるアプリ)で分析すると、2日前に店頭陳列してあった15本が売れていますね。その日以外は1日当たり2-5本程度なので、まとめ買いされたお客様がいらっしゃったと予測できます。

一般消費者がソースを15本お買い上げになるとは考えにくいので飲食店さん等の業者買いでしょうね。

長期的にみると同様の現象が3か月に1回ほど発生しているので、最大在庫を増加して欠品を起こさないようにしておきます。
次に、非日常的な購買行動が原因とは言え、売り場欠品はご来店を頂きご購入をされようとするお客様への背信行為ですので、早急に対応します。

 

鈴木は言い終わるや否やスマホを操作して電話をしたのです。

鈴木

もしもし、小林さんですか。大変申し訳ないのですが、キャップ栄店に弊社SB『バリューキャッチ』のソースを至急出荷して欲しいのです。

カントの田中さんには商談.net(しょうだんどっとねっと:チェーンストアとお取引先とのコミュニケーションと両社業務の効率化を実現するシステム)を使って手書伝票処理(発注を伴わない出荷処理)をしてもらいます。
お手数をおかけしますがよろしくお願いします。

 

鈴木は同様の依頼を田中にもしたのでした。

いずみ

小林さんとは誰ですか。

 

鈴木

ソースメーカー六芒星のセールスさんです。カントの田中さんが言う通り、カントのDC(在庫型物流センター)は対象のソースの在庫が無いのです。
ですから、六芒星さんからカントさんに出荷して頂き、それを栄店に納入して頂くことになります。

 

いずみ

それでは、今日中には欠品が解消されませんね。

 

鈴木

幸いにも熱田店に十分な在庫が在るので、これから私が熱田店から栄店に移動処理をします。
ローコストオペレーションが厳命されている中で、部長にバレたら大目玉を食らっちゃうな。

 

いずみ

お忙しいのに余分な作業が増えて気の毒ですが、小売業の基本的な姿勢を教えてください。

 

鈴木

教育はキャップが最も重要視している分野ですから、本来は時間をかけてしっかりと教えたいのですが…
一言で言えば“作る”“売る”立場からではなく、実際に商品を使う消費者の立場から必要な、あるいは、適切な品質を確保しながら、その時点の価格相場破壊を推進する事を経営の基本原則にしている企業です。

簡易な表現をすれば形式的には製造業に代わって消費者への“販売代理”を行っていると同時に、消費者の欲求を満たす“購買代理”をより強く行う業態なのです。

 

小売業と卸売業の違い 卸売業

鈴木は言うが早いか移動処理のために出かけたので、いずみはオンライン会議システムを止めて売場に出ようとしたときに、店長がカントの田中を伴って事務所に入ってきたのでした。

 

佐藤

いずみさんがカリカリしてたんで、田中さんにことの成り行きを電話で聞いたんだよ。
そうしたら、田中さんが恐縮して詫びに来ると言うんで断ったんだけど来ちゃったんだよ。

 

田中

言い訳にもならないですが、いずみさんから電話があった時は別のトラブルに対応していて、いずみさんへは大変失礼な返答したと反省しています。申し訳ありませんでした。

 

いずみ

こちらこそ、幼稚な一方的要求をしたと反省しています。弊社鈴木に諭されました。
卸売業は小売業の要求に応えるのが主な仕事と勘違いしていました。

唐突ですが、せっかくお越しいただいたので卸売業とは何かを教えていただけませんか。

 

田中

お安い御用です。
卸売業には7つの機能があると言われます。

1つ目は需給結合機能として、生産コストを下げるために人口は少なくても交通の便利な場所に立地する製造業と消費者の近くに分散する小売業の場所的隔離を解決し、製造業の大量生産欲求と小売業の多品種少量仕入欲求といった品揃え隔離を解決し、双方が負担したくない在庫を保管するといった時間的隔離の解決があります。
2つ目は情報伝達機能として、消費者の品揃えや販促の要求を代弁する小売業の情報を製造業に伝え、製造業の発信する製品開発情報を小売業に伝えます。
3つ目は金融機能として、製品が消費者に購入される前の段階で代金決済を製造業に行って製造業の次の生産投資を銀行等から借り入れしなくても可能にし、
4つ目はリスク分散機能として、製品が流行遅れ等で売れずに代金回収ができないといった危険負担をし、
5つ目は物流機能として、製造業から大量に仕入れた製品を輸送・保管・包装加工・仕分けして小売業に配送し、
6つ目はアソートメント機能として、消費者視点で売れる商品を探し出して取り揃えて小売業に紹介して製造業の販路を開拓し、
7つ目はリテールサポート機能として、零細小売企業の経営支援や中堅小売業へのレイアウトや陳列、販売員教育を通じた販売支援を行います。

この7つの機能で川上である製造業と川下である小売業の仲を取り持って、流通の効率化に貢献しようとしています。

 

いずみ

私の所為でご迷惑をおかけした上に、大変勉強になる事を教えて頂きありがとうございました。

 

役割の違いが小売業と卸売業を発達させる

いずみが田中に礼を言っている時に鈴木がソースを持ってきたのでした。

佐藤

鈴木さん、ご苦労さん。鈴木さんの様な高給取りが移動処理をしたと上にバレたら雷が落ちるね。

 

鈴木

もとはと言えば、MDである僕の分析が甘くて自動発注の設定が不十分だから発生した問題なので僕自身で対応するのが自業自得だけど、内緒にしておいてくださいね。
田中さんも来てくださったのか。

 

佐藤

そうなんだよ。いずみさんが苛ついていると言ったら飛んできてね。田中さんには悪いことしちゃったな。

 

鈴木

でも、佐藤店長と田中さんと僕の3人揃うなんて久しぶりだよね。

 

いずみ

皆さんは古くからの付き合いがあるのですか。

 

鈴木

20年ほどになるかな。そのころから比べると小売業も卸売業も随分変わったよね。これからどうなるのかな。

 

田中

小売業が業界再編で合従連衡が繰り返されて規模も大きくなり、小売業と卸売業のパワーバランスが変化しました。
そして力を持った小売企業が生産と集荷の体制を作ってPBを増やしつつあります。

我が国の人口が益々減少する中で卸売業はM&Aなどによる規模拡大を通じて、主力商品以外はOEM生産が多く一部の商品カテゴリーしかカバーしていない大手製造業を補う品揃え、商品回転率の低い商品について生産者との直接取引もしくは内製化を行うことができない大手小売業の効率化を代替する品揃えを持つことだと言われています。

時と場合によっては、製造業や小売業の役割を担ってサプライチェーンの効率化に貢献しなければならないでしょう。

 

佐藤

我が国の卸売業と小売業の低生産性が賃金上昇を阻害しているので、一緒になって生産性を上げてローコストオペレーションを通じたESLP(エブリディ・セイム・ロー・プライス)と製造業並みの賃金を実現した待遇改善を通じた従事者の幸福追求をしなければならないですね。

 

いずみは今回の件で小売業と卸売業の違いを学んだが、業界に対する熱い思いは共通することを学び、前にいる3人が眩しく見えるのでした。

本ブログを執筆したのは、名古屋に本社を置く流通業に特化したシステムベンダー株式会社テスクです。

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