生き残りをかけ、価格以外で勝負する小売業
目次
生き残るのは「減収増益企業」である謎・・
■ 1997年を最大に消費支出は下がり、今後も下降傾向の予測
小売業に限らず、今の時代、これまでと同じことを普通にやっていても、売上が下がるのは当たり前で、客数が下がるのも当たり前だと思います。
総務省統計局のデータが示すとおり、消費支出は1997年を境に年々下降しています。
これは、デフレの影響もありますが、少子高齢化による生産人口の減少という問題が大きく起因しています。
今後はこれに加え、人口減少という問題がありますので、これから先も消費支出は確実に落ちていくと予想されます。
そんな厳しい環境の中、小売業各社は生き残りをかけ戦っていかなければなりません。
消費支出全体が落ち、競争が激化する中で売上を上げていくということは、時流に逆行するため、競合打破、新規出店、客数・客単価増、新しいフォーマットの構築等々、大変なことを成し遂げなければなりません。
■ 「増収増益」 か 「減収増益」 か
それらを成し遂げるため、企業は継続・成長のために、利益を確保しなければなりません。
利益は売上に連動して増減をするので、企業にとって売上増大による「増収増益」を目指すことは当たり前のことです。
しかし、これからの時代、本当に「増収増益戦略」一辺倒で大丈夫でしょうか?
今の時代、増収を目指すのであれば、新店出店、店舗改装、ネット事業の拡大か、新フォーマットへの展開が有力な方法です。
これら増収を目指す方法は、 相当分の経費もかかります。
家賃や人件費等々の営業経費はアップしますので、増収減益というリスクも抱えることになります。
一方、売上が減収になっても最終的な利益が確保できれば企業は継続します。いわゆる「減収増益戦略」です。
これからの消費支出減少時代を考えれば、生き残るための一番時流にそった手法かもしれません。トップ企業以外の多くの企業は、むしろこの方法が妥当なのかもしれません。
消費者にとって価値を生まない無駄を除きコスト削減し、変化への対応、品揃え・サービスの見直し、独自化、差別化を図ることができれば、減収でも利益を確保することはできます。
安さのヒミツはコストの低さ
増収のヒミツはお客様への価値の提供
といった「減収増益」企業が強みを発揮できると思います。
■ 全体の消費支出下落でも、1人あたりの支出は増えるかも?
また、私は消費支出が人口減少分、落ちるとは予想していません。
例えば、ご夫婦2人の世帯で、不幸にも連れ合いの方が亡くなられ1人になった場合、その世帯の収入も消費支出もおそらく半分にはなりません。
お1人になられてからの消費傾向は上がり(少しいいものや安全なもの、価値のあるものを選択する)ますので、このケースの1人あたりの消費支出は逆にあがります。
こういったケースは、価格の勝負から、ますます価値への勝負ができるようになっていく傾向と予想できます。
価格競争は 「不毛の争い」なのか?
■ 牛丼は280円から各社変化
一番分かりやすい例として牛丼チェーンの価格競争を例にとってみます。
牛丼は熾烈な価格競争になりデフレの象徴とまで言われました。
元々400円くらいだった記憶がありますが、1社が280円に値下げしたことを皮切りに、各社一気に値下げ。
セール時には250円と考えられない安さです。
全社400円で営業していれば、各社利益を上げられたはずが・・
30%も下げたことにより、超薄利または赤字になったのではないでしょうか。恐ろしいほどのコスト削減とシェア獲得に身を投じることになったと察します。
ちなみに、私が学生の頃、牛丼は350円でアルバイトの時給は400円でした。今や牛丼一杯280円で、時給900円ですから、考えられない価格設定です。
消費者も実はそこまで安くなくても来店する気がしますが・・
上記は極端な例ですが、価格勝負していくのは かなりの資本力が必要になり、普通の店では到底太刀打ちできませんし、長期的なビジネスには、けっして繋がらないことが良くわかります。
今回、円安や原材料の価格高騰により、各社値上げを実施しましたが・・
この先ある程度価格が上昇したら、またどこか1社が値下げをして、価格競争が始まるというのが過去の傾向であり歴史です。
我々コンピュータ業界が、過去にコンパックショックによるパソコンの価格競争の勃発、シェア争いをくり返したという経緯がまさにそうでした。そうなってしまうと「不毛の争い」です。
■ 不毛の争いが招くもの・・ それは『寡占化』
このように価格勝負には、資本力と企業の体力が必要となりますので、勝敗が決するたびに『寡占化』がどんどん進んで行きます。
寡占化してトップシェアを目指すことが目的であれば、価格勝負はもってこいです。
量販店小売業界でも、この傾向は顕著であり、SM以外の業態ではかなり進行してきています。
現在繰り広げられているアメリカのシェールガス対抗と言われる中東の原油価格の下落も、似たようなところではないでしょうか。
■ どうしたら価格競争に巻き込まれないか?
価格で勝負しなくとも、行列のできる店には秘密があります。それは。。
そこにしかないものがある
ということです。
そこにしかないサービスや商品をもし確立できたら、価格も立地も関係ないブランドが確立され、価格競争に巻き込まれることはありません。
では、以降その具体案について事例をまじえ、ふれていきましょう。
値下げではなく、「お値打ち」の演出
■ 今ブーム? 高額商品を高付加価値というパターンも長続きしない
利益を上げようとして、自己中心的に ”そこにしかないもの” をと考えると・・
高額品・高荒利商品
という視点になります。これもまたこれからの時代には残念ながら合いません。
ではどうすれば良いか?
結果を出している企業は、お客様にどう価値を届けようか?という視点で考えています。すると・・
良いものをお値打ちに
という答えが出てきます。 私自身もそうですが、なんの躊躇もなく買ってしまうのは、私の中でお値打ち感があるものです。
強い企業は、どうやるかという視点ではなく、何をするかという視点・考え方で答えを出しています。
■ では、お値打ちって何だ?
売上を上げる方法の一つとして「値下げ」を考える方は多いです。ただし、この考えは誰でも思いつくことができる安易な方法です。
今の時代、景気が悪いから、売上が落ちるからと「値下げ」をするのは愚の骨頂です。
確かな戦略の上での値下げならOKですが、戦略なしで値下げを行うのは得策とは言えません。
こういう安易な値下げをすると、従業員の給与は上がらない上、モラルは下がる、新しいことに投資ができない等々、副作用が結構キツイです。
最後には体力がなくなり、寡占化の餌食になりかねません。
なので、今すべきは「値引き」ではなく 「お値打ち感の演出」 です。
お値打ち感とは、値段の割に品質がよいとか、量が多いとか、いつもより安い等の理由でお客様が主観的にお値打ちと感じること。
お値打ち感 = 価値 > 値段
値段以上の価値を感じれば、お客様は購入されます。
では、お客様はどうして「安く買いたい」と思うのでしょうか?
それは「安くていいものを買った」という満足感を求めるからです。
だから、”値下げ”ではなく、値段に対してのコストパフォーマンスが良いという感覚を演出することが重要になってくるのです。
事例:おにぎり と サンドイッチ
■ どっちを選ぶ?
全く同じ商品で、値段の違うAとBの商品があります。
さてどちらを選ぶでしょうか?
答えは明白。
全く同じものなら安い ”A” を選ぶに決まっています。
では・・
Bに「無添加パン・無農薬の採れたて新鮮な野菜をつかったヘルシーサンドイッチ」を持ってきたらどちらを選ぶでしょうか?
こうなると、もはやどちらを選択されるかは、お客様次第です。POP等で価値を訴求することで、むしろ ”B” の方が、飛ぶように売れます。
このように、実はお客様は本当の価値がわかって商品を購入しているのではありません。
自分が良いと思ったものを「思い込み」で購入されています。
もし仮に、”A”のおにぎりを有名芸能人がプロデュースして、本人がその場で商品の想いを説明して販売したらどうでしょうか?めちゃくちゃ売れると思います。
ましてや値段が2倍の200円になっても、お客様は価値を感じて買われるでしょう。
”冬季限定” ”今だけ増量” ”○○がついてくる”など、メーカーが実践する価値の演出は典型的な例です。
お客様は、これらの言葉に非常に弱く、少々値段が高くても、つい購入されます。
■ 価値を感じ、思い込んだら高くても・・
ある事例ですが、お弁当260円の横で、800円のお弁当がバカ売れしたということがありました。
単に2つ並んでいたら、260円の方が当然売れ、800円の方はあまり売れないでしょう。
では、どうやったのでしょう?
「○○さん(料理家)プロデュース」「無添加」「安全」「採れたて厳選素材」「カロリーオフ」といった価値をPOPで訴求しただけです。
この事例は、弁当への”安い”という価値観よりも、”食べたい” ”健康にいい” という価値観をうまく演出できた事例といえます。
これからの小売業の戦略の方向性は?
■ 演出するお客様のターゲットをしぼり、お客様を知る
お値打ち感を演出するには、絶対にお客様を知る必要があります。それには顧客分析は欠かせません。
お客様をしぼるか、広げるかについては賛否両論あるとは思いますが、お客様ニーズが多様化している中で、”多くのお客様向け商品”をアピールしても、飛びぬけて値段が安くでもない限り、残念ながら高反応はとれません。
少なくともマーケティング(販促や広告等)においては、ターゲットとするお客様の詳細な定義づけをしなければなりません。
そうしないとお客様のハートをつかめませんし、せっかくのID-POSデータの分析も全く意味のないものになってしまいます。
具体的にお客様の生活習慣がイメージできるぐらいまで定義づけし、ID-POSデータで顧客分析を実践することで、”当たる”演出が考えられると思います。
■ この先どんな新サービスが飛び出すか?
ターゲットが明確化でき、イメージができたら実際の演出です。
例えばスーパーマーケットにおいて、これまでは・・
- 安いスーパーマーケット(価格戦略)
- 品揃えのいいスーパーマーケット(品揃戦略)
- 鮮度のいいスーパーマーケット(品質戦略)
というところで多くは勝負してきましたが、これからはお客様から選ばれるために、上記以外にも新たな価値をつくらなければなりません。
例えば・・
- 健康を提供してくれるスーパーマーケット(各症状(高血圧等)に効く食材・予防になる食材)
- ライフスタイルに対応してくれるスーパーマーケット(一人暮らし・単身 買物代行等)
- 安心安全を徹底するスーパーマーケット(国産・無添加・無農薬食品 専門)
といったような、そこにしかないサービスを提供していき、当社で商品を買う理由をつくる ということです。
「安いからあそこで買う」ではなく、「ここは、◯◯だから買う」という安さ以外の理由を作り出すことができれば、体力勝負の価格競争に巻き込まれず、お値打ちな価格で商品を提供することができます。
そうすれば価値を感じたお客様で、お店はあふれることと思います。
やはり、どうやるかではなく、何をするかという考え方が、これからのポイントとなります。
【まとめ】生き残りをかけ、価格以外で勝負する小売業
今回は『生き残りをかけ、価格以外で勝負する小売業』というテーマで書かせていただきました。
有名なランチェスター戦略(法則)というのをご存知でしょうか?
この戦略は市場地位1位の企業を「強者」、2位以下の企業を「弱者」と位置づけ、「強者」のとる経営戦略と「弱者」のとる経営戦略は、全く別もの(逆さま)と定義しています。
強者の基本戦略は同質化戦略(敵と同じ事をする)、弱者の基本戦略は差別化戦略と位置づけており、強者が本来とるべき戦略(同質化戦略)を弱者がとると、根本的に間違ったやり方を従業員全員が実行することになり、経営効率が非常に悪くなり業績はガタガタになると言っています。
これに小売業の“価格競争”を当てはめてみるとどうでしょう?
市場地位1位ではないほとんどの企業は「弱者」にあてはまりますので、他社と同質化戦略である”値下げ”で戦うと、根本的に間違ったやり方になるので、業績がガタガタになるということになります。
現在では価格競争の結果、小売業でも「強者」への寡占化が非常に進んでいます。
価格競争における同質化戦略が招いた結果ではないでしょうか。
今後も「強者」は寡占化を目指していく戦略でもちろんいいと思いますが、2位以下の企業は、今回のメルマガのような価格以外で勝負するか、ある特化した分野で寡占化を目指すことが生き残るカギになると思います。