小売業に重要な4つの労働分配率とは?

小売業に重要な4つの分配率とは?

自動車の大量生産方式を確立した人物として有名なヘンリー・フォードは、「奉仕を主とする事業は栄え、利得を主とする事業は衰える。

この意味が分かる人間は、知的で経験豊富な人間だけだ。

つまり、無知で未熟な人間は、まず間違いなく、『利益優先』の道を歩くことになる。何しろ、かつての私がそういう拝金者だったのだ。だからもう断言出来るわけである。」と言ったそうです。

 

利益の獲得を優先するといった浅略を犯して明日への投資を疎かにすれば、衰退の道を突き進んでしまうのです。

言うまでもなく、企業活動においては利益の獲得は手段に過ぎず、社会に貢献するための事業目的を達成しなければ継続性がありません。

 

とは言え、企業のみならずNPO(非営利団体)でも赤字では存続しえないので、一定の利益は必要です。

欠くべからざる考え方は、獲得した荒利を利益だけではなく、賃金や設備関連、そして販売促進活動へバランスよく振り分ける、つまり配分割合をコントロールして競合他社に対する優位性を出すのです。

小売業にマネジメントは必要なのか

【登場人物】(すべての組織・人物はフィクションです。)

いずみ・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』グロサリー主任

佐藤・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 栄店』店長

鈴木・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 本部』グロサリーMD(マーチャンダイザー)

中村・・・・中堅スーパーマーケット『キャップ 本部』サービス・マネージャー

ここは中堅スーパーマーケット『キャップ』のエデュケーションルーム(社員教育を主たる目的に設置されている教室)です。

この部屋は空調や照明が社内で最も配慮されており、SDGsが叫ばれる中で、本社内の設定温度は着衣の調節で寒さ暑さを凌ぐように指示が出ていますが、この部屋だけは、快適な室温が維持されていて明るく静かな場所なのです。

 

いずみは、『キャップ』従業員の自律的なキャリア形成を後押しするために社内で実施されている「計数管理講座」を受講するために、このエデュケーションルームにおりました。

中村

今から計数管理講座の分配率について解説します。

分配率においては、利潤分配率を最初に抑えておく必要があります。
利潤は当社の企業目標を達成する上で必要な手段です。

営業活動で獲得した付加価値(部門別管理で言えば荒利益高、財務会計では売上総利益高)から経費を差し引いた経常利益高を、荒利高または売上総利益高で割った数値です。

計算式は、『経常利益高÷売上総利益高×100』になります。

 

いずみ

中村さん、利潤分配率は高ければ高いほど良いのですか?

 

中村

効率的な営業や効果的な投資を実施して経費を極めて低くして利益を極大化すると、極めて高い利潤分配率を達成することができます。

現実には一定比率の経費が必要なので、極端な数値を達成することはできません。当社のような小売業は20%があるべき数値であり、経営が効率的に行われている根拠になります。

 

いずみ

『キャップ』の数値を教えてください。

 

中村

『キャップ』の昨年度は18%の利潤分配率でした。

スーパーマーケットの多くが10%前後です。昨今では優秀な数値ではあるのですが、不動産分配率が25%であったことが影響して、 あるべき数値を達成できませんでした。

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小売業の不動産費分配率は、荒利と不動産関連費用の割合

 

いずみ

不動産費分配率の不動産とは、所有する不動産の総額を言うのでしょうか?

だとすると、貸借科目と損益科目の比率になるので、損益科目同士の割合である利潤分配率とは性格が違うのではないでしょうか?

 

中村

いずみさんは良く勉強していますね!

ですが、不動産費分配率とは不動産関連経費の荒利額に占める割合なのです。
不動産関連経費は、主に家賃ですが、共益費・共同宣伝費・修繕積立金・駐車場負担金や建物などの減価償却費、更には設備のリース料も含まなければなりません。

 

いずみ

先ほど私がお聞きした自己所有不動産は不動産費分配率に組み入れないのですか?

 

 

中村

実にいい質問です!

ドラッカーが言うように所有するものは全て負債なので、所有する不動産も資産ではなく負債と同様に費用が発生するものとしなければなりません。

当社では、取得価格以外に保証金・建築協力金・敷金などを含めた投資額の8%をコストとして不動産関連経費に加算しています。

 

いずみ

不動産費分配率の計算式を教えてください。

 

 

中村

{不動産にかかわる資産(土地・建物・保証金・建築協力金・敷金)×0.08+不動産関連経費(地代家賃・共益費・共同宣伝費・修繕積立金・駐車場負担金など)}÷売上総利益高×100です。

 

いずみ

不動産関連費はコストですので、低ければ低いほど良い様に思うのですが、適正な数値教えてください。

 

 

中村

割高な物件に手を出して出店すると不動産分配率が上昇してしまいます。

『キャップ』の25%はスーパーマーケットとしては優秀な方です。

しかし適正数値は18%なので、目下『キャップ』では不動産関連費を見直している最中です。

 

いずみ

ありがとうございました。

 

中村

他に質問はありませんか?

…無ければ今日はここまでとします。
次回は来月ですが、労働分配率と販促分配率がテーマです。

皆さんの予習を期待します。

 

小売業の労働分配率は、荒利と賃金など人件費の割合

いずみは次回の講座に関する予習をしていたのですが、テキストを読むだけでは理解できない部分があったので、休憩中の『キャップ栄店』佐藤店長に質問しました。

佐藤

社内講座の予習を自宅で行うとは、やった方がいいことは解かっていてもなかなか出来ないのに、いずみさんはエライもんだ。

僕も受講したのはずいぶん前なので忘れた部分があるけど、いずみさんの質問なら喜んで答えるよ。

後で鈴木さんも栄店に立ち寄ると言っていたので、鈴木さんにも答えてもらえるよ。

 

いずみ

ありがとうございます!

質問は労働分配率についてなのです。

計算式は、総人件費÷売上総利益高×100で、総人件費は従業員給与、従業員賞与及び引当繰入、退職金及び引当繰入、役員報酬、福利厚生費、教育訓練費、求人採用費などであるとテキストには書いています。しかし適正数値が分かりませんでした。

 

佐藤

小売業の労働分配率の適正値は38%と言われています。なお、『キャップ』は42%なので改善しなければならないのです。

 

いずみ

私が言うのは僭越なのですが、『キャップ』の賃金は同業他社と同水準です。

製造業などと比較すると低レベルなのに、なぜ労働分配率が高いのでしょうか?

 

佐藤

今のいずみさんの質問を経営層が聴いたら耳が痛いだろうね。

一番の原因は労働生産性つまり従業員1人当りの年間荒利高もしくは売上総利益高が製造業に比べて低いのです。

 

いずみ

具体的にはどうなっているのですか?

 

佐藤

『キャップ』の労働生産性は約800万円なのですが、適正値は1,000万円以上なのです。

同じ小売業でも家具を扱っている有名会長の会社は2,000万円を超えているのだよ。

労働生産性が高いから、魅力的な賃金でありながら労働分配率は22%程度を達成しています。

 

小売業の販促分配率は、荒利と販売促進費の割合

いずみ

ありがとうございます。次に販促分配率の質問をしたいのですが・・・

 

そう言いかけた時に鈴木が栄店に着いたのでした。

佐藤

ちょうどよかった!

販促関係は鈴木さんの得意分野なので、鈴木さんに応えてもらいましょう。

 

鈴木

店に着くなり難しい質問はご勘弁願いたいのだけど、いずみさんの質問なら全力で答えましょう。

 

いずみ

ありがとうございます!

販促分配率は荒利額、つまり売上総利益高に占める年間販売促進費の割合であることはテキストで学習しました。

販売促進費の具体的な内容は何ですか?

 

鈴木

主には折込チラシやマスコミ広告宣伝費なのですが、POP広告費・包装紙・梱包紐・看板代催事経費・原価割れ販売費・ショッピングポイントが含まれています。
そして最近はネットに掲載する情報作成費用など、おおよそ販売促進に関する費用も含まれます。いずみさんも知っている通り計算式は、販売促進費÷売上総利益高×100です。

 

いずみ

売上を上げるための費用なので沢山使った方が良いと思うのですが、『キャップ』の販促分配率はどれほどなのでしょう?

 

鈴木

昨年度の実績は3%でした。スーパーマーケットの場合は10%以内に抑えないといけません。無理して売り上げを作ってしまいますと、利潤分配率を下げてしまいます。

いずみさんが言うように沢山使うと、企業の成長に必要な利潤を減らしてしまうので抑制されるべきなのです。

 

佐藤

売上から得られた荒利から経費を引いて利潤が出ます。

さらには経費の使い方として人件費などの労働費と店舗などの不動産関連費用と、チラシ広告などの販売促進費の適正なバランスを取って運営されることが重要なのです。

 

いずみ

『キャップ栄店』の競合店『大魔王』さんは、毎日のようにチラシを撒いて、テレビコマーシャルも流しているから、同じように広告宣伝で対抗したほうが良いと思ってました。
確かに給料を減らされたり新店や既存店の改装が疎かになったら、長い目で見ると良くないですね。

 

佐藤

何より大切なことは健全に営業し続けて、お客様に良い品を安く提供することで末永いご支持を頂けます。そのためには、費用支出のバランスと適正な利潤が必要なのです。

 

兎角若さは極端な発想をして、先輩社員がバランスなどと言うと反感を持つものです。

【まとめ】小売業に重要な4つの分配率とは?

いずみも4つの分配率を学ぶまでは極論を吐いていましたが、佐藤のたしなめにより、少しは大人の事情を理解したようです。

【次回に続く。乞うご期待!】

 

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