小売業の在庫回転率を適正に上げる3つのポイント

小売業の在庫回転率を適正に上げる3つのポイント

小売業界で高い評価を得ている解説書には、商品回転率(数)や棚卸資産回転率の解説が書いてあるのですが、在庫回転率とは書いていません。

ネットでググってみると商品回転率は在庫回転率に変換され、棚卸資産回転率は財務指標として扱われています。このように在庫回転率が一般的ですので、在庫回転率を用います。

小売業の常識では、在庫回転率を高くすれば良いと考えられています。

 

しかし、在庫回転率を高めて改善する経営指標を意識せず、手段の目的化つまり小売業では在庫回転率を追いかけることが目的になっている時があります。

小売業の在庫回転率は売場改善の途中を示す数値ですので、今回は在庫回転率の解説を通じて小売業が成し遂げる方法をご紹介します。

小売業の在庫回転率とは?

在庫回転率とは、手持ち商品や材料の金額や数量が、一定期間(1年間が多い)に何回転したかといった効率指標を表します。名称は「在庫回転”率”」ですが単位は“パーセント”ではなく“回”です。

小売業で使う場合には、売価在庫高が把握できるのであれば売上高を割って利用し、原価在庫高しか把握できないのであれば売上原価高(売上原価高=期首原価在庫高+期中原価仕入高-期末原価在庫高)を割って利用します。

売価利用の計算式

 在庫回転率=期間中の売上高÷期間中の平均売価在庫金額

原価利用の計算式

 在庫回転率=期間中の売上原価÷期間中の平均原価在庫金額

 また、上記の計算式は金額を用いましたが、数量を用いる方法もあります。

 数量利用の計算式

  在庫回転率=期間中の売上数量÷期間の平均陳列数量

小売業における分析数値は販売効率を示す場合が多いのですが、在庫回転率は資金や資本の運用効率の指標である点を意識して解説をお読みいただければ理解が深まります。

小売業の発展途上には、在庫回転率を意識しなくても売場効率が高く、効率良く経営を行うのですが、年数を経るごとに以前ほど儲からなくなり、ググってみたり書籍を読んだりして在庫回転率に行き当たるのではないでしょうか。

そのような時には計算式を知るだけでは解決にならなかったのではないでしょうか。ここには小売業の在庫回転率のトリセツが書いてあります。

 

CHAINS0111CHAINS0112

ポイント1) 平均値に惑わされないように

在庫回転率の計算式で求めた結果を分析するにはどうすれば良いのでしょうか。

分析のセオリーは“比較”であるのはご存じだと思いますが、在庫回転率等は過去と比較する間違いを犯してはいけません。そもそも、過去や計画数値が多すぎたり少なすぎたりしているので、減少したほうが良いのか増加させた方が良いのかの間違いがよく見受けられます。

さらに自社や業界の平均値と比較するのも違和感があります。

業界の平均値には高い業績をたたき出している優良な企業数値以外にも、見習ってはいけない企業の数値が含まれています。また、好業績企業であっても、好ましくない数値を続けている店舗や、優秀な店舗の中にも見習ってはいけない部門や品種が混在しています。

 

つまり、平均値と自社数値を比較したり、あるべき数値を設定したりしても意味がないケースが多いのです。

 

平均値と比較するまでもなく在庫回転率は多くの売り場で低い傾向にあります。食品等は賞味期限や消費期限といった販売までの猶予に限界があるので、在庫回転が低ければ値引きや廃棄といったロスを発生させます。また、販売期限が無い商品であっても、長期間滞留している商品は売場の魅力を削ぎ、来店されるお客様の信頼を損なってしまいます。

 

逆に在庫回転が高すぎると商品補充のサイクルが適正な長さから逸脱して非効率になり、生産性の悪化原因になり儲からなくなります。日本の多くの小売店舗には低すぎと高すぎの両方あるので、荒利率が悪いだけでなく、労働生産性も低く、欧米の小売業と比較して利益率が低いのです。

ポイント2) エクセルで検証してみよう

過去値や平均値との比較が無意味であれば、どうすれば良いのでしょうか。

ヒントは「Think Small(小さく考えよ)」にあります。

このキーワードは、現時点において売上高企業規模が世界最大であり、無論小売業としても世界最大の『ウォルマート』創業者サム・ウォルトン翁の口癖であったと言われています。サム・ウォルトン翁は企業規模が大きくなっても、常に一人一人の顧客や1店1店の1品1品に注目して改善を考えていたそうです。

 

「Think Small」を今回のテーマである「在庫回転率」に当てはめると、店舗毎の商品毎に平均売上数から計算する適正な在庫数を把握し、平均在庫数が多すぎない、あるいは少なすぎない状態を維持する運営です。

 

しかし、いきなり店舗商品毎の改善をすると言っても、1万から数万点前後ある商品のどこから手を付けたらいいのか途方に暮れてしまいます。

そこで、手を付けるにあたって優先順位をつけるために、先ずは店舗そして部門さらに商品分類の在庫回転率を金額で計算して、課題の大きい店舗と商品分類の目星をつけ、商品毎の検証に取り組みます。

これら一連の計算が可能な分析システムが有れば良いのですが、なければエクセルを用いればよいでしょう。

 

この時に注意しなければならないのは、計算式にある『期間の平均陳列数量』の把握方法です。大半の基幹システムは日々の在庫数を持たないので、直近の計算された在庫数か棚卸数を利用します。

多くの小売店舗では、棚卸の時には在庫を減らす“工作(失礼!)”をするのですが、結局は売れ筋商品の在庫量が減るだけです。本当は死に筋商品が過剰に残っているので死に筋商品の退治をします。

ポイント3) 消化日数の方が役立つかも

次に検証の具体的な例を解説します。

在庫回転率が低すぎる、あるいは高すぎる場合はもちろんですが、分析対象カテゴリーの在庫回転率が適性域にあったとしても、多くの死に筋商品が大半を占めていて、売れ筋商品はチャンスロスを出しているケースが見受けられます。

 

そこで、商品毎に適正な在庫状態を見つけるに際して、利用すると便利な数値が『消化日数』です。

つまり、全体から問題のある部分を探し出すには、部門や分類の在庫回転率分析が有効ですが、悪い数値を改善するには、在庫の多くを占める死に筋を退治して売れ筋商品の陳列を増やすしかありません。商品毎に適正在庫数を算出して発注数=仕入数を合理的な判断に基づき改善するのです。

 

適正在庫数の計算例

 適正在庫数=基準とする期間の販売数+安全在庫数

 

※基準とする期間の例

 対象商品の効率的商品作業(発注から陳列・販売までの一連の作業)サイクル

 例えば、労働生産性の高い某スーパーマーケットの一般食品は2週間(14日間)にしています。

 

※安全在庫数の例

 何らかの原因で発注が納品に繋がらなかった時に、次の発注でリカバリーするまでの販売数。

 発注時点における納品までの日数×平均日販数

小売業は概ね週サイクルで回っているので、年間回転回数=在庫回転率よりも消化日数で考える方が判断しやすいのです。

小売業資金力は高い在庫回転率で適正に上がる

ところで、在庫回転率の低さ、あるいは高さの小売企業に対する影響は、商品ロスや売場魅力の低下に留まりません。

小売企業は売掛金や受取手形の扱い額は極少ないので、仕入れ商品が売上として現金化される速さは原価棚卸額=在庫額で決まります。その上で、仕入に対する支払をできるだけ長くすれば、回転差資金を増やせます。

 

一般的に、資金調達は払込資本金や金融機関からの借入、社債の発行ですが、どれも相当なコスト(配当金や金利)が発生します。

これに対して回転差資金はコストが不要な資金調達ですので、利益の増加に貢献し、会社の債務返済能力を測る指標のインタレスト・カバレッジ・レシオが良くなります。

債務返済能力が向上すれば借金も容易になるので結果として資金力が上昇するのです。つまり、在庫回転率が高いと資金力も高くなると言えます。

まとめ

『小売業の在庫回転率を高める3つのポイント』と題して解説しました。小売業の在庫回転率改善が、売上や利益の向上に役立つのみならず、資金状況も良くなり安定した経営に貢献できるとお解りいただけたと思います。

 

何事も魔法の手立てはないように、商品毎の適正在庫数の維持とそのための適正な発注=仕入のオペレーション改善活動が、在庫回転率の適正化につながります。

そして、小売業が在庫回転率を適正化すれば、ロス削減や売場の魅力度が向上するだけでなく、労働生産性の向上により儲かるお店になり、おまけに資金力も高くなってしまいます。

 

執筆時は急激な円安で、多くの物が値上がりしています。商品価格が上がると在庫の評価額も上昇して見かけ上の荒利を押し上げ、利益も上がるでしょう。

しかし、単に在庫の金額が増えたに過ぎないので、金額ベースの在庫回転率も下がってしまいます。改善の一助としてご利用くだされば筆者の喜びとするところです。

 

いかがでしたでしょうか。

株式会社テスクは、創業以来、流通業に特化し、小売業向け基幹システムの導入支援・運用支援に関する豊富な実績と経験によって蓄積された十分なノウハウを持っています。

これらのノウハウを集結した小売業向け基幹システム『CHAINS Z』では、小売様の基幹業務のお悩みを解決できる機能が多くございます。

 

もしご興味がございましたら、弊社の製品・サービス資料「小売業基幹システム「CHAINS Z」基本ガイドブック」をぜひダウンロードいただきご覧ください。 

2022/6/3