小売業の『利益率低い』問題 売上と収益性の解説【ワイン編】
米国の小売業を代表する企業がウォルマートであることは多くの業界人が認める処ですが、日本では売上規模で選ぶのであればイオンやイトーヨーカドーになるでしょう。
しかし、企業の『儲け』を表す営業利益率と純利益率は、ウォルマートが4%と3%前後に対して、イオンやイトーヨーカドーが1%前後です。
一部の例外は有りますが、スーパーマーケットやホームセンターそしてドラッグストアといった日本の小売業は低い利益率で営業している傾向が見受けられます。
大半の日本の小売業が米国の小売業を学んで真似て企業規模を大きくしてきたにもかかわらず、利益率の考え方に大きな隔たりがあることは否めません。
本記事では日本の小売業における『利益率低い』問題を、ワインバーを舞台にしたドラマ仕立てで解説します。
目次
小売業の「売上総利益率低い」を確認する
【登場人物】(すべての組織・人物はフィクションです。)
いずみ・・・・スーパーマーケット「チェーンズ」の一般食品MD
マスター・・・ワインバー「テロワール」のマスター
オーナー・・・ワイン専門店「セパージュ」の店主
一昔前まで名古屋の繁華街と言えば栄周辺であり、小売業の代表格である主要な4つの百貨店の内の3つが栄にありました。
しかし、名古屋駅前にJRと東京の老舗とが共同で創った百貨店が強力な磁力で顧客を引き付けて、今や集客は栄周辺を凌駕しています。
その名古屋駅から私鉄各駅停車で4つしか離れていないT駅は、名古屋駅の賑やかさが嘘のように閑散としています。
そして、いずみが行き付けのワインバー「テロワール」はT駅前にあり、名古屋駅にそびえる高層ビルの最上階にある、高級ワインバーのような慇懃な店内装飾には遥かに及びませんが、高級品ではないが洗練された調度がいずみの仕事で荒んだ心を癒してくれるのです。
こんばんはマスター!
あれ?先客がいらっしゃったのね。
いずみさん、いらっしゃいませ。
彼は日頃ワインの納入をしてもらっているワイン販売店のオーナーです。
こんばんは。この店には似つかわしくないお若いご婦人ですね。
若い女性が似合わない店で悪かったですね!
こちらの女性は『テロワール』を愛して御贔屓を頂いている御常連なんです。『テロワール』も捨てたもんじゃないんですよ!
私はワインが好きでワインバーをたびたび利用するのですけど、名古屋駅の高層ビル最上階の高級ワインバーと比べて、『テロワール』の料理とワインのペアリングは決して引けを取らないと思います!
ほら、ワインをわかっている若い女性に評価される『テロワール』なんです。
…ところで、いずみさん、今日はなんだか楽しそうですね。
私って単純だから、気持ちが顔や態度に出てしまうのね!
マスターが察した通り今日はMD会議でマネージャーに褒められたの。
それは良かったですね!
詳しい話は後でゆっくり聞かせていただくとして、先ずは150年程前にロシア皇帝の要望により作られたシャンパーニュをどうぞ。
いいのかい!?
そのシャンパーニュのクリスタルボトルは、最近価格が急上昇している上に、入手困難になっているのだよ。
何言ってんだい!
一部の超高価格品を除いて、ワインは飲むために作られたのだよ。
いずみさんの笑顔が見られるなら安いもんだよ。
毎回、美味しいワインを出してくださるのだけど、お勘定はリーズナブルなの。
ネットで調べると結構高いから大丈夫かしら…
さあさあ、そんなことを気にしないでシャンパーニュの色を目で、泡のはじける音を耳で、華やかな味わいを舌で味わってください!
ところで、何を褒められたのですか?
私が任されている一般食品部門の荒利率が、売上達成した上で計画を大きく上回ったの。
それはすごい!!
荒利と言ったら売上総利益の事ですよね。
今どきの一般食品は競合に対抗すると十分な値入が確保できずに利益なき繁忙に陥るのですが、売上も荒利もクリアするなんて何をされたのか是非教えてください。
基本に立ち戻って、精力的にソーシング活動をして、知名度は低いけど高い品質を持つローカルブランドを、お客様にお買い求め易くする目的でSB化して、NB、PB、SBの相乗積を計算しながら構成比を変えたの。
いい所に目を付けましたね。
今どきのイケてるスーパーマーケットの一般食品部門は、荒利率はあきらめて作業生産性を上げて営業利益を確保しようとするのだけど、それも限界にきていると聞いています。
ダイナミック・プライス・ミックスといったマイケル・J・カレン以来の古典的な考え方は、
部門間の相乗積を意味するのだけど、それをNB、PB、SBで試したら、
結構な額の値入を確保できたので、荒利率つまり売上総利益率が向上したのです。
米国に比べて日本の小売業利益率は総じて低い。
そもそも、荒利率が低いのは競合環境の所為にして胡坐をかいたMDの怠慢だね。
僕も調べてみたのだけれど、米国の主だったスーパーマーケットの荒利率は30%前後であるのに対して、日本は24%でした。
日本のNBは強いから、PBやSBが伸びないといった言い訳を聞くけど、
日本の主要チェーンストアの知名度をフル活用すればお客の支持を得られるに違いないよ。
つまり、いずみさんが実践したように、競合店対策上値入の取れないNBの取り扱いを減らして、
値入を十分確保できるPBや、価格が比較されにくいSBを開拓して取り扱う比率を増やせば、
結果的に荒利率を向上させることができるのですよ。
マスターが仰る通りで、PBの開発やSBの開拓は手間がかかる上に、結果が出るまでに時間が必要だから疎かにしていたのだけど、
商品マネージャーに許可をもらって出張を増やしてPBやSBの取り扱いを増やしてNBのフェースを減らしたら徐々に荒利率が向上したのです。
ところで、マスターが小売業に詳しいにはわかるけど、店主さんの知識も深いですね。
そりゃそうだよ、前職スーパーマーケットの同期で、社長賞を交代で受賞した間柄だからね。
ところで、何か軽いものを如何ですか。
マスターはそう言いながらも、寿司を握り始めていたのでした。
小売業の営業利益率はなぜ低いのか
相変わらず、人に好みを聞きながらも我が信ずるところを押し付けるね?
いずみさんのリクエストを聞く前に料理とワインのペアリングを決めてしまっているね。
ましてや、握り寿司が軽いとは思えないけどね。
へい、お待ち!
白身と小肌の握りに、ブルゴーニュのドメーヌで『世界最高峰のシャルドネ』の名声を持つ白ワインをどうぞ。
採算度外視とはこれを言うのだね。
いずみさん、僕もご相伴にあずかっても良いですか?
もちろん!
代わりと言っては何ですが、先ほどの話題に踏み込んだ質問をさせてください。
米国小売業に比べて日本は営業利益率が低いと聞いていましたが、原因は荒利率だけなのですか。
荒利率つまり売上総利益率は低いのはスーパーマーケットに顕著な違いがあるのですが、ホームセンターでは34%前後は同等で、ドラッグストアでは日本が26%前後に対して米国が20%前後なんです。
ところが、営業利益率を見るとスーパーマーケットにおいて日本では2%を切る企業が多く対して米国は2%以上ですし、ホームセンターは日本が5%前後に対して米国は2桁なのです。
ドラックストアに関しては5%前後で同じなのです。
数字がすらすらと出てきて私には理解し難いのですが、店主さんの分析結果を教えてください。
販管費率が日本に比べて米国小売業は総じて低いのです。
つまり、労働生産性の高低差なのです。
今後は原材料費高騰によるメーカーや卸からの値上げ要請が急増し、過去においては色々理由をつけて先延ばしにできたのですが、
独禁法の適用強化方針が行政サイドから通達されているので受け入れざるを得ず、
給与増加要請に対する対応等で益々営業利益の減る要因が増えるので、
定休日の設定や営業時間の短縮で労働生産性を向上させるなどの対応は避けて通れないでしょうね。
労働生産性向上への取り組みは、賢明の努力により年間1,000万円を超える小売業が出てきているのですが、
『チェーンズ』の様なスーパーマーケットはまだ低いのです。
労働環境を改善したスーパーマーケットは比較的高い労働生産性を達成している様なので、3K職場を見直さないといけないですね。
日本の小売業で経常利益率は低くならない?
またもやマスターの手は動き始めていたのでした。コンロに火をつけて掛けてある鍋を混ぜ始めたのです。
おいおい、寿司の後にビーフシチューを出すのか?
いずみさんのような若い方は、幼いころからカレーライスとラーメンを一緒に食べていたので、
我々おじさん世代の舌の常識とは違うのさ。
寿司の味わいは美味しい白ワインで洗い流されたし、美味しいビーフシチューの香りに空腹が呼び戻されました!
是非お願いします!!
ところでオーナーさん、日本では企業の利益尺度では経常利益が使われるけど、経常利益の日米差はどうなのですか?
日本の小売業の多くは、営業外収支が少なくて、営業利益と経常利益は僅差なのだけれど、米国の場合は支払利息や社債関連の費用を計上して営業利益から営業外収支を減じているのです。
つまり、必要な資金を外部調達して業績拡大を図っているのですが、日本では無借金が美徳とされている風潮から営業外費用が僅少なので、営業利益と経常利益の差がない企業が多いですね。
企業規模拡大のための資金調達を怠っているのではないでしょうか。
利益が減らないことは良いことだと思っていましたが、
オーナーさんのお話を聞くと支払利息の負担はある程度は必要であるような気がします。
小売業の純利益率を上げるにはどうすれば良いか
借り入れや社債は経理部門やトップマネジメントの仕事なので、いずみさんには手が出せないですよね。
それより今はいずみさんの空腹を満たすことが重要なので、ビーフシチューとイタリアのピエモンテでバルベーラ種のブドウを使ったワインのペアリングを召し上がってください。
マスターが進めてくださるペアリングに何時も感動するのだけれど、料理によってワインの味わいが一段と増したり、全くダメになったりするので、不思議な食中酒なのだと思うわ…
ところで、今までのオーナーさんの教えに関してマスターは如何思います?
労働生産性の向上に関しては、単純化・標準化・差異化の3Sで克服するのは勿論です。
そして、総じて労働環境の良くない小売店舗を少しでも改善する努力をしながら、モチベーションの向上が解決策の一つですが、
やはり限界があるし短期的に効果は表れないから、先ずは原価高騰に関しては値上げで対応せざるを得ないのでしょうね。
売価を上げようとして上司に申請すると、競合他店舗との価格比較で顧客離反を誘発するとして認めてくれないのです。
もちろん値上げせずに済むのであれば良いのですが、値上げせざるを得ない状況であれば選択の余地はありません。
その時に、絶対してはならないのが『こっそり』値上げすることなのです。
外部要因とは言え、値上げはお客様の都合ではなく店舗側の都合なのですから、
市場環境の変化や仕入価格高騰であることを明確にして、企業努力を行ったことを示すとともに
値上げ以外に選択の余地が無いことを説明し、万止むを得ない仕儀になった事情を深謝して、
『しょうがない』とお客様が思っていただけるようにしなければならないですね。
値入を獲得できる商品の取り扱いを増やし、必要な値上げをして荒利率を増やし、労働環境や賃金を改善するなどして労働生産性を向上すれば販管費率が改善して営業利益率が上昇し、企業規模拡大に必要な資金調達を躊躇なく行えば、多少の営業外費用が発生しても経常利益は確保可能であり、これらを地道に行えば、小売業の『利益率低い』問題は解消できるのです。
おっと、説教臭くなってしまいました。この話はここまでとして、美味しいペアリングを楽しみましょう。
夜の帳が下りて『テロワール』の地味なネオンが浮かぶ景色はいつも通りですが、人の営みは同じでは無いようです。
【まとめ】小売業の『利益率低い』問題 売上と収益性の解説【ワイン編】
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