小売業DX:デジタルトランスフォーメーションのIT投資ポイント、デジタル化の事例もご紹介

DX:デジタルトランスフォーメーションは、言葉通りに解釈すると「デジタル化を通じて既存のビジネス・組織の在り方を抜本的に改革する」というのが定義となろうかと思います。

しかしながら、抜本的にビジネス・組織の在り方を変えるほどの取り組みを行っている企業は(一部のベンチャーを除き)あまり見かけることはなく、サービスを提供する側のシステムベンダーも、通常通りのIT投資提案をDX:デジタルトランスフォーメーション提案と称していることが多いように感じます。

 

今回はそうしたDX:デジタルトランスフォーメーションへの違和感への言及と、取り組みやすいIT投資についてご紹介させていただきます。

「DX:デジタルトランスフォーメーション」とIT投資の違いとは?

筆者は「DX:デジタルトランスフォーメーション」というバズワードに違和感を覚えている一人です。

「DX:デジタルトランスフォーメーション」、「AI」などのバズワードや、横文字・3文字アルファベットを多用して具体的に欠ける概念を持ち出して、各社の経営者・管理者を煽り立てるこの風潮、過去にもありましたので皆さんご記憶にあろうかと思います。

ERP/SCM/CRMブーム、ビッグデータブーム、Eコマースブーム、Web2.0ブーム、、、など。

 

DX:デジタルトランスフォーメーションにも同じ空気を感じます。

3年くらい経つと誰も口にしなくなっているような気がします。

 

システムベンダー側に、2018年に経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン」や、菅総理の昇進表明演説に乗っかって営業したろう、、、という魂胆が透けて見えます。

DX:デジタルトランスフォーメーションは、言葉通りに解釈すると「デジタル化を通じて既存のビジネス・組織の在り方を抜本的に改革する」というのが定義となろうかと思います。

 

しかしながら、抜本的にビジネス・組織の在り方を変えるほどの取り組みを行っている企業は(一部のベンチャーを除き)あまり見かけることはなく、サービスを提供する側のシステムベンダーも、通常通りのIT投資提案をDX:デジタルトランスフォーメーション提案と称していることが多いように感じます。

 

今まで通りのIT投資でいいのに、それがにわかに「DX:デジタルトランスフォーメーション」ブームになっていることに違和感を覚えるのです。

それが故に、「DX:デジタルトランスフォーションを推進しなきゃ!」と思っている小売業の経営者・IT担当者の皆さんには、「目的と手段を取り違えず、落ち着いて従来通りに良いテクノロジー・パッケージを自社に取り込んで、売上UP・コストDOWNを実現できそうか、できなさそうかを評価しながら必要なIT投資を行っていくだけでよいのでは?」とお伝えしたくなるのです。

小売DX:デジタルトランスフォーメーション IT投資は以前から盛んだった!

「ビジネスと組織の在り方を抜本的に変革するIT投資」と捉えずに、単に「新しいテクノロジー・パッケージを、投資対効果を鑑みながら自社に取り込んでいくこと」と捉えた場合、多くの小売業はデジタルトランスフォーメーションが流行するずっと以前から、意欲的で積極的に取り組んでいます。

 

スーパーマーケットやホームセンターのような、多品種大量販売のビジネスを行っている業態は、ITを活用しないと、発注もできなければ在庫管理もできず、利益算出も決算もすることができません。

今生き残っている小売業のほとんどすべての企業が、2000年以前から積極的にIT投資を行っています。

2000年以前には基幹システム・POSレジ・EOSに投資し、2000年代にCRMが流行ればポイントカードなどを導入して顧客管理を開始し、「ビックデータ」と言われれば分析システムを導入し、2014年のアベノミクス以降に人手不足が深刻になればセルフレジ・セミセルフレジや自動発注システムを積極的に導入し、2018年頃にキャッシュレス決済が推進されれば積極的にキャッシュレス化に対応してきています。

 

これらの投資を行う際には、投資対効果、導入プロジェクトの実現性、新しい業務運用を考えながら、必要可否を判断して導入されてきたものと思います。

「DX:デジタルトランスフォーメーション」が流行している今こそ、仰々しく構えることなく、目的と手段を取り違えてしまわずに、いつも通りに必要なIT投資をされればいいのではと考えます。

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小売DX デジタル化とIT投資の要は目的と手段の取り違えないこと!

私は前述の通り、小売業は以前から積極的にIT投資をしてきている業態だと思っていますので、従来からの「IT投資による経営と業務の効率化」と捉えるのが分かりやすくて自然だと思っています。

浮足立って手段と目的を取り違えてしまうのではなく、従来通り、経営課題・業務課題に向き合ってその改善方法を模索し、自社において無駄が多いと感じている業務を分析して改善方法を検討し、それ必要となるIT投資を推進していくことこそが王道であると思います。

 

課題感はあるけれど、その解決策が見出せない小売業は、同業他社が導入して効果が出ているやり方やITソリューションを採用するのも1つの方法です。

過去にそうやってIT化を推進し、成果を出してきた小売業もたくさんあることでしょう。

 

この2、3年で劇的にIT技術が進化したということはありません。

進化はしていますが、それはここ2、3年の話ではなく、以前からIT技術は着々と進化しています。

 

AIだって、ここ数年に劇的に進化したわけではありません。

ずっと以前からAIは存在しており、2000年代初頭には今とそれほど変わらないことを実現できていました。敢えて言うのならば、コンピュータ資源の価格低下や、クラウドの普及により、コストの面での採用のハードルは以前と比べてだいぶ低くなりましたので、採用しやすくなったとは言えます。

 

もう少し待っていれば、もっとコスト面での採用ハードルは下がるでしょうし、成功事例や技術者も増えてきてリスク低く導入できるようになってくるものと予想できます。

ここ2、3年で劇的に環境が変わったわけではなく、以前と同じように変わっているだけですので、これまで通り、地に足を付けて課題に向き合い、投資対効果が得られると考えるものに投資をすればいいと思うのです。

小売DX 最近取り組みやすくなってきているIT投資領域は?成功事例をご紹介

以下の領域は、SaaS(≒ソフトウェアの月額利用型クラウドドサービス)が普及しており、大規模なプロジェクトを立ち上げなくとも、比較的低いコスト・リスク・納期・工数で導入することができます。

 

【ECサイト】

ネットスーパーとなると物流までを考慮しなければならないので、プロジェクト規模もコストも高く、リスクも高いプロジェクトとなります。

しかしながら、物流を外部委託したり、宅配便で配送することを前提として、比較的粗利率の高い自社PB商品や高額商品を販売したり、お中元・お歳暮、おせち、恵方巻などの季節商品を販売したりすることを目的に軽めのECサイトを導入するのは、コスト・リスクを考慮しても低いハードルで導入できるようになっています。

 

人気のある特徴的な商品をお持ちの小売業や、毎年の季節商品の売上ボリュームが一定以上ある小売業は、売上増加、受注作業工数の削減などの効果を得られるかもしれません。

 

【スマートフォンによる販促】

スマートフォンの普及率は右肩上がりです。

若い世代・働く世代だけではなく、60代以上の世代においても55%も普及しているデータがあります。新聞購読者数が毎年減少して、折込チラシの効果が薄れてきている今、高い普及率のあるスマートフォンを活用して販促・顧客囲い込みをするのは効果を出しやすいでしょう。

 

折込チラシに投じている費用の一部を、スマートフォンのサイト構築に振り向ければ、来店客数の増加が見込めますし、うまく軌道に乗れば劇的に折込チラシのコストを削減できるかもしれません。

出典:総務省「令和元年通信利用動向調査結果」

 

【自動発注】

2015年頃から、自動発注システムを採用される小売業が一気に増えました。

統計数字はありませんが自動発注システムの営業に携わっている身の実感としては、ドラッグストアは80%超え、スーパーマーケット・ホームセンターにおいても50%くらいの普及率なのではと感じています。

 

正確で効果も出しやすい在庫基準方式だと単品在庫管理の精度向上が導入の必須要件となりますのでハードルは低くありませんが、売上基準方式であれば比較的低いハードルで導入できます。

また、いずれの方式の場合も使いながら精度を高めるためのパラメーターを追加で付け足していけば、段階的に需要予測型の自動発注システムに進化させることができます。

 

「AIを使ったらより精度の高い自動発注ができるのでは?」という声をよく耳にしますが、2021年1月の今時点では成功事例を耳にしないのが実態です。

AIと言えども、基本はコンピュータであり計算機ですから、正しいデータをインプットしなければ正しい発注数を算出できません。

 

AIを導入することが目的ではなく、精度の高い自動発注を実現して発注工数を削減することが目的です。

AIは搭載されていなくとも、在庫基準方式・売上基準方式の自動発注システムを使い倒して、精度を高めるためにパラメーターを付け足していけば、段階的に需要予測型の自動発注システムが完成します。

 

【商談効率化】

コロナ禍により、ZoomなどのWeb会議システムが急速に普及し、Web商談が普通に行われるようになりました。

バイヤーと卸・メーカーの営業との商談においても、普通にWeb商談が行われているものと思います。

 

しかしながら、対面の商談がWeb会議に代わっただけでは、それほど業務効率の効果は高くありません。

小売が一斉に卸・メーカーに対して提案依頼を行い、Web上で提案内容・条件を評価し、卸・メーカーに競争してもらってから採用提案を決めて、採用した商品情報を社内システムに連携させることができれば、商談工数削減(販管費削減)、仕入価格低減(原価低減)に繋がり、大きな効果を出せるものと思います。

 

メーカー・卸の営業員も、何度も通って提案や値切り交渉を行うのは本意ではありません(リレーション重視の一部のベテラン営業はそうでもないかもしれませんが・・・)。

小売りはコスト削減ができ、卸・メーカーは営業工数を大幅に削減することができ、企業の枠を超えた効率化を図ることができます。

 

このようなシステム導入が、技術の進化、社会環境の変化に伴い、低いハードルで行えるようになってきています。

 

【従業員教育】

ネットワークの回線読度が改善し、無線LANやWi-Fiも簡単に設置することができ、さらにはE-learningや動画・マニュアル作成ソフトの機能は充実し、比較的安いSaaSサービスが登場しています。

従業員の皆さんもほとんどすべての方がスマホを所有しているものと思います。このような環境が整った今、動画を活用した従業員教育は非常に取り組みやすくなっています。

10年前のスマホ普及率は低く、ネットワーク環境も悪く、マニュアル作成ソフトも今のように安くはありませんでした。

 

まさに今は非常に低いハードルで導入できるDX:デジタルトランスフォーメーションの領域なのではないでしょうか?

 

【まとめ】小売業DX:デジタルトランスフォーメーションのIT投資ポイント、デジタル化の事例もご紹介

いかがでしたでしょうか?

DX:デジタルトランスフォーメーションブームに流されてしまわず、導入することが目的ではなく、投資額・工数に相応しい効果を出すことが目的です。

世間の風潮に流されてしまわずに、目的と手段を取り違えずに、従来通りの姿勢でIT投資を着々と行っていくことこそが、DX:デジタルトランスフォーメーションを成功させる近道であると思います。