基幹システムと部門別管理の深い関係とは? ~マイケル・J・カレンの偉人伝説~

基幹システムと部門別管理の深い関係とは? ~マイケル・J・カレンの偉人伝説~

小難しい感じがする部門別管理を多少でも興味を持っていただくために、発明者マイケル・J・カレン(Michael J.Cullen)の偉人伝物語風にフィクションを織り交ぜて書き、スーパーマーケットと部門別管理が非常に深い関係にあることをご理解いただけるようにしました。

そして物語を受けてスーパーマーケットを主とした小売業の基幹システムと部門別管理の必要機能と近未来像を解説しました。

 

基幹システムは今後も発達を続け、小売業の業務効率とサービスレベルの向上を進化させ、部門別管理は基幹システムと密接に関わりながら健全経営の最も重要なツールとして活用され互いに深い関係性を維持発展し続けるでしょう。

それでは、1928年米国中西部のイリノイ州をイメージしてご覧ください。

基幹システム無き時代の部門別管理

【登場人物】

カレン…マイケル・J・カレン/スミソニアン研究所が認めた現代的なスーパーマーケットの創始者

ナン…ナン・カレン/マイケル・J・カレンの妻でマイケル亡き後を引き継ぎ発展させた

アルバース…ウィリアム・アルバース/カレンが勤務していた当時のクローガー社二代目CEO

トム…アルバースの部下(架空の人物)

会社名 クローガー社・・Krogerは1883年創業の米国大手スーパーマーケットチェーン

 

カレンは憤っていました。アイルランド移民の子として苦労を重ね、若くして食品小売業に関する研鑽を積んできた経験を基に書き上げた画期的なアイデアを、アルバース宛の手紙に書き送って随分経ったが返事が無かったからです。

カレン「今よりも地代が安い立地に、広い売場と駐車場を備えた店を出し、商品は回転率に応じて値入を変化させて高回転商品の安値を強調し、セルフサービス方式でキャッシュ・アンド・キャリーを行えば、今のクローガー店舗の10倍の収入と3倍の収益をもたらす確信がある。

しかし、アルバースは全く聞く耳を持たない。」

 

いつの世でも革命的なアイデアを理解できる、あるいは理解しようとする者はごく少数で、多くの凡人は成功した結果を見てから真似をします。

アルバースもこの類の経営者であったと思われがちですが、実はカレンの手紙をアルバースの部下であったトムが、手紙をアルバースに渡さなかったことが後に判明しています。

 

残念なことにトムが無能であったのであり、無能な中間管理職の存在は企業を不幸に導くか、少なくとも飛躍の芽を摘んでしまいます。

クローガー社の創業者バーナード・クローガーと一緒に働き、彼に見込まれて社長を引き継いだアルバースなので、カレンのアイデアを読めば無視はしなかったでしょうし、「スーパーマーケットの創始者」の栄冠はアルバースに輝いた可能性があります。

現にCEO就任後の僅か2年で辞し、自分のチェーン店舗を創業しています。

 

トム「今のクローガーはうまくいっている。地代が安い場所には客は来ないし、駐車場など持たなくても配達サービスすれば済む話さ。

信用の置ける客には掛で買ってもらったほうが、現金の持ち合わせを気にすることなく多くの商品が売れるのさ。

そもそも、商品回転率に応じた値入をする計算ができる従業員は多くない。すべての売値は仕入値に40%の値入をすればいいのさ。

カレンの絵空事を真に受けたら店は直ぐに潰れてしまう。

こんな下らないことが書いてある手紙を社長に渡したら、取り次いだ俺まで怒られてしまう。」

 

カレンはナンに会社に対する愚痴を言いました。

ナンは良くできた賢い伴侶でしたので、愛する夫の悪口雑言を優しい顔で静かに聞いていました。

 

カレン「アルバースは臆病だ。僕は幼い時から食料品事業について学び、18歳でアトランティック&パシフィック・ティー社に入社して17年間働き、ミューチュアル、ブレイシー・スウィフト、クローガーで経験を積んできた。だからこれからの食料品店のあるべき姿が見えるし、クローガーの店舗でも試してうまくいっている。

それにもかかわらずアルバースは画期的なアイデアを無視した。まったくもって大馬鹿もんだよ。」

 

ナン「マイケル。だったら自分で理想の店を作ったら良いじゃない。私も手伝うわ。でも一つだけ教えて。

商品回転率によって値入を変えると言っても、必要な利益を確保するためにどんな計算をするの。」

 

カレンは嬉しかったのです。自分の構想は必ず成功する自信がありますが、一人でできるはずもなく、家族に手伝ってもらえば苦労を掛けるのは火を見るより明らかでした。

しかし、ナンは百も承知で手伝うと言ってくれたのでした。

 

カレン「大丈夫だよ。商品回転率の高い順に4つに分類し、それぞれの売上構成比を計算し、値入は回転率の高い順に0%、5%、12%、20%として回転率にかけ合わせると合計が900になる。

こうすれば合計値入は9%になり、荒利も同率になる寸法さ。

これを常に計算しながら調整すれば安さの訴求と利益が確保できるのさ。この4つを部門として管理する。つまり、部門別管理だよ。」

 

ナン「荒利だけ捉えていても赤字になることにならないかしら。」

 

カレン「もちろん、部門ごとに要した費用を計算して、部門ごとの純利益も管理するよ。

全部門合計で2.5%は利益が出る予定をしているよ。」

 

ナン「でも、クローガーの荒利率は40%だから、あなたの新しいお店の4倍だわ。

単純だけど純利益も4倍の10%にならないかしら。2.5%でやっていけるの。」

 

カレン「クローガーの10倍売れるし、売り場の80%をセルフサービス方式にすれば人手も比較的少なく済むから純利益額は2倍以上になるさ。」

 

これを聞いて聡明なナンは理解しましたが、筆者も含めた理解できない諸氏の為に具体的な数値を示して詳解しましょう。

旧来からあったクローガーの店舗売上が年間30,000ドルと仮定すると、荒利高は12,000ドルで純利益高は3,000ドルです。

 

カレンの新しい店は300,000ドルの年間売上高で27,000ドルの荒利高と7,500ドル、つまりクローガーの店の2.5倍の純利益高を稼ぎ出します。

その後、クローガーを退職し、家族でニューヨーク州ロングアイランドに引っ越したカレンが、クイーンズ区の繁華街から外れたガレージに食料品店(後のスーパーマーケット)『キング・カレン』を開店したのが、ニューヨーク証券取引所の暗黒木曜大暴落に始まった世界大恐慌から1年もたっていない1930年8月4日なので、コンピュータはもちろん電卓もない時代です。

 

レジスター(部門打ち)はあったので、売り上げはレジスターから部門別に把握し、仕入や在庫、さらに経費は伝票として起票して手計算で集計したのですが、現代の部門別管理とほぼ同等の方法をカレンは発明しました。

大不況と大量失業に喘ぐ大衆の圧倒的な支持(中には160キロ先から買いに来た)を背景に、創業店舗の開店から僅か6年で17店舗を出店し6百万ドル(筆者注:現在日本に換算すると75億円程度でしょう。)の売上を打ち立てたのです。

 

残念ながら、この年にカレンは虫垂炎(俗にいう盲腸炎)の術後が悪く、享年52歳で他界しました。

しかし、彼の遺志を継いだナンのリーダーシップと家族の支援を通じて成長し、今もキング・カレンは営業しています。

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基幹システムと部門別管理の関係において欠くべからざる機能

日本を代表するチェーンストア企業の大半を指導した故渥美俊一氏は、部門別管理をチェーンストアの管理手法として最重要視していました。

つまり、チェーンストアをマネジメントしてコントロールするには欠くべからざる技術なのですが、IoTの発達に即して基幹システムが高度化しているにも関わらず、部門別管理をマイケル・J・カレンが発明して手計算で行っていた時から手計算が表計算や分析ソフトウェアを利用するようになったに過ぎないのです。

 

しかしながら、迅速に現場の実態を把握して、時を逸することなく果敢に対策を立案して実行するには、日々刻々と基幹システムで処理された情報を集め、配分して計算することが必要であると考えます。

このために基幹システムが持つべき機能は、売上や仕入といった基礎データを迅速に集めるといった初歩的なことは言うに及ばず、根拠に裏付けされた計算で数値化することが欠かせません。

 

具体的にはEDI発注は9割(未遅納対策が徹底していれば9割9分)が納品予定日に完納されるのでこの数値を仕入計上しても大勢に影響はなく、万一の未遅納には適時適切な修正を施せば仕入計上が遅れたり漏れたりすることを防止できます。

これに対して生鮮部門は対象外との反論がありますが、生鮮部門がセンター化されていれば、店舗段階では課題が無くなり、センターは人海戦術をもってすれば即日計上が可能になるので、全社レベルで即時作表が可能になります。

 

また、実施棚卸をせずとも、高精度の単品在庫数量管理を採用していれば、時点数量に時点単価を乗じた在庫額は、実施棚卸値と同様に扱うことができます。

売価変更(値上、値下、見切、廃棄)データの自動計算機能や経費の比例分配した配賦割付が、基幹システムには欠くべからざる機能でしょう。

基幹システムの将来と部門別管理の未来

小売業の中でもチェーンストアの基幹システムは、会計集計機能の延長線上である部門別管理から始まり、発注業務やレジとの連携業務を通じたアイテム管理に進化し、各機能の自動化を成し遂げながら、シームレス化とリアルタイム化されました。

この進化の集大成がERPとして認識されていますが、必ずしも我が国のチェーンストアで普及していないのは何故なのでしょうか。

この疑問に対する答えの一つが我が国の独自性悪く言えば独善的思考であると推察します。では、我が国における基幹システムの将来はどのような姿かたちになるのでしょうか。

 

DXが深化する世の中では、シームレス化やリアルタイム化は論を待ちませんが、これらを更に推し進めた過去実績と直近数値そして計画値がシームレスになるのではないかと予測します。

筆者は長年に亘って基幹システムに携わってきて、実績が確定するまで集計できない現状を目の当たりにしてきました。

 

これでは、集計結果が出た時点では、対策を打つべき時を逸してしまっている場合が多いのです。

したがって、実績が確定するまでは、過去実績や計画値を利用したことを明示したうえで集計しても良いのではないかと考えます。

そして、部門別管理の未来形は、この様な過去、現在、計画をシームレスにした基幹システムで出力される仕組みになるのではないでしょうか。