基幹システムはERPであるべきか? その違いと種類、管理手法も解説

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小売 製品比較 

企業活動において、ITやIoTもしくはICTを利用しない選択肢は考えられないことは論を待ちません。多くの小売企業は、ITやIoTを基幹システムとして利用し地道にノウハウを蓄積し、自己変革を煽り立てる有識者がいても、自社を取り巻く環境は緩慢な変化であるので、しばらくは継続が善後策として選択されてきました。

しかし、コロナ禍が世界を大混乱に陥れ、企業存続に危機感を持った経営者は経営改革の中心にDXを据え始めています。そして、DXでは既存基幹システムをレガシー・システムと切り捨て、情報が一元化され且つリアルタイムに処理されるという条件を満たすシステムへの刷新を後押し、条件を満たす選択肢としてERPの採用が適切であるとの判断をしたにも拘わらず、ERPを採用すべく詳細な調査をする中で自社での利用可否に疑問符が付き、多くの企業が具体的な行動を躊躇しているように見受けます。DXレポートには、レガシー・システム刷新や高度化等をきっかけとした企業変革を通じた競争優位の構築に向けた行動を推奨していますが、言わんとする本質は事業の環境変化に迅速に適応する能力を身につけることであり、レガシー・システム刷新はレガシー企業文化からの脱却への取り組みであると説いています。

当ブログでは、小売企業を意識した次期システムの選択肢として適切性を論ずるにあたって、基幹システムとERPを解説します。

基幹システムとERPに違いはあるか

一般的に小売業の基幹システムの種類には、「購買管理」「販売管理」「在庫管理」「会計管理」「人事給与」の5システムであるとの解説が大半です。これは、経済社会の中心である製造業の基幹システムの種類である「生産管理」「販売管理」「購買管理」「在庫管理」「会計管理」「人事給与」の6分類から流用されているのですが、今どきの優れた小売業基幹システムは、仕入(購買)、売上(販売)、在庫(棚卸)の各機能が統合化されたシステムであり、財務(会計)、人事給与(勤怠)の機能は別システムとしていますが、管理会計機能つまり小売業独特の管理手法である部門別管理は基幹システム内で機能するようになっています。このような実態を考慮した小売業の基幹システムとは、広義の「販売管理」つまり販売のみならず購買と在庫、さらに管理会計を凌駕する管理手法の部門別管理が一元化されたシステムと「会計管理」「人事給与」の3種類ですし、「会計管理」と「人事給与」が一元化されたシステムもあるので、これを採用すれば業務系システムと管理系システムの2種類が基幹システムであると理解する方が妥当です。ERPはすべての業務を一元化して管理するシステムですので、基幹システムを2種類と理解すれば、2つを統合して一元化したシステムがERPであり、違いは2系統が一元化されているか否かになるのです。

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基幹システムでERPを補えるか

基幹システムは業務を効率化するために利用するシステムであり、ERPは経営判断を的確に行えるように戦略、戦術、戦闘、突撃の各レベル状況情報をリアルタイムに提供することを目的にしています。つまり、基幹システムに経営判断を支援する機能が在ればERPを補えると理解できますし、部門別管理が歴史的にも経験法則的にも小売企業の経営判断のために最も効果的に機能しているので、情報提示がリアルタイムで実施されればERPを補って余りあると言えるでしょう。

基幹システムをERPに置き換えるべきか

製造業等ではERPの採用が多いと聞いていますが、本(もと)を正せばMRPが発展拡大して作られたシステムがERPですので、製造業がERPを採用するに際してのハードルは低いのでしょう。

しかしながら、流通業の、特に小売業では製造業のような素地が無い上に、物の動きとデータの発生タイミングにズレが発生し、これを補完する機能が装備されていなければならないので、情報が一元的に統合化されてリアルタイムに処理されても、発注データを仕入データとして流用して確定値に修正されるような機能がなければ、かえって経営情報の提供が遅延することになります。また、チェーンストアを志向する小売企業では、「部門の商品作業の標準化」がチェーンストアの御利益(ごりやく)を享受するうえで必須要件ですので、商品分類や単なる組織分類としての『部門』では無い概念を包括した部門別管理が欠くべからざる機能です。しかしながら、現在我が国で提供されているERPやそのサービスには補完する機能があるように見えません。

別の観点から見ると、採用しようとするERPに業務を効率化する機能が無ければ、ERPが基幹システムを補うこと能わず、ERPを採用しても管理系システムの置き換えに留まり、業務系システムを別途利用するケースが発生しかねません。ゆえに、小売企業が基幹システムを放棄してERPを全面的に利用することは困難であると言わざるを得ません。つまり、消極的な意味の小売企業の中核システムがERPである必要がないとの評価よりも、積極的な意味でERPであってはならないのです。

まとめ

製造業の管理手法として我が国で名を馳せているアメーバ経営の部門別採算管理は、細部に違いはあるものの小売業の管理手法である部門別管理と似通っています。両方ともにいわゆる管理会計であり、財務会計とは違い、会計基準という厳格なルールに縛られずに、企業が自社の管理手法の都合に合わせて運用できる仕組みです。時には正確性よりも迅速性を優先し、場合によっては孫子の兵法「第二章・作戦篇」にある「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり」が言わんとしているように、拙速が推奨されても巧遅(こうち:仕上がりは良いが遅い)は敬遠されるので、正確なデータを扱うERPの会計機能では時にデータ入力が遅くなるために、処理がリアルタイムであっても管理手法として部門別管理の代替は極めて困難であると予測します。

DXレポートが要求する次世代システムは、一元性とリアルタイム性を装備していることを前提に記述されています。もちろん、重要な要件であるには違いがありませんが、DXレポートにおける、さらに重要な要件は企業競争力の強化です。企業競争力を強化するために価格競争の先頭を走るリスクをとる必要はありませんが、後塵を拝するのではなく、引けを取らないようにしなければならず、引けを取らない体制作りが必要であり、その為には業務の効率化は必須要件です。したがって、基幹システムの機能である効率化の追求は、経営判断を支援することよりも重要な要件だと断じても構わないのです。

恐怖心は変化に対する最良の動機であると言われますが、疫病、災害、戦争が世の中に与える恐怖心は世界を大きく変えるに違いありません。コロナ禍が変える世界において基幹システムの刷新は避けえないとしても、一元化やリアルタイム性といった条件を優先しすぎるあまりERPの採用自体が目的になるケースがある中で、避けなければならない事態は業務効率の低下なのです。

2021/4/27