発注精度向上に欠かせない基幹システムとは?機能の種類とクラウドがポイント
小売店頭で横行しているKKD(経験と勘と度胸)発注では、売れない商品が売り場を占拠し、売れる商品が売り場から消える事態を招きます。
だからと言って効率を無視した発注作業では店舗運用が成り立ちません。
人的作業による発注を自動発注に切り替えても問題が解決するわけではありません。
こちらでは、有識者の対談形式で基幹システムを駆使した発注精度向上の方法について解説します。
基幹システムにおける発注精度向上機能の種類
【登場人物】(すべての組織・人物はフィクションです。)
東海 いずみ(いずみ)=テスク大学CHAINS学部教授(流通経営学)
斉場 陸司(斉場)=情報鎖輪大学工学部教授(情報科学)
鈴木 南地(鈴木)=日本におけるコンビニの実質的な創業者
通井 富士夫(通井)=川崎大学大学院ソリューションビジネス研究科教授(流通ソリューション学)
伊藤 七士(伊藤)=CVSテレビアナウンサー
こんにちは。今日は小売店舗における最大級の課題である発注にフォーカスし、小売業基幹システムで稼働する発注機能の精度向上について、この分野の専門家の先生方に討論していただきます。先ずは新進気鋭の研究をしておられるテスク大学の東海いずみ先生に自己紹介を兼ねて発注精度向上に対する最近のご研究をお話いただきます。
初めまして東海いずみです。今日は小売業基幹システムに関する研究で、過去に輝かしい成果を上げておられる斉場先生や通井先生と同席できることを大変光栄に思っています。
さて、発注精度向上に関する考えを述べる前に、基幹システムの在り方が議論されなければならないと考えます。つまり、IoTをフル活用して発注精度向上を達成するには、必要な情報が基幹システムに集約されて発注を支援することが必要と考えます。この様な状態が実現した上で発注精度を向上させるものは的確な数値支援であり、実証実験でも良好な結果を得ています。
なるほど、発注精度向上の一丁目一番地は基幹システムへの情報集約なのですね。次に、長らくコンピュータに携わり流通小売業や多方面の分野を研究しておられる、情報鎖輪大学の斉場先生にご発言いただきます。
どうも、斉場です。若い東海先生の後に紹介されるとは後塵を拝すようで些か気を削がれますが、東海先生のご意見は厚みが足りないと存じます。小売業における発注精度向上に対して基幹システムレベルの改善に着眼したのは良いことですが、さらに踏み込んで物流全般の改善に手を付けることが常識なのです。我が国において最大最多のチェーンストアであるコンビニ企業は、物流にメスを入れて精度を向上しました。また、狭義の発注精度向上に関しては、このコンビニ企業の実質的な創業者である鈴木氏が仰っている「在庫責任を負う者が発注権限を持つべきだ。」が言い表しています。つまり、どのようにするかでは無く誰がするかが重要なのです。
いきなり討論に入りそうですが、3先生のご意見を伺ってからにさせて頂きます。次に米国巨大コンピュータメーカーの向こうを張って我が国のコンピュータ開発を先駆けた川崎大学において、長年に亘り流通システム研究を続けておられる通井先生です。
只今ご紹介に預りました通井でございます。私は国営放送でも放送された日本のコンピュータの先駆けに携わり、日本の情報化に少なくない貢献をした者です。私が発注精度向上に関して効果があると感じているのは、発注先との連携をIT利用で深くすることであります。
通井先生は選挙演説風になることで有名ですので、初めて視聴される方は少々鼻白むと思いますがご寛容ください。先生方のご意見を纏めますと、発注精度向上機能の種類は、基幹システムへの情報の集約、物流全般の設計、発注先とのIT連携の3つということですね。それでは討論を始めてください。
基幹システムのクラウド化が発注精度向上を実現するか
斉場先生の仰ることは正論なのですが、物流全般の改善を行うには莫大な費用と長い期間を要するので、企業戦略としての長期ビジョンとしては成り立ちますが、早急に成果を出したい企業にとっては採用が困難なのです。
しかしですね、コンビニ企業では取引問屋を集約して長期継続的取引を条件に物流システムを構築し、ドミナント出店を並行することにより多頻度小口物流を行い、欠品のない発注精度向上を実現しているのです。
多頻度小口物流により発注時の売上予測期間を短縮し、発注時の売上予測ミスを低減したに過ぎないですな。結果的に多頻度少量納品は商品受領から陳列に至る作業頻度を増加させて、店舗生産性を低下させ、店舗オーナーに加重労働を誘発していることは表立ってはいませんが事実でもあるのですぞ。
通井先生に感謝します。店舗オーナーへのしわ寄せが社会問題になっているように、低労働生産性が成り立つのはフランチャイズ・チェーン方式であるからで、レギュラー・チェーンでは企業成長が望めません。私が申し上げたいのは、業務の集中化と標準化で効率化を図り、自動化を通じて省力化を実現する事なのです。このためには、同業他社での実績を持つ基幹システムをクラウドで利用する事が最短距離だということなのです。クラウド以外の方法ですと導入企業の独自仕様がまかり通る様になり、社内の変化反対勢力が効果のあるシステム仕様を改悪してしまうのです。
東海先生の御説が正しいのであれば、短期間で発注精度向上が実現しそうですが、通井先生のご意見を伺います。
斉場先生のコンビニ事例は、鈴木さんがCEOの企業でのみ実現が可能であると考えます。現に競合他社では行っていません。そもそも、鈴木さんがノウハウを公開しているということは、他社には真似ができないと見越しているのでしょう。真似ができないシステムを真似することは意味がないですな。そこへ行くと東海先生の説は中小レベルの小売業でも導入可能ですし、効果が発揮される期間も短いと言えますな。
発注精度を向上させる基幹システムのポイントは何か
確かにドミナントを重視した鈴木方式に比べて、他社はとにかく出店を優先したので専用ベンダーとして物流全般の改善に組み込むことができなかったですし今後も難しいでしょう。では、東海先生にお聞きしますが、発注精度を向上させる基幹システムのポイントについての見解は如何ですか。
昨今の量販型小売業における発注は、マニュアル方式と自動方式があり基幹システムは両方に対応している必要があります。そして、マニュアル方式では発注者に考えてもらう項目は最少にする、つまり本部のノウハウを持った商品担当者が発注に関するパラメーターを、網羅的な情報を見ながら決定できるようになっていることを要求します。多くの店舗は発注作業を短時間労働者に任せる事が多く、短時間労働者は短期間で辞めてしまう場合が多いので、スキルを持つことを期待せず単純労働に設計して労働生産性と精度向上を両立させることが必要です。自動発注に関しては、商品特性に合わせた発注数量決定方式を持ちながら、パラメーターも自動的に調整できることを要求します。補足すると、パラメーターは過去の売上実績から推測する直近の売上予測数を加味した在庫であることが望ましい事を私は研究から導き出しています。これらが、発注精度向上に必要な基幹システムのポイントです。
さすが新進気鋭の研究で有名な東海先生です。舌鋒も鋭く弁舌もさわやかでしたので、内容もさることながら一々納得して論理に引き込まれてしまいます。勢いついでに未来像も語っていただけますか。
発注精度向上の未来像と基幹システムの関わり
コロナ禍により加速度を増した一般消費者の購買行動の変化は、購買におけるEC比率を一層増加させると共に店舗購買の比率は漸減するでしょう。ですが、店舗における買い回りの楽しさを享受する消費者層は一定数の維持が予測できます。つまり、リアル店舗はデジタル技術利用による購買の効率性を追求しなければならないですし、ネット消費においては思い掛けない商品に出会えるといった楽しさを提供する必要があります。更に言えば、ECであっても店頭在庫をピックアップして配送したり、店頭で渡したりするような多種多様な形態が逓増すると予測します。つまり、消費者購買の大半を担ってきた店頭販売が比率を低下するなかで、適正な在庫の確保が要求されますが、コンビニの様な高コストオペレーションでは無く、効率的な方式で継続できる方法が要求されます。この様な環境の変化に対する発注精度の向上を実現するには、益々基幹システムとの連携が深化しそうです。先にも申したように、適正在庫の維持が主要課題ですので、発注時点の理論在庫把握が正確であることを要求します。そのためには、迅速かつ的確な計算処理が欠くべからざる機能なのです。
東海先生、ありがとうございます。続いて斉場先生から自動発注における発注精度向上のお話を頂きます。
僕はコンビニの業務運用が専門ですのでコンビニにおける自動発注について話をします。先の鈴木氏は自動発注に関しては否定的だったので、自動発注は行っていないと聞いていますが、グロサリー系に関しては売上予測から発注推奨数を算出して発注画面に表示しています。しかし、発注者が確認をして初めて発注に繋がるので自動発注ではありません。そして、この発注推奨数の算出にAIを利用しているようです。正に、発注精度向上の未来像はAIが担っていると言っても過言ではないと思います。
斉場先生、有難うございました。本日は3人の先生方から発注精度向上についてご高説を伺いまして、今後の業界発展に大いに参考になるお話を伺いました。これで、討論会を終わります。