小売業のグローバルはニセモノか?本物か?
日本国内の小売業で、均一価格(100円等)ショップと家具のカテゴリーで先頭を走っている両企業はグローバル化に積極的なのですが、決して平たんな道のりであった訳ではなく、その苦労を次のように語っていると伝えられています。
「消費者が飽きやすいのは日本人だけかと思ったら、そうではありませんでした。新興国、先進国の差によらず、海外でもまったくそうなのです。たとえばアフリカでも商品はよく売れますが、やはり消費者はすぐに飽きてしまいます。」(均一ショップ創業者)
「問題は、日本では競争が少ないことです。米国のように競争が激しいと価格が下がり、品質や機能が向上します。続々と新しい商品が出てくるわけです。」(家具チェーンストア創業者)
国内の競争が激化しているから海外に新たなマーケットを求めてグローバル化を推進する企業が多いのですが、海外には競合が無いのではなく、日本と同等かそれ以上に激しい競合に晒されるのです。然は然り乍ら、彼らは何れも避けて通れない選択肢としてグローバルを推進したのです。
一見単純なようですが奥深い小売業のグローバルに関する考え方を物語形式で解説します。
「小売業はドメスティック」とはグローバルに影響
【登場人物】(すべての組織・人物はフィクションです。)
いずみ・・・・スーパーマーケット「チェーンズ」の一般食品MD
マスター・・・ワインバー「テロワール」のマスター
オーナー・・・ワイン専門店「セパージュ」の店主
スーパーマーケット「チェーンズ」では、業界他社に比べて多額の教育投資を通じて社員育成に力を入れています。今日も著名な講師を招いた『小売業におけるグローバル化』の理論研修が有りました。
いずみもこの研修に参加したのですが、「チェーンズ」の実態に対して研修内容が大きく乖離しているようであったのと、理論体系が腹落ちしなかったので講師に質問をしたのですが、回答を聞いても十分な理解ができなかったのです。そこで、いずみはチェーンストアのOBで、卓越した理論家の「テロワール」のマスターに教えを請いにT駅にヒッソリと佇むワインバーに足を運んだのです。
こんばんは!いずみさん。
こんばんは。
あら、オーナーもいらっしゃったのですね。ラッキー!
いずみさんに喜んでいただけるのはとてもうれしいですね。
ワインのことなら何でも承りますよ。
オーナーは恭しく立ち上がり、右手を腰の左に当てて深々と芝居がかったお辞儀をしたのでした。
ワインは次の機会に聞きますが、今日は小売業のグローバルについてお聞きしたいのです。
随分と大きな題材ですね。
しかし、日本の小売業は海外企業に比べて海外での出店をしている企業は限られています。
先ずは講義を滑らかに進めるために、明るく鮮やかなピンクの色調に、輝く琥珀色が溶け込んだシャンパーニュで喉を潤したらいかがですか?
語りながらストローグラスに注ぎ、繊細な泡立ちを確かめていました。
大衆がイメージする小売業のグローバル
確かに大衆がイメージするグローバル小売業とは、海外に出店するチェーンストアであるのだけれど、販売のグローバルとは別に購買のグローバルもありますよ。
今日の研修でも、欧米の小売業は大規模になり国内市場において寡占状態に近いシェアを獲得すると、売上増加が見込めなくなった市場からアジアやラテンアメリカ市場へ進出した事例を教えていました。
大規模小売業は販売力に物を言わせて、一括大量発注により競合他社が取り扱っていない品揃えと低価格で差別化したのです。
当店はワインとのペアリングで差別化しましょう。先ずは、味わっているシャンパーニュに合わせて、マスカルポーネ・チーズ・ソースのニョッキをどうぞ。
マスカルポーネの上品な甘みとコクをこのシャンパーニュのほんのりミントのような爽快さが引き立て美味しいです。
ところで、日本で海外出店をした小売企業は少ないと思うのだけれど、前から国際化は進めていなかったのですか。
そうでもないですね。
1960年代に海外渡航自由化により日本人観光客需要を狙って、日本の百貨店が進出し、1980年代のバブル経済時に台湾をはじめとしたアジアへ、スーパーマーケットなども進出しましたね。
でも、今の日本の小売業は、一部のみが海外出店しているだけですよね?
どうしてなのでしょう?
入念な現地市場調査に基づく戦略や事業計画が杜撰だったと言われていますね。
また、日本の卸売企業のような高機能の仲介者との取引に慣れ切っていた小売業が、日本型にこだわったために高コストになり、販売価格が上昇して競争力が低下し、顧客を獲得できなかったのです。
正に『小売業はドメスティック』であることを知らなかった結果なんですよね。
多くの日本の小売企業が海外から撤退したのは、海外店舗の運営が思ったより困難だったこともあるのですが、欧米に比べて日本では企業規模が小さくても小売業として生き残れたので、海外における店舗運営で苦労をして企業規模を拡大する必要が無かったとも言われていますね。
実際は売場を席巻している小売業のグローバルとは?
しかしですね。
海外に進出して売上を創出する作戦が上手くいった日本の小売企業は一部だけれど、仕入に関しては大半の小売企業が海外から商品調達しているから、必ずしもグローバルが進んでいないわけではないのですよ。
そうですよね。
『チェーンズ』でも多くの商品を海外から調達して仕入面のグローバルは進んでいます
日本人は国産に拘る傾向があるけど、食品以外に関してはこだわりが薄れていますね。
均一価格小売店やホームファニチャーそしてアパレルをリードしている小売企業は、売場に陳列している商品の大半が東南アジアを中心とした海外からの開発輸入商品です。
今、マスターが言った開発輸入商品とは、私たちが知っている輸入品とは違うのですか?
僕たちが使っている輸入商品の事を直接輸入といって、商社や卸売などの仲介を通さず直接海外メーカーから調達を指しています。
これに対して小売業が自ら企画開発し、自らのリスクで海外メーカーに仕様書により製造を依頼し、材料や運搬・貯蔵などを独自に計画して輸入販売すること開発輸入と言っています。
材料や製造のコストを抑えれば、輸入コストが掛かっても国内生産より原価を低くできるのです。
低価格や自社企画による類似品が無いので差別化が可能なのです。
故に、国内の競合に優位性を保つために直接輸入や開発輸入の商品が売場に増えているのはいずみさんも良くご存じですよね。
他にも小売業のグローバルが表れている分野があるのですか?
いずみさんも気づいていると思いますが、外国人従業員の雇用割合が増えているといった側面もグローバルと言ってもいいと思いますよ。
言われてみれば『チェーンズ』でも、総菜部門やプロセスセンターにアジアを中心とした外国人が増えています。
小売業におけるグローバル策の将来
いずみさんは夢中になっているのでお腹が空いているのではないですか?
今日は生きの良い『氷見の寒ブリ』を日比野市場の場外で見つけたから買い求めました。
もちろん、刺身も良いのですが照り焼きにしてジュヴレイ・シャンベルタンと合わせましょう。
フランス・ブルゴーニュ・コートドニュイの銘醸地ジュヴレイ・シャンベルタンの赤ワインはパワフルで男性的と聞いたことが有るけど、ブリ照りと合うなんて。マスターはやっぱり天才ね。
いずみさんのお褒めのお言葉は、ちょっとした勲章をもらったような喜びですよ。
ところで、小売業のグローバルの『売り』を求めた海外出店は一部を除いて停滞しているけど、『仕入』の面と『人(労働力)』の面では行き渡りつつあったのが、コロナ禍がブレーキを掛けたようになってしまったよね。
この先はどうなるのだろうか…
パンデミックと言った特殊な事情により、仕入面や労働力面での停滞はあるのですが、日本でも大衆の価格に対する志向が最も強いことを考えると、海外からの調達がこれまで以上に伸びるのは避けられないでしょう。
でも仕入面だけではニセモノのグローバルと言わざるを得ず、問題は海外への進出です。
売上と仕入は切り離せないのですか?
仕入面の規模の優位性は日本国内のみの販売では欧米小売企業に劣りますね。
生き残るための海外進出は本物のグローバル化に避けて通れない道です。
その先に小売業のホンモノのグローバルがあるのではないでしょうか?
日本の小売業がホンモノのグローバル化になるには何が足らないのかしら?
一言で言えば『生産性』ですね。
つまり、日本の小売業労働生産性は米国の60%程度でしかなく、イオンや7&Iの大手はウォルマートに肩を並べる労働生産性なので、中小小売業者が大きく足を引っ張っていると言われています。また、イオンや7&Iも販管費率がウォルマート等に比べて高いので、荒利率を高域に設定しないといけないから、価格競争力が削がれています。
良くも悪くも、日本には卸売業といった高機能な仲介者が存在しているので、生産性の向上を阻害している反面、海外からの小売業の進出が阻止されている実態もあると思うね。
結局、日本の小売業もガラパゴス化して、『ガラ小』と呼ばれて衰退するのかしら…
……
いずみの陰気なジョークは、3人の晩餐会をお通夜みたいにしたのでした。
【次回に続く。乞うご期待!】
いかがでしたでしょうか?
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2022/4/28