卸売業の受発注業務の効率化~理想と現実

卸売業の受発注業務の効率化~理想と現実

本ブログでは、卸売業の受発注業務の効率化と、よくある「理想」と「現実」のギャップをご紹介します。

すべての受発注をEDIEC経由の受発注に移行できている、そのためのマスタ準備や取引先交渉もできている、そんな企業の方にはいまさらの情報かもしれません。

 

しかし、何かしらの情報が不足し、「受発注業務の最中に手が止まることがある」、そんな企業の方、基本的には「商品を仕入れ、そのままの形で販売する卸売業」の方には、何かしら参考になるはずです。

皆さんの受発注業務を理想に近づけるお手伝いになれば幸いです。

卸売業の理想と現実

「できるだけ高く販売し、売掛回収はできるだけ早く」、「他社より安く仕入れ、買掛支払いはできるだけ遅く」、「在庫は持たない」

というのが流通業の理想的なビジネススタイルです。

小売業は、かなり近いスタイルになっていますが、同じ流通業でも、消費財を扱う中堅中小の卸売業ではなかなか実現が難しいのが現実です。

地域密着、自社配送メイン(最近は3PLも増えてはいますが)、スピーディーな納品対応、が要求されるケースが多いためです。

 

最低限の在庫を持たなければ、スピーディーな商品提供はできません。

在庫を持ちすぎれば、キャッシュフローが圧迫され、ロスも増えていきます。

だからといって、全てメーカー直送に切替できるかといえば、納品までに時間がかかったり、小口配送はメーカー直送では対応してもらえなかったり、といった事情もあります。

 

となれば、できるだけ短いスパンで商品を手配し、在庫期間を短くして、納品すればよいわけです。

回収と支払に大きなズレは発生しませんから利益の最大化が図れます。

仮に「高回転受発注」とでも名付けて、本ブログのなかでは通常の受発注業務と線引きをしていきます。

 

では利益を最大化するための「高回転受発注」業務はどうすればよいのか?をこれからご説明していきます。

受注・発注どちらから手を付けるべき?

中堅中小企業が「高回転受発注」を行う前提として、最初に受注業務の改善を先行する必要があると思っています。

発注も当然大切なのですが、受注業務が忙しい、または大変だということは、得意先の注文をさばくことに時間を割かれて、受注情報がなかなか正確に登録されない状態ということです。

 

この状況では、なかなか発注業務に人を割り当てることができませんし、もし人を割り当てても、不正確な情報をもとに発注をしても意味がないからです。

まずは受注業務の改善を先にやっていきましょう。

受注業務の現実

受注業務の現実

はじめに受注業務の手前の流れを確認しましょう。

どのような業種でも受注の前に見積という行為があります。

事前に見積情報を取り交わすことで、得意先と商品や単価について合意をしておくわけです。

 

リピート注文が多い商品は、単価や掛け率での取り決めが多くなります。

逆に商品の組み合わせで見積もりするような商品の場合は、見積(案件)単位での取り決めが多くなります。

受注の話なのになぜ見積の話が最初にくるのか?と不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし皆さんが思っている以上に見積情報が共有されていない卸売業は多いのです。

イマドキの販売管理システムなら、どの製品でも見積機能くらいは存在します。でも使っていないのです。

見積書が地味である、自由に編集できないなど利用しない理由はいろいろあるようですが、あくまで会社として提出した見積もりですからシステムにも登録すべきと思います。

 

リピート注文が多い商品を販売している会社にとっては、とても便利で重要な機能だと思うのですが、単価登録で悩んでいる企業はとても多く、見積単価を共有していない方が多いように思うくらいです。

この見積情報非共有問題は、企業にとっても入力担当者にとっても厄介です。

注文が来るたびに、入力担当者の手が止まり、確認するためには営業担当者含めて無駄な時間がかかるからです。

受注業務の理想

 受注業務の理想

順番①単価登録

販売管理システムに限った話ではなく、最初に情報に触れた人が、システムに登録するのが一番正確でスピーディーです。

今回のケースであれば得意先との単価合意を得られた時点で営業(内部統制など気にするのであれば承認を1つ通す)が登録すれば、解決するのです。

販売管理システムの世界でいえば、いわゆる「得意先別商品別売上単価マスタ」を登録すればよいわけです。

 

順番②注文情報の正規化

自社の単価登録がクリアされれば、次は得意先の注文書に商品名、単価を入れてもらうようにはたらきかけましょう。

見る方によっては、「何を当たり前のことを」、と思われるかもしれませんが、商品名、数量、単価を正確に記載してくれない得意先は想像をはるかに超える雑な注文をしてきます。

 

順番③注文情報の(自動)取込

それでも、雑な注文が減らないとしたら、答えは1つ、そう「EC」化です。

相手が商品も数量も単価も確認してくれるわけですから、何も悩む必要はなくなります。

 

しかし、BtoBECを採用しようという卸売業がとても少ないのです。

「得意先が使ってくれないと思うから」「単価のメンテナンスができていないから」というのがよく聞く理由です。

 

なぜ得意先が注文しないと思うのか?、単価のメンテナンスができていないなら、ECでもリアルでもクレームにならないか?とベンダー目線では思うのですが。

ECを利用すれば少なくとも受注入力をする必要はなくなるわけですから、単価だけはキチンとメンテナンスをすればよいわけです。

 

EC化は推進すべきですね。ここで空いた時間や人員を発注業務に費やすべきです。

発注業務を効率化するためには?

発注業務を行う組織のスタイルは

  1. 同じ部署、担当者が受注も発注も行う
  2. 「受注担当部門」「発注担当部門」を分ける

2つが考えられますが、「高回転受発注」を行うのであれば2の独立部門スタイルを選択した方がよいと思います。

単に受注数量だけを都度発注するならともかく、「高回転受発注」を行うには、複数の受注を取りまとめ、最短で納期交渉・価格交渉を済ませる必要があります。

 

受注状況から時間的に何を優先して発注すべきかを判断する能力、直送や発注ロットがギリギリの際の交渉能力なども必要だからです。

受注業務の締め切り時間に追われている人よりも、集中して「発注担当部門」が行った方がスムーズだと思いませんか?

発注・納品パターンと特徴

次に商品の発注納品パターンは、

  1. 倉庫に在庫する商品≒「在庫品」

→折を見て、補充発注し倉庫に保管する。

  1. 都度発注する商品≒「受発注品」

→在庫は持たず、注文都度で発注し、倉庫に一時的に保管して得意先に出荷する。

  1. メーカーから直送する商品≒「直送品」

→在庫は持たず、注文都度で発注し、メーカーが得意先に出荷する(倉庫を経由しない)。

3つが主に考えられます。

 

1~3の特徴をキャッシュフロー、納品速度、配送コストで比較すると、

・キャッシュフロー:「在庫品」が損をし、「受発注品」が真ん中で、「直送品」がお得。

・納品速度:「受発注品」が遅く、「直送品」が真ん中で、「在庫品」が早い。

・配送コスト:「直送品」が(基本的には)高く、「受発注品」が真ん中で「在庫品」が安い。

となります。

 

となれば、理想は全てメーカー直送で商品を手配することです。

倉庫は不要ですし、不良在庫のリスクや資金繰りの悪化もなくなります。

しかし実際は、在庫ゼロでは即納は難しいですし、メーカーも小口配送はなかなか受けてくれません。

 

また得意先としても、注文した商品がバラバラのタイミングで納品されてくるため、迷惑でしょう。

よって実際には、それぞれの方法をうまく使い分けるしかありません。

発注業務の現実

受注業務の現実

しかし、発注業務でどこまで効率化や原価低減に気を使っているかといえば、まずは手配することに精いっぱいというのがよく聞くお話です。

社内の受注登録が遅い、得意先が注文の締め時間を守ってくれない、など様々な理由で発注情報を確定できないからです。

 

また経費削減か、時流に乗ってか、わかりませんが、自社倉庫から委託倉庫に切替をしているお客様のお話は最近特に増えています。

しかし倉庫機能を外部に出しただけで在庫情報を連携していない会社もかなり多くなっています。

在庫情報を連携しないということは、在庫引当ができないわけですから、ピッキングが終わるまで在庫切れに気づかない、などということが発生します。

 

まだまだ、発注業務に集中できない理由はありますが、こんなちょっとした事例だけ見ても、全体を見て仕事をするというより、追いかけられて仕事をしている感じがしませんか?

それでも発注専任かつ能力の非常に高い人ならまだ集中できるでしょうが、受発注兼任では、終わらせることが精いっぱいとなってしまうと思います。

 

受発注兼任体制になってしまう理由の一つには、販売管理システムが兼任を許容するような作りになっていることもあります。

効率的に一人で何でもできるように機能を強化してきた結果、受注担当者が「受注入力をしながら、同時に受発注品や直送品の発注ができる」ようになったりしているからです。

 

一人が受注も発注ができるというのは、一見すると効率的ですが、在庫品以外の注文は毎度注文書の発行入力が必要なので、発注毎度手が止まります。

結果としてすべての登録が終わるのに時間がかかるので、全体を把握するタイミングが遅くなるわけです。

 

さらに個々人が五月雨に注文を行うということは、全体の発注状況はわからない状態で、仕入先に個別に納期確認をするわけですから、同じ商品の注文が複数あったら、社内でも同じ仕入先に何回も連絡する手間がかかりますし、仕入先の担当者も手間がかかります。

 

少しずつの手間の積み重ねですが、自分たちにも負荷がかかり、仕入先にも負荷がかかったうえに、手配が遅くなってしまいます。

さらに発注済なのですから、その後原価低減をする余地もありません。

「高回転受発注」業務をしていかないと、考える時間をキープすることもできなくなるということです。

発注業務の理想

受注業務の理想

発注担当部門やその担当者は、商品を早く、安く、正確に調達(配送)を行わなくてはいけません。

「得意先と倉庫、メーカーの物理的な距離を把握」し、「商品の数量や、納品希望日を考慮」し、「最適な発注(「在庫品」「受発注品」「直送品」の手配方法の都度切り替え含む)を行う」ことで、スピード・効率・利益を最大化することです。

 

そのためには発注情報が早期に集約されなくてはいけません。

これが冒頭にお伝えした、受注業務の改善が優先という話とつながります。

 

順番①受注情報登録の高速化

発注情報を集約するには、ともかく早い段階で受注情報を登録し終えることが必要です。

方法については【受注登録の理想】をご確認ください。

 

順番②発注情報の集約

受注情報の登録とともに、発注情報が作成されている必要があります。

「受注登録と発注登録を一緒にすると効率が落ちて作業が遅くなる」と【発注業務の現実】でお伝えしましたが、それは同じ受注担当者が発注情報を都度作成するのは非効率ということです。

 

例えば、テスクの販売管理システムGROWBSを使った場合は、商品マスタに「在庫品」「受発注品」「直送品」のフラグ設定が可能で、受注登録が終わると発注予定情報が自動作成されるわけです。

 

順番③発注情報の精査・原価低減案の策定

発注予定情報は、受注伝票が登録されるたびに積みあがってきますので、状況を見ながら仕入先に正式発注前の納期交渉や、複数の発注情報を組み合わせて特価交渉も可能です。

また商品の物量を見て、倉庫出荷するよりも、直送した方がよければ、ピッキング前に直送発注に切り替えたりすることもできます。

 

「在庫品」についてもリアルタイムに在庫引当され、補充発注は適正在庫から不足した商品を一括で発注が可能です。

同時に「在庫品」「受発注品」「直送品」の発注を同時に確定することも可能ですので、全体の発注状況を一目で確認できますし、仕入先への連絡は最小限で済みます。

【まとめ】卸売業の受発注業務の効率化~理想と現実

いかがでしたでしょうか?「理想」と「現実」としたものの、以外と現実に近い理想だと思いませんか?

ただし、

・受注登録の高速化なくして、発注業務の効率化、改善は難しいこと

・受注登録の高速化は発注業務の効率化するだけでなく、原価低減につなげなければ意味がないこと

もご理解いただけたと思います。

 

販売管理システムの機能も大切ですが、組織の作り方やその考え方まで変えていかないと、なかなか理想の姿には近づけません。

「受発注業務の効率化」に悩まれていらっしゃるのであれば、一度本格的に検討されてはいかがでしょうか。

皆様のお役に立てたなら幸いです。